離婚後の持ち家はどうする?住宅ローンが残る戸建ての売却・居住・名義変更を弁護士が解説

離婚に際し、多くの方の懸念事項となるのが持ち家の扱いです。特に戸建ては、マンションとは異なり土地と建物の権利が分かれているなど、法的な整理が複雑です。今回は、売却の判断基準から、名義変更の注意点、ローン返済トラブルの防ぎ方まで、新しい生活を守るための持ち家(戸建て)の解決策を弁護士が解説します。
※なお、「マンションの財産分与」については本サイト内の以下の記事でご確認いただけます。
【離婚でマンションはどうなる?財産分与の注意点を弁護士が解説|オーバーローンや住み続ける場合の対処法】
第1章 持ち家の現状を把握する3つのステップ
持ち家は、夫婦の資産の中で高額でありながら、負債(住宅ローン)を伴っているケースも多い複雑な財産といえます。話し合いを有利かつスムーズに進めるためには、まず客観的な事実を確認することから始める必要があります。
1-1. 【ステップ1】土地と建物の名登記事項証明書義人を「」で正確に確認する
まず行いたいのが、持ち家の「名義」を正確に把握することです。「夫が購入したのだから夫の名義だろう」「たしか共有名義にしていたはず」といった憶測や曖昧な記憶は、必ずしも法的な実態と一致しているとは限りません。
まずは法務局で取得できる登記事項証明書(登記簿謄本)で持ち家の実態を確認しましょう。
特に戸建ての場合、建物は夫名義でも土地が夫の親の名義であったり、夫婦の共有持分になっていたりと、権利関係が複雑なケースが少なくありません。
誰がどれだけの権利を持っているかを正しく把握しておくことは、後の財産分与や売却の可否を判断する大前提となります。
1-2. 【ステップ2】住宅ローンの「返済予定表」で残高と契約内容を洗い出す
次に、住宅ローンの現状を把握します。銀行から定期的に送られてくる返済予定表やインターネットバンキングの画面で、現在のローン残高、完済予定日、金利などを確認しましょう。
また、単独ローンなのか、夫婦二人で組むペアローンなのか、あるいは一方が他方の連帯保証人になっているのか、契約形態を確認することも重要です。
ペアローンや連帯保証人になっていた場合、離婚したからといって銀行とのローン契約から外されるわけではありません。相手方との保証人関係を解消できるかどうかは、離婚後の生活にも大きく影響する重要な問題です。ローン契約に自分がどうかかわっているかを正確に把握しましょう。
1-3. 【ステップ3】不動産の一括査定を行い「今売ったらいくらになるか」を知る
現在の家の市場価値(査定額)も調べておきましょう。購入時の価格ではなく、「今売却したらいくらになるか」が重要です。
不動産会社などに査定を依頼し、現実的な売却予想価格を算出してもらいましょう。
この査定額と前述のローン残高を比較することで、持ち家を売却した場合にプラスが出るのか(アンダーローン)、借金が残るのか(オーバーローン)が明確になります。
この数字が確定してこそ、持ち家を売るべきか・住み続けるべきかの検討を始められるといえます。
第2章 戸建て特有の財産分与で知っておきたい基礎知識
マンションの財産分与に比べて、戸建ての財産分与には特有の難しさがあります。それは、土地と建物という異なる性質の資産が組み合わさっている点です。
2-1. マンションとは違う? 戸建ての資産価値評価の難しさ
マンションは、同じ棟内の過去の成約事例から相場を出しやすいという特徴がありますが、戸建ての場合、日当たりや道路からの距離、建物のメンテナンス状態など個別性が非常に強いため、査定額のバラつきが出やすい傾向があります。
また、建物は一般的に築年数とともに価値が下がりますが、土地の価値は市場動向によって上がることもあります。財産分与の額を計算する際、どの時点(別居時、離婚成立時など)の、どの評価手法を用いるかについて、夫婦間で意見が食い違うことも多く、客観的な説得力をもって相手方に対抗するには専門的な知見が必須といえます。
2-2. 土地が「借地」や「親名義」の場合の特殊なケースと注意点
戸建ての場合によくあるのが、土地が自分の持ち物ではないというケースです。
例えば「土地は夫の親の名義で、その上に夫婦の建物を建てた」という場合、土地自体は財産分与の対象外となります。しかし、建物は夫婦の共有財産となるため、離婚時にどちらかが住み続けるなら、土地の所有者である親との間で借地権や使用貸借の問題を整理・確認する必要があります。
2-3. 頭金を出してくれた親の援助は「特有財産」として守れるか?
