離婚の原因は様々
当事務所は、現時点で(2021年2月3日)那珂川市に唯一ある法律事務所であるため、日々、様々なご相談をいただくのですが、当然、離婚の相談についても非常に多くのご相談をいただいています。
離婚についての相談である以上、なぜ離婚したいと思ったのか、なぜ離婚したいと言われているのか(別居されてしまったのか)という離婚原因については必ずご質問することになります。
その質問に対する回答としては、不貞行為をされた、DVを受け続けていた等という、離婚したいと考えるのは当然と思えるようなご回答もある一方、ご相談者様からの話のみを聞くと、そのような理由で別居されてしまうのかというような事情もあります。
ご依頼者様のプライバシーや弁護士の守秘義務の関係で、具体的な内容をそのままお伝えすることはできず、あくまで架空の内容にはなりますが、例を挙げるとすると、「いつも妻は、自分がお風呂に入る時にバスタオルを準備してくれており、その日は準備してくれていなくて、少し注意したら翌日、別居された」というようなお話があることは決して少なくありません。
そのような事例で代理人としてお手伝いさせていただくと、その多くが、別居直前のできごとは、別居を決意する引き金にはなったが、それだけでなく、日々の不満等が色々出てくるというケースが多いです。
おそらく、日々の不満などが積もり積もって、いわばコップからあふれる直前の状態であるときに、それ自体は大きな出来事ではないことが起こり、それがきっかけで溢れてしまい、別居に至ったのだと思います。
こういった状況でいつも思うのが、「いつの時点で取り返しがつかない状況であったのか、いつの時点で話し合いなどを行えば、離婚という結論を回避することができたのか」ということです。
個人の感情の部分ですので、なかなか分からないなと日々感じています。
弁護士として、お手伝いする以上、圧倒的に離婚という結果で終わる案件の方が多いです。
今年で弁護士8年目ですが、一方が離婚したいという状況で代理人としてお手伝いした案件で、離婚にいたらず円満で解決したという事例は1件しかありません。
離婚という結末が良いというケースも少なくないですが(離婚したことで逆に当事者の関係性がよくなったというケースもあります。それは別の機会に)、弁護士として、離婚という結論を回避するために何かできることはないかなと考えたのですが、弁護士が間に入る=離婚を前提とした話し合いになるというイメージがほとんどだと思うので、なかなか難しいのかなと思っています。
もっとも、夫婦の関係が悪く、どうしたらいいかというご相談についても可能な限りお答えさせていただきます。
その際にはきっと、離婚を切り出された際の対応や離婚に関する問題(養育費、財産分与等)についてのご質問もあろうかと思います。
ご夫婦の関係に悩まれている方は是非ご相談ください。
豆をまいてトラブル??
今日(2021年2月2日)は節分になります。
小さい頃は、父が鬼役をしてくれて鬼(父)や家の外と中に、豆をまいて、その後、年の数だけ豆を食べてたはずなのに、豆を食べる手が止まらなかったなと懐かしく思います。
おめでたい行事の節分ですが、消費者庁では、毎年小さいお子さんが豆まきで使用する豆をのどに詰まらせる事故が毎年起きているとして、注意喚起を促しています。
福を呼び込むための行事で、お子さんに万が一のことがあってしまっては悲惨としか言いようがないため、小さいお子さんがいらっしゃるご家庭ではくれぐれも気を付けていただきたいです(消費者庁によると、6歳ころになると、小さい豆などでもスムーズに噛んだり飲んだりできるため、節分の豆など5歳以下のお子さんには食べさせないようにと記載されています。)。
話は少し変わりますが、節分では鬼に豆をまく(実際には「鬼役の人」にまく)のが風習です。
通常の豆まきは、家族間で比較的和やかにおこなわれるため特段問題にはなりませんが、最近は動画配信サイトなどで、再生回数を稼ぐために迷惑行為を行い、それを撮影している方も少なくないため、「道行く人に豆を投げてみた」などという動画を投稿するために、見知らぬ第三者に対して豆をまくというような行為がなされてもおかしくはないなと考えていました。
豆という小さいものであっても、第三者の身体に向けて投げる行為は、有形力の行使として暴行罪(刑法第208条)に該当しうる行為です。