購入時に一方の親から援助を受けた場合、その分は「特有財産」として扱われることが多いです。つまり、家の価値全体から親の援助額に相当する割合を差し引いた残りを、夫婦で半分ずつ分けることになります。
ただし、特有財産であることを主張するには、当時の振込履歴や贈与税の申告書などの証拠が不可欠です。「親がタンス預金から出してくれた」といった曖昧な主張では、相手方に「夫婦の共有財産だ」と反論された場合に、特有財産と認められない可能性もあるため、早めに客観的な証拠を確保しておくことが重要といえます。
第3章 離婚後の持ち家の選択肢①:家を「売却」して現金を分ける(換価分割)
離婚に伴う持ち家の扱いとして、実務上で推奨されることが多いのが売却(換価分割)です。家という不動産を現金化して分けるこの方法は、複雑な権利関係を清算し、互いの再出発を最もシンプルにする手段といえます。特に住宅ローンが残っている場合や、公平な財産分与を望む場合には、将来の不安を取り除くための有力な選択肢といえるでしょう。
3-1. 【メリット】将来のローン滞納リスクや連絡の必要性を完全に断てる
売却の最大のメリットは、夫婦間の経済的なつながりを完全に解消できる点です。家を売ってローンを完済し、残ったお金をきれいに分ければ、離婚後に「元配偶者がローンを払ってくれない」「家の修繕費を誰が持つか」といったやり取りが発生することもなくなります。精神的な決別という面でも、売却は有効な選択肢といえます。
売却を選択するメリットは、夫婦間の経済的なつながりを完全に、かつ物理的に解消できる可能性が高い点にあります。 家を売却して住宅ローンを完済し、諸経費を差し引いた残額を2分の1ずつなど納得のいく割合で分けることができれば、離婚成立後に「元配偶者がローンの支払いを滞納して、住んでいる自分が追い出される」「将来の修繕費や固定資産税をどちらが負担するか」といった、やり取りが発生するリスクもなくなります。金銭的な清算だけでなく、相手方と過ごした場所を手放すことが「精神的な決別」を促し、前向きな一歩を踏み出すきっかけになることも、大きな利点といえるでしょう。
3-2. 【デメリット】引越し費用や新居の確保など、当面のコストが発生する
一方で、住み慣れた家を離れることによる心理的な喪失感や、物理的な移動に伴う当面のコストが発生することは避けられません。 具体的には、不動産会社に支払う仲介手数料に加え、引越し費用、新居の敷金・礼金、新しい家具の購入費用など、まとまった支出が一度に重なります。また、お子さんがいる場合は、転校を避けるための通学圏内での住居探しがハードルとなる場合もあります。
3-3. 仲介売却と即時買取、どちらが離婚時の売却に向いている?
持ち家の売却方法には、市場で一般の買い手を探す「仲介」と、不動産会社が直接買い取る「買取」の大きく2つがあります。
仲介売却とは
不動産会社を通じて広く一般の買い手を探す方法です。市場価格に近い高値で売れる可能性がある一方、買い手が見つかるまで数ヶ月から半年以上の期間を要することもあります。「時間はかかっても、財産分与の額を最大化したい」という方に向いている方法といえます。
買取とは
不動産会社が自ら買い手となって、直接購入する方法です。価格は市場相場の7〜8割程度に下がる傾向にありますが、最短数週間で現金化が可能で、周囲に売却を知られるリスクも低いのも特徴といえます。「財産分与の額よりも、一日も早く離婚を成立させて新生活を始めたい」というスピード重視の方に適しています。
3-4. 戸建て売却時に見落としがちな「境界確認」と「契約不適合責任」
マンションと異なり、戸建ての売却で特に注意すべきなのが「土地の境界」と「建物の不具合」です。
隣地との境目が曖昧なままでは、買い手が住宅ローンの審査を通せず、売買が成立しないことがあります。また、古い戸建ての場合、売却後に雨漏りやシロアリ被害、配管の故障などが発覚すると、売主が「契約不適合責任」を問われ、多額の賠償金や修繕費を請求されるリスクも潜んでいます。
離婚後の新たな生活が始まってからこうした紛争に巻き込まれないためにも、売却前には確定測量を行って境界を明確にすることや、専門家によるインスペクション(建物状況調査)を受け、建物の状態を正直に開示しておくことが、自己防衛のための重要なステップといえます。
第4章 離婚後の持ち家の選択肢②:妻または夫が住み続ける
「子どもの環境を変えたくない」という理由で、どちらか一方が住み続けることを希望する場合、法的な権利関係の整理が必要となります。
4-1. 住宅ローンの名義人がそのまま住み続けるケース
夫名義で夫が住み続ける、あるいは妻名義で妻が住み続ける形が最もシンプルです。この場合、出て行く側に対して、家の価値の半分(ローン残高を差し引いた額)を代償金として支払うことで、公平な財産分与が可能になります。
4-2. 非名義人が住み続け、名義人がローンを払い続ける
「夫名義の家に、離婚後も妻と子が住み続け、夫がローンを払う」という約束を交わすケースがありますが、これはリスクが高い方法といえます。
一つは、銀行との契約違反です。多くの住宅ローン契約では「契約者本人が住むこと」が条件となっているため問題となる可能性があり、銀行の判断によっては一括返済を求められるリスクも否定できません。
もう一つは、元夫の支払いが滞った際、住んでいる妻や子が突然差し押さえや競売に直面し、家を追い出されるリスクもあります。
4-3. ローンの借り換えによる名義一本化。審査に通るための条件とは?
妻が住み続け、かつ名義も妻に変えたい場合、現在のローンを妻一人の名義で借り換える必要があります。しかし、銀行は、妻に十分な収入(ローンの返済能力)があるかを厳しく審査します。パート勤務や専業主婦の場合、単独での借り換えは困難であることが多いため、実家の親に連帯保証人になってもらうなどの対策が必要になる場合があります。
4-4. 親族間売買やリースバックという第3の選択肢を検討する
どうしても今の家に住み続けたいが、自分ではローンが組めない場合の一つの選択肢として「リースバック」という方法があります。これは、不動産会社や投資家に家を買い取ってもらい、その後は「家賃」を支払うことで賃借人として住み続ける仕組みです。所有権は失いますが、引越しの必要がなく、固定資産税の負担もなくなります。
第5章 住宅ローンが残っている(オーバーローン)場合の法的解決策
住宅ローンの残高が、現在の家の売却予想価格を上回っている「オーバーローン」の状態は、より慎重な判断が要されるケースです。売却しても借金が残るため、通常の不動産取引のようにスムーズに話が進まないことが多く、銀行との交渉や負債の分配について専門的な知識に基づいた戦略を立てる必要があります。
5-1. 売却しても借金が残る。不足分をどう補填し、誰が負担すべきか
家を売っても残る借金は、基本的にはローンの契約者(主債務者)が負うべきものですが、実務上は財産分与の協議において、他の預貯金などのプラスの財産と相殺して清算を図ることがあります。
ただし、ここで障害となるのが銀行の抵当権です。銀行は、住宅ローンが1円でも残っている状態では、担保となっている不動産の抵当権を抹消することを認めないのが原則です。そのため、不足分を自己資金で一括返済してローンを完済できない限り、通常の売却手続きを進めることは困難といえます。このハードルをどうクリアするか、あるいは「売却せずに維持するのか」を、夫婦それぞれの離婚後の収支シミュレーションを踏まえて検討する必要があります。
5-2. 任意売却のメリット:競売を避け、プライバシーを守りながら再出発する
自己資金での補填による一括返済ができず、かつ今後のローン支払いも困難な場合の救済措置として任意売却があります。これは、弁護士などの専門家が仲介し、銀行の同意を得た上で、住宅ローンが残ったままの状態で市場に近い価格で売却する特別な手法です。
裁判所の手続きによって強制的に家を売られる競売と比較して、以下のようなメリットがあります。
プライバシーの保護
通常の売却と同じ形式で行われるため、近所に経済的な事情を知られるリスクを抑えられます。
残債務の分割払い交渉
売却後に残った借金について、無理のない範囲での分割払いを銀行と交渉できる可能性があります。
費用の持ち出しが不要
売却代金の中から仲介手数料や引越し代の一部を捻出できるケースもあり、手元資金がなくても再出発の準備を整えられる可能性があります。
5-3. ペアローン・連帯債務・連帯保証人を外れるための銀行交渉の現実
離婚後のトラブルで深刻化しやすいのが、一方が他方の保証人になっている、あるいは共同で債務を負っている(ペアローン・連帯債務)ケースです。
「離婚届を出したのだから、銀行も保証人を外してくれるはずだ」と考える人がいますが、銀行にとって夫婦の離婚は内部事情に過ぎず、担保(保証人)を外すメリットはありません。そのため、単純な申し出は拒絶されるのが一般的です。
これを断ち切るには、主に以下の3つの方法があります。