単にふざけて豆を投げるというであっても、度が過ぎる場合には、警察に検挙されることも十分に考えられると思います。
また、お店などで豆をまいてお店に迷惑を掛けた場合には、威力業務妨害罪(刑法233条、244条)が成立する可能性もあります。
さらには当たりどころが悪く、ケガをさせてしまった場合には、ケガをさせる気はなかったとしても傷害罪(刑法204条)となってしまいます。
極端な例かもしれませんが、目に当たってしまい、失明ということになってしまたら、刑事罰だけでなく、多大な損害賠償を支払わなければならないという結果になる可能性もゼロではありません。
数年前であれば、こうした事例もあくまで、話のネタとして書いているだけで、実際には到底起こり得ないだろうなと考えていたと思うのですが、ここ数年、迷惑動画などのアップロードで様々な問題が発生している状況などを見ると、起こったとしても何ら不思議ではなく、情けない世の中になってしまっているなと感じながらこの記事を書いています。
弁護士に相談すべきとき
日々、様々な方からいろいろな法律相談をしていただく中でとても強く感じることが、ご相談者様のほとんどが、「何かトラブルが発生した後」に来られているという点です。
・契約書にサインしてしまったが、やっぱり契約をやめにしたいどうにかならないか。
・従業員を解雇したら相手が弁護士を付けて訴えてきた。
など、トラブルが起こってから弁護士に相談されるケースが非常に多いです。
こういった相談になる原因の多くが、法律事務所へのイメージ、具体的には敷居が高い。あまり相談に行っているところを見られたくない。
費用がかかりそう・・・というイメージから何かあってどうしようもない状態になったため、相談に来られているという現状があるのではないかなと思います。
もちろん、そういった状況で弁護士が入ることで、どうしようもない状況を改善することができる場合もありますが、弁護士でもどうしようもできないという状況になってしまっているケースの方が多いような気がします。
上記の例では、契約書については、内容を確認した上でサインしている場合には、ほとんどの場合弁護士でもどうすることはできません。
また、解雇についても、解雇が認められるような状況でないのにも関わらず解雇してしまった場合には、不当解雇という結論自体を変えることは難しい場合が多いです。
私個人としては(私以外の大多数の弁護士もそう思っていると思うのですが)、法律事務所には、「何かをする前」に相談に来て欲しいと強く思っています。
上記の例でも、契約書にサインしても良いのかということだけでなく、サインすることでどういったメリット、デメリットがあるのかといったリスクの説明をすることが可能になります。
このように、何か行動をする前に弁護士に相談することは「トラブルをどうにかする」ための相談ではなく「トラブルが起きないようにする相談であるため、まさに弁護士に相談することで解決することができるものだと考えています。
さらに、事前に相談することで、相談料、文書作成料などの費用がかかりますが、トラブルが起きてから代理人として依頼するよりも低額で費用を抑えられることも可能です。
講演などでお話しさせていただく際によく話すのですが、病院や歯医者に行く際に、予防接種や歯科点検をしておけば、病気や虫歯になってから病院に行くよりも、手間もコストもかからないのと同じように、何か起きる前に弁護士に相談してくださいとお伝えしています。
今日の内容を少しでも多くの人に見ていただき、何かする前に「一度弁護士に相談してみるか」と思っていただき法律相談にお越しいただける方が増えてくれたらいいなと思っています。
司法試験の合格発表
2021年1月20日は、令和2年司法試験の合格発表があったようです。
通常、司法試験は、毎年5月のゴールデンウイーク前後で4日実施され、合格発表は9月に行われるのですが、昨年のコロナウイルスの影響で、試験の実施が8月12日から実施され、本日合格発表となったとのことでした。
4日間という長丁場というだけでも大変で、私も8年前に試験を受けたときには緊張し、どのような答案を書いたかもよく覚えていない状況でした。
今回合格された方は、8月のとても暑い最中にコロナウイルスの感染の不安という非常事態と言ってよい状況の中、合格を勝ち取った方なので、自分が同じ状況だったら合格できただろうかと思うと、ただただ尊敬の念に堪えません。