1. 別の保証人を立てる
相手方の代わりの保証人として、支払い能力のある自分の親族などを立てることで銀行の承諾を得る。
2. ローンの借り換え
住み続ける側が、別の銀行で「自分一人の名義」でローンを組み直し、今のローンを一括返済する。
3. 売却による完済
持ち家の評価額がローン残高を上回る(アンダーローン)場合、家を処分した資金で債務そのものを消滅させる。
このペアローン・連帯債務・連帯保証人の問題を明確に整理せず、口約束などの曖昧な状態のまま離婚してしまうことはおすすめできません。数年後に元配偶者の支払いが滞った際、ある日突然、銀行から一括返済を求められるといったリスクを背負うリスクが残るからです。
第6章 後悔しないための「離婚協議書」と「公正証書」の活用法
6-1. なぜ口約束は裏切られやすいのか? よくある失敗パターン
「これまでローンの返済を欠かさず払ってくれていたから」「子どものためだと言えば納得してくれるはず」という一方的な信頼は、相手の再婚や失業、病気など、離婚後の生活環境の変化によって、容易に崩れることが多いのが現実です。口約束や私文書の離婚協議書の約束だけでは強制執行ができないため、いざ支払いが止まった時に相手方の給与差し押さえなどの法的手段を講じるまでに多くの時間と労力がかかってしまいます。
6-2. 強制執行認諾文言付き公正証書で住宅ローンの不払いに備える
金銭の支払いに関する合意は「公正証書」にすることをおすすめします。
特に強制執行認諾文言を入れておけば、相手がローンや代償金の支払いを怠った際、裁判を経ずに即座に銀行口座や給与を差し押さえることができます。現実的な対策としてだけでなく、心理的なプレッシャーになることで、将来的な不払いに対する心理的な抑止力として働くことも期待できます。
6-3. 登記手続きの期限を明記!「所有権移転登記」を確実に行うための条項
ローンが終わったら、持ち家の名義を相手方から変えるという口約束をしていても、いざその時になって元配偶者が非協力的だったり、連絡が取れなくなったりすると登記の書き換えができなくなってしまいます。
離婚協議書は公正証書で作成し、「〇年〇月までに登記手続きを行う」「協力しない場合は違約金を支払う」といった具体的な条項を盛り込むことが重要です。
第7章 離婚と不動産にまつわる「税金」と「登記」の落とし穴
離婚に伴う不動産の譲渡や名義変更には、思わぬ税金や法的な手続きが必要になる場合があります。これらを見逃していると、数年後に税務署から多額の課税通知が届いたり、いざ家を売ろうとした際に名義が変えられなかったりといった事態を招きかねません。
7-1. 知らないと損をする「居住用財産の3,000万円特別控除」の活用
所有している家を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、通常はその利益に対して所得税や住民税が課税されます。しかし、自分の住んでいた家を売却した場合は、利益から最大3,000万円までを差し引ける「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」という制度があります。
ただし、離婚して家を出てから時間が経ちすぎると適用されない、夫婦や親子間の売買には適用されない、などの要件や除外規定があるため、売却のタイミングや手続きには注意が必要です。
7-2. 財産分与で贈与税がかかる特殊なケース
原則として、離婚による財産分与で受け取った資産に贈与税はかかりません。しかし、以下のような場合、税務署から贈与税や他の税金を課せられる可能性があるため、注意が必要です。
分与額が多すぎると判断された場合
婚姻期間や夫婦の貢献度、その他の事情を考慮しても、分与された財産があまりに多額であると見なされると、その超過分に対して贈与税が課されることがあります。
不動産を渡す側にかかる譲渡所得税
不動産を財産分与として相手に渡す行為は、税務上「その時点の時価で相手に譲渡した」と見なされます。そのため、購入時よりも時価が値上がりしている場合、不動産を手放す側(家を出ていく側)に譲渡所得税が課せられることがあります。「一銭ももらわず家を譲ったのに、なぜ税金を払わなければならないのか」と思われる人も多く、見落としがちな点といえます。
不条理な事態を避けるためにも、分与を実行する前には税理士など専門家による税務シミュレーションを行うことをおすすめします。
7-3. 名義変更(所有権移転登記)はなぜ司法書士に依頼した方がいい?