司法試験の合格発表は、通常、法務省のホームページに受験番号が記載されるほか、東京の霞が関にある法務省前の掲示板や、全国の試験会場にて番号が掲示されるのですが、今年の合格発表は、これまたコロナの影響で、ホームページ上のみでの発表となり、掲示板に貼り出されるということはないようです。
私が合格した際は、東京に住んでいたため、法務省に行くか悩みましたが、落ちていたらどうしようという気持ちがあったため、自宅でホームページで番号を確認しました。
合格していることが分かり、家族にそれを伝えたら、せっかくだから法務省に行こうということになり、家族で法務省の掲示板の前まで行きました。
その際大学の合格発表などでは、受験生が自分の受験番号を指さして写真を撮るシーンなどがあると思いますが、なぜか、私ではなく父が受験番号を指さし、母がそれを写真にとるというシュールな状況だったのを記憶しています。
今年合格された方は、法務省にいって番号を確認するというような思い出ができないことは残念ではありますが、合格されたことはとてもよろこばしいことであるため、心からおめでとうございます、とお伝えしたいです。
また、今回の試験で残念ながら合格できなかった方も、令和3年の司法試験は、現状では今年の5月に実施されるため、すぐに気持ちを切り替えるのは難しいと思いますが、次の試験では合格できるよう頑張ってもらいたいなと思います。
寒さにご用心
令和3年1月7日から1月8日にかけて、福岡県を含む九州でも大雪となりました。
東北地方など大雪に慣れている地方の方は、大雪に備えた対策をあらかじめされていると思いますが、福岡の方はあまり大雪に慣れていないため、対策を取られていない方が多いと思います(かくいう私も何も対策をしておらず、車での通勤を断念しました。)。
大雪の際には、路面凍結による転倒事故や交通事故事故が多発します。
特に交通事故は、チェーンやスタッドレスタイヤなどを装着していない場合、ブレーキが効かず、大勢の車を巻き込んだ大事故になりかねませんので、冬用の装備をお持ちで無い場合、お車での外出は控えられた方がよいでしょう。
また、大雪でなくても、最高気温が氷点下となるような場合には、ご自宅で、凍結により水道管が破裂して漏水してしまう危険性があります。
特に、マンションにお住まいの方は破裂して、他のお住まいの方に被害が及んだ場合には、賠償問題にも発展しかねないので、注意が必要です。
インターネットで調べたところ、水を少しだけ出すようにすると、水道管の破裂が防げるようです。
また、マンションの賃貸の契約の際に火災保険にも入られている方は、水道管の破裂による水漏れの場合に保険の対象になるか否かを確認しておいた方が良いでしょう。
対象の場合、他の部屋の方の損失だけでなく自室の部屋の損失も補填される可能性があります。
大雪の際には上記のような事故だけでなく、体調を崩す方も増えると思います。コロナウイルスだけでも大変ですが、お体に気をつけて、皆さんが無事に生活されることを祈るばかりです。
新年のご挨拶
明けましておめでとうございます。
菰田総合法律事務所 那珂川オフィス支店長の弁護士の後藤祐太郎と申します。
これまで、日常で発生する法律問題についての弁護士としてのアドバイス等をご紹介させていただきましたが、今年より那珂川オフィスのことや、弁護士のことをもっと身近に知ってもらいたいと考えため、法律相談に限らず、日々の出来事などご紹介できればと思っております。
当オフィスのある那珂川市は、2015年(平成27年)の国勢調査により人口が5万人を越え、2018年(平成30年)10月1日に、那珂川町から那珂川市へと移行しました。現在も5万人を超える市民の方が生活しておりますが、2021年1月6日現在、那珂川市に存在する法律事務所は当オフィスのみとなっております。
仕事の関係でお会いする方からは、「那珂川に法律事務所があったのか」といったお声をいただくことが多々ありました(偏に私自身の営業不足でしょう。)。
法律事務所に相談することを検討されている方は、どんな法律事務所なのか、そこにいる弁護士がどんな弁護士であるかについて何もわからない状態で、ご相談に来られる方のほうが多いと思います。
そのようなご不安を少しでも解消し、もっと、当オフィスのことを知ってもらい、安心してご相談いただけるよう、日々のことなどを書いていきたいと思います。
【相談事例68】給付金の二重振込、自由に使っていいの??