不動産の名義変更(所有権移転登記)は、自分で行うことも可能ですが、書類の不備があると受理されません。離婚に伴う登記手続きは、通常の売買とは異なる特有の難しさがあり、司法書士へ依頼することがリスク回避になるといえます。主な理由は以下の2点です。
「元配偶者の協力」には期限がある
離婚後も元配偶者の協力が得られるという確証はありません。
しかし、登記申請には、名義を手放す側の印鑑証明書や登記済証(権利証)といった重要書類が必要です。離婚直後は協力が得られたとしても、数ヶ月、数年と時間が経過し、相手方の新しい生活(再婚や引越しなど)が始まると、連絡が取れなくなったり、心理的な心理的ハードルから書類への署名・捺印を拒否されたりするトラブルはよくあります。
司法書士が入ることで、必要な書類を離婚成立と同時に確実に揃え、隙のないスケジュールで申請を完了させることができます。
法的な不備が取り返しのつかない事態を招く可能性がある
例えば、離婚協議書で「家を譲る」と合意していても、登記原因(財産分与とするか贈与とするか等)の記載や、対象となる土地・建物の地番・家屋番号が1文字でも登記簿と異なれば、法務局で受理されません。
司法書士は事前に登記事項証明書を精査し、見落としがちな共有部分や私道負担の有無まで徹底的に調査します。正確な書類作成と迅速な申請によって、将来にわたる不安の種を摘み取ることができるのも司法書士に依頼する大きなメリットといえます。
第8章 持ち家の問題を放置せず、新しい一歩を
離婚後の持ち家に関する問題は、単なる住居の確保にとどまらず、経済的な問題に直結しやすい重大な課題といえます。
本記事のポイントを振り返ってみましょう。
・売却(換価分割)は、比較的トラブルが少なく、再出発に適した方法といえる。
・住み続ける場合は、ローンの借り換えや名義変更の法的な壁を乗り越える必要がある。
・約束事は必ず「公正証書」にし、将来の不払いや登記トラブルに備えること。
これらの手続きを、感情が対立する当事者間だけで進めるのは至難の業といえます。不動産の査定からローンの交渉、税務申告、登記手続きまで、必要となる知識は多岐にわたります。後悔のない離婚と安心できる未来を手に入れるために、早めに専門家へ相談することをおすすめします。弁護士があなたの代理人として交渉を担い、複雑な権利関係を整理することで、納得のできる解決策が見つかるはずです。
私たちNexill&Partnersグループは、弁護士をはじめ、税理士、司法書士など士業が密に連携し、お客様の課題をワンストップで解決へ導く体制を整えています。複雑な持ち家問題でお困りの際は、Nexill&Partners那珂川オフィスへお気軽にご相談ください。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
離婚でマンションはどうなる?財産分与の注意点を弁護士が解説|オーバーローンや住み続ける場合の対処法

離婚を検討する際、夫婦の共有財産の中で悩みやすいのがマンションではないでしょうか。特に住宅ローンが残っている場合、「どちらが住み続けるのか」「売却して現金化できるのか」など切実な悩みが多く聞かれます。
マンションの財産分与は、進め方を間違えると、離婚後に住宅ローンの督促が来たり、名義変更ができなくなったり、思わぬトラブルを招きかねません。本記事では、マンション財産分与の基本から、ローンがある場合の解消法、税金や登記の見落としやすい点まで、弁護士が実務的な視点で解説します。
第1章 離婚時のマンション財産分与|後悔しないための基本知識
1-1 財産分与の基本知識と「共有財産」の判断基準
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築き上げた財産を、離婚にあたって清算・分配することを指します。マンションにおける財産分与でまず重要なのは、物件がこの「共有財産」にあたるかどうかの判断です。
原則として、結婚後に購入したマンションは、名義が夫婦どちらかの単独であっても、夫婦が共同で築いた共有財産とみなされ、財産分与の対象になります。
一方、結婚前に夫婦のどちらか一方が購入していた場合や、結婚の時期によらず親から相続・贈与された資金で購入した場合は、原則として財産分与の対象にならない「特有財産」として扱われることが多いです。ただし、結婚前にどちらかが購入した場合でも、結婚後に住宅ローンの返済を夫婦の収入から行っていた場合は、その返済分に相当する価値が共有財産として分与対象となる可能性があります。
1-2 分与の割合「2分の1ルール」とマンションの評価額の計算時期
財産分与の割合は、夫婦それぞれの収入差に関係なく、原則として2分の1ずつ分けます。これは、専業主婦(主夫)であっても家事労働によって資産形成を支えたと評価されるためです。
分与の対象となる財産を確定させる時期は、一般的に別居時となることが多いのですが、これは別居によって夫婦の経済的協力関係が終了したと考えられるためです。マンションの価値(時価)をどの時点の評価額で計算するかも、実務上は別居時を基準とすることが多いですが、不動産相場の変動が激しい場合などは、離婚成立時を基準とすることもあります。評価時期の設定は分与額への影響が大きいため、注意しておきたい要素の一つです。
1-3 【重要】離婚届を出す前に!済ませておくべき調査と必要書類
離婚届を出した後に、「実はローンの連帯保証人になっていた」「相手方の管理費の滞納が発覚した」などに気づいても、すでに相手方との連絡が途絶えていたり、協力が得られなくなったりすることも多く、交渉が困難になることが少なくありません。
離婚届を出す前に、まずはマンションについて以下の5項目を調査し、現状を確認しておくことをおすすめします。
①不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)の確認
登記事項証明書(登記簿謄本)でマンションの名義が誰なのか、法的な所有者を確認しましょう。自分一人の名義だと思っていても、実は夫婦の共有名義になっていたり、親の権利が混ざっていたりすることがあります。名義によって、後の売却や譲渡の手続きが変わるため「たぶんそうだろう」という思い込みは危険です。
②住宅ローンの残高確認と契約形態の把握
ローンがあとどのくらい残っているかはもちろん、自分が連帯保証人やペアローンの当事者になっていないかを調べましょう。これを確認せずに離婚届けを出してしまうと、後々に相手の借金を背負い続ける事態にもなりかねません。住宅ローン、ペアローンがある場合の注意点については3章でくわしく解説します。
③現在のマンションの市場価値(査定額)の把握
今、家を売ったらいくらくらいになるのか、時価を把握しましょう。ローン残高より高く売れるのか、売却しても借金が残るのかを正しく判断するのが目的です。この査定額がマンションの財産分与を計算する基本的な土台となります。
マンションの価値を、ネットの簡易査定や自分の予想だけで判断することはおすすめできません。相手方に「高すぎる」「安すぎる」と反論する隙を与え、交渉が長引く原因になるおそれがあるからです。 根拠のある数字を出すには、不動産会社による査定や、不動産鑑定士の評価が必要といえます。不動産会社や不動産鑑定士を探すことに不安がある場合は、弁護士事務所に紹介してもらえる場合もあるので相談してみましょう。
④固定資産税の納税通知書と名寄せ帳(なよせちょう)の確認
自治体から毎年送られてくる固定資産税の納税通知書は、不動産の公的な価値(評価額)を知る重要な情報の一つです。この通知書や名寄せ帳(固定資産税課税台帳を所有者ごとにまとめたもの)を確認することで、マンション本体以外の駐輪場の一部など、見落としがちな小さな持ち分の有無も分かります。これらを把握せずに離婚すると、名義変更し忘れた微小な共有部分が残ってしまい、将来マンションを売却する際、元配偶者の印鑑が必要になるなど思わぬ事態を招くことがあります。
⑤管理費・修繕積立金の支払い状況の確認
マンションの管理費や修繕積立金の滞納がないかを管理組合に確認しておくことも大切です。もしこれらを滞納していたら、財産分与であなたがマンションを譲り受けた場合、滞納分(負債)まで引き継ぐことになります。知らぬ間に負債を押し付けられないよう、こちらもチェックしておきたいポイントの一つです。
第2章 マンションをどう分ける? 3つの具体的な選択肢とそれぞれの特徴
マンションの財産分与において、検討の柱となるのは主に「売却してお金で分ける」「一方が居住し続ける」「共有で維持する」の3つです。どの方法が正解となるかは、住宅ローンの残高や離婚後の生活設計によって判断が異なります。それぞれの特徴を把握したうえで、どの選択が自身にとって納得感が高いかを検討しましょう。