【相談内容】
コロナウイルスの関係で1人あたり10万円の給付金がもらえるということで早速オンラインで申請手続きを行いました(妻と子供の3人家族です。)。
後日、通帳を記帳しに行くと給付金が入金されていたのですが、30万円ではなく倍の60万円が振り込まれていました。
明らかに二重振込だと思うのですが、市から振り込まれている以上、60万円全額を自由に使っていいのでしょうか。
【弁護士からの回答】
コロナウイルスの感染拡大により、国や自治体から様々な給付金や補助金の制度が創設されています。
もっとも、自治体も急遽大量の人に対して支給の手続きを行っている状況であるため、全国各地でご相談者様の事例のように二重給付がされている事例が多数ニュースで報道されております。
そこで、本日は、誤って二重に給付された給付金に関する法律問題についてご説明させていただきます。
1 入金処理がされる前について
自治体などが誤って二重に支給(入金処理)されてしまった場合、振込処理(入金記帳)前であれば、「組戻し」という手続きを利用することにより、誤って振り込んでしまった人が銀行に対し連絡することで、入金先の口座の名義人の同意なく振り込みを取り消すことができます。
これに対し、振込処理(入金記帳)がされてしまった後については、同じく「組戻し」という制度は使えるのですが、入金記帳後については、入金先の口座の名義人の同意が必要になります。
したがって、振込処理後に関しては、連絡先などがわからない振込先に対しては組戻しができなくなってしまうため、誤って振り込んでしまった場合には早急に組戻しの手続きを行ったほうがよいでしょう。
2 二重給付を引き出した場合の問題について
それでは、ご相談者様の事例のように二重給付であることを知りながらお金を引き出してしまった場合、どのような問題が起きるのでしょうか。
まず、誤って振り込まれた金額については、口座に入金されているものの、法律上口座の名義人のお金ではありません。
口座の名義人は、法律上の原因なく金銭を取得しているため、民法上の不当利得(民法703条)に該当します。
したがって、誤振込であること知りながら返金しなかったり、使い込んでしまった場合には、誤振込された金額に加え、返金するまでの利息も支払う義務を負うことになります(民法704条)。
もっとも、誤振込であることを知らずに引き出してしまった場合には、残っている金額(法律上「現存利益」といいます。)のみを返還すればいいのですが、誤振込であることを認識しないで使用するケースというのはあまり想定し難いため、誤振込であると気づいた場合には、直ちに入金者に連絡するのが適切です。
さらに、誤振込であることを知りながら、銀行の窓口で預金を引き出した場合には、法律上自分のものではない預金であるにも関わらずに、自分の預金であるかのように銀行員をだまして預金を引き出したことになるため、刑法上の詐欺罪(刑法246条1項)が成立します。
また、ATMで引き出した場合には、ATMは機会であり、だまされるということが観念できないため、最高裁の判例上、窃盗罪(刑法235条)が成立するという理解が確立されております。
したがって、誤振込であることを知りながら預金を引き出した場合には、窓口であってもATMであっても犯罪になってしまいますので、くれぐれもお控えいただき、誤振込であることを知った時点で早急に入金者に連絡するのが良いと思います。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
【相談事例67】従業員が支払った賠償金を会社に請求できるの??
【相談内容】
会社でミスをしてしまい、お客さんに損害を与えてしまいました。
会社からは、「お前のミスなんだからお前が全額負担しろ」と言われたため、私の方で、お客さんに対し、全額賠償しました。
私のミスなので私が支払わなければならないということはわかるのですが、会社が少しも負担しないというのは納得いきません。
【弁護士からの回答】
前回は、従業員のミスにより会社が損害を被った場合、会社は従業員に対して賠償請求は認められるものの、信義則により全額請求することはできないことをご説明させていただきました。
今回は、前回の事例とは異なり、従業員が、損害を与えた第三者に賠償した際、会社に対して負担を求めることができるのかという問題についてご説明させていただきます。
1 問題の所在(逆求償は認められるか)
前回、ご説明させていただきましたが、従業員が会社の事業に関し、第三者に損害を加えてしまった場合、被害者は会社に対し損害賠償を請求できるのですが(民法715条1項)、会社は、従業員に対して、被害者に支払った賠償金の支払うように求めることができます(民法715条3項。求償権といいます。)。
では、従業員が、被害者に対して損害賠償を行った場合、従業員は使用者(会社)に対して、求償することができるのでしょうか。
民法715条3項では、使用者から従業員への求償については規定しているものの、従業員から使用者への求償(逆求償といわれています。)については、何ら規定されていないことから、問題となります。
2 最高裁での判断
この、従業員からの逆求償が認められるか否かについて争われた事件があり、第1審では、従業員からの逆求償を認めたものの、第2審では、従業員が起こした賠償責任は、事業の際に行われたものであっても、不法行為を行った者である従業員が全額賠償する責任があるとして、逆求償を否定しました。
そして、この問題は、最高裁判所にて判断されることになり、令和2年2月28日の判決では、民法715条1項の使用者責任について、損害の公平な分担の見地から規定されたものであると判断し、使用者は、従業員との関係においても、損害の全部又は一部について負担すべき場合があると判断し、事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度で逆求償を認められると判断しました。
3 最後に
このように、従業員に行為により損害が発生した場合に、従業員と会社のいずれが負担すべきであるかについては、非常に複雑な問題となっているため、是非一度弁護士にご相談ください。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
【相談事例66】自分のミスで会社に大損害!全額支払う義務があるの??
【相談内容】
私は、とある会社で、主に商品の発注業務を行っているのですが、会社において、他に発注業務を担当している従業員が一気に退職してしまい、私のもとに膨大な発注業務の仕事が舞い込んできました。
連日夜遅くまで発注の依頼を掛けていたなかで、とある業者に対し、本来50個発注すべきところを、間違って、5,000個発注してしまい、大量の商品が会社に届くことになりました。
会社には仕入先業者に対する多額の代金支払等多額な損害が発生することになってしまいました。
会社からは、「お前のミスなのだから全損害を賠償しろ」と言われています。
ミスをしたのは私なのですが、全額私が負担しなければならないのでしょうか。
【弁護士からの回答】
労働事件という一般的には残業代請求や解雇の有効性を争うという案件が一般的ですが、従業員のミスによる損害の問題も少なからず存在します。
ご相談者様のように労働者側からのご相談のみならず、会社の経営者の方からのご相談も少なくありません。
そこで、今回は、従業員のミスによる損害賠償請求についてご説明させていただきます。
1 損害賠償請求は認められる?
一般に雇用契約では、従業員には、業務を行う義務を負っており、かかる労働義務を果たしていたとしても、従業員のミスにより会社に損害を与えてしまう可能性があり、法律上では、故意(わざと)または過失(ミス)により会社に損害を与えてしまったといえるため、会社は不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)権を有し、会社が被った損害の全額を賠償しなければならないとも思われます。
また、今回のご相談とは異なりますが、従業員が会社の事業に関し、第三者に損害を加えてしまった場合、被害者は会社に対し損害賠償を請求できるのですが(民法715条1項)、会社は、従業員に対して、被害者に支払った賠償金の支払うように求めることができます(民法715条3項。求償権といいます。)。
2 信義則による制限
しかし、会社(使用者)は、従業員を使って事業を行い、利益を得ているのであるから、かかる従業員のミスにより損害が発生した場合に、そのミスを全額従業員に請求することができるとすると、会社はいっさいリスクを背負わなくなってしまい、不公平になります。
そこで、最高裁判所第一小法廷昭和51年7月8日判決では、求償権の問題ですが、
「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。」
としており、諸般の事情を考慮して、求償権の有無を判断しています。
この最高裁の判断は、会社が従業員に対して直接損害賠償請求をする場合にもあてはまると言われています。
3 本件では?
ご相談者様の事例では、人員不足の状態になっていること、連日遅くまで1人で仕事をしており、業務過多の状態になっていることなどから、会社からご相談者様へ請求することができる金額は相当程度減額されることになると思われます。
もっとも、どの程度減額されるのかという点については、事実の認定や法的評価を伴う非常に専門的な問題であるため、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
【相談事例65】産まれた前後で大違い(養子の子と代襲相続)
【相談内容】
先日、祖父が亡くなりました。祖父には私の父を含め2人子どもがおり、私の父は祖父よりも先に亡くなっていました。もう1人の子(私の叔父)は存命です。
実は、父は祖父の実の子ではなく、私が産まれてしばらくしてから養子縁組を行っています。私には弟がいるのですが、弟は父と祖父が養子縁組を行ったあとに生まれています。
父が祖父よりも先に亡くなっているので、私は代襲相続人という立場になり相続できると思うのですがどうすればいいでしょうか。
【弁護士からの回答】
結論からお伝えすると、ご相談者様はおじいさまの財産を相続することができません。
今回は、養子の子が代襲相続人になることができるかという問題についてご説明させていただきます。
1 代襲相続
民法878条1項では「被相続人の子は、相続人となる。」と規定しており、2項では、「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき」は、「その者の子がこれを代襲して相続人となる。」と規定しており、代襲相続について規定しています。
この規定だけを読むと、ご相談者様のお父様はおじい様よりも先に亡くなっているので、ご相談者様も代襲相続人になるようにも思えます。
2 養子と直系卑属の関係
もっとも、民法878条2項但し書きでは、「被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。」と規定しており、被相続人の子の子であっても被相続人の直系卑属でない人は代襲相続人にならないと規定しています。
そして、養子縁組について定めた民法727条では、「養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる。」と規定しています。
すなわち、養子縁組を行った日に養子と養親(養親の血族)との間には親族関係が発生することになり、養子は養親の直系卑属になります。
しかし、民法727条では、養子と養親との間の親族関係については規定していますが、「養子の子」と養親との間の親族関係については何ら規定していません。
養子縁組をするときにすでに生まれている養子の子については、自らの意思に反して新たな親族関係が結ばれるべきではないとの理由から、養子縁組前に生まれた養子の子は、養子の親との間に血族関係はないと判断されています。
これに対し、養子縁組後に生まれた養子の子については、血族関係にある養子から生まれてきているため、養子の親との血族関係が認められると判断されています(大判昭和7年5月11日)。
これをご相談者様の事例でみると、ご相談者様は養子縁組をする前に生まれてきているので、養親(おじい様)との間に血族関係はなく、残念ながら代襲相続人にはなれません。
これに対し、ご相談者様の弟様は、養子縁組後に生まれているため、代襲相続人になれます。
生まれたのが養子縁組を行った前か後かということのみをもって、代襲相続人になれるか否かという非常に大きな問題に影響を及ぼすことになります。
もっとも、ご相談者様ご本人がおじい様と直接養子縁組を結んでいれば、子として相続人になることができます。
このように、誰が相続人になるのかという問題は、簡単なように見えて非常に複雑な問題があるため、相続が発生した場合には、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。