2-1 【売却して分ける】公平で後腐れがない換価分割
マンションを売却し、仲介手数料などの諸経費や住宅ローンの残債をすべて清算した上で手元に残った現金を分け合う方法です。この換価分割には、以下のようなメリット・デメリットがあります。
メリット
現金に替えることで、ほぼ正確に夫婦の取り分を2分の1ずつに分けることができます。また、売却代金で住宅ローンを完済できれば、離婚後に住宅ローンの返済をめぐって相手方と連絡を取り合わねばならない状況が発生するリスクも抑えられます。
デメリット
住み慣れた家だけでなく、場合によっては地域も離れなければならない可能性があります。子供がいて転校を避けたい場合や、地域に住み続けたい場合には心理的・物理的な負担が生じるといえます。また、すぐに売却したくても不動産市場の状況によっては時間を要することもあり、早期の現金化が難しい場合もあります。
2-2 【一方が住み続ける】現金で精算する「代償分割」の仕組み
どちらか一方がマンションを取得し、もう一方に対してその持ち分(価値)に見合う現金(代償金)を支払う方法です。「子供のために環境を変えたくない」という理由で、母子が住み続ける際によく検討されるケースです。
代償金の算出方法の例(原則)
代償金(精算金)は原則として、以下の計算式で算出します。
代償金 =(マンションの時価 - 住宅ローン残高)÷ 2
例えば、マンションの時価が4,000万円でローンが完済されている場合、家をもらう側は出て行く側へ2,000万円を支払うのが原則です。ローンが2,000万円残っているなら、時価からローンを引いた残りの2,000万円が分与対象となり、その半分の1,000万円を支払います。
住宅ローンの名義人と居住者が一致しているため、銀行との関係でトラブルになりにくい形式といえます。ただし、相手方に支払う代償金が多額になる場合、その資金をどこから捻出するかがハードルとなる場合があります。手持ちの預貯金がない場合は、新たに代償金支払いのためのローンを組むなど資金計画の検討が必要です。
名義人でない側が住み続ける場合、懸念事項となるのが「住宅ローンの名義変更」の問題です。例えば、「夫名義のマンションに離婚後も妻と子が住み続け、夫がローンを払い続ける」という約束をするケースがありますが、これには以下のようなリスクが考えられます。
1.銀行の契約違反
多くの場合、住宅ローン契約には「本人が居住すること」という条件があります。別居して名義人が出て行くと契約違反とみなされ、銀行からローンの一括返済を求められる可能性があります。
2.滞納のリスク
離婚後、名義人の経済状況が悪化したり再婚したりすることで、ローンの支払いが止まるケースは少なくありません。名義人が滞納すれば、結果として、マンションからの立ち退きを迫られることになります。
2-3 【共有名義のままにする】現物分割の将来的なリスク
「子供が卒業するまで」「今は答えが出しにくい状況だから」といった理由で、夫婦の共有名義のまま維持する方法を選ぶ方もいます。しかし、この方法は将来的なトラブルのリスクが高く、慎重に検討すべき選択肢といえます。
共有維持が推奨できない理由
マンションを売りたい状況になった時には、相手の同意(署名・捺印)が必要になります。しかし、離婚した相手方と連絡が取れなくなったり、感情的な対立が再燃して協力が得られなかったりすることは少なくありません。また、円満な関係を継続していたとしても、相手方が借金を抱えた場合にはマンションの持ち分が差し押さえられるリスクや、相手が亡くなった場合には相手方の親族が名義の権利を相続して共有関係が複雑化するリスクも想定されます。特別な事情がない限りは、離婚時に権利関係は分離しておくことをおすすめします。
第3章 住宅ローンが残っている場合の解消法
家という資産だけでなく、住宅ローンという負債をどう処理するかは、離婚後の生活の安定にかかわる重要ポイントです。実務で直面するアンダーローン・オーバーローン、またペアローンや連帯保証の注意点について解説します。
3-1 アンダーローンとオーバーローンで異なる対処法
まずは、不動産の査定額とローン残高を比較し、保有のマンションが以下のどちらの状態にあるかを確認しましょう。
アンダーローン(査定額 > ローン残高)
マンションの査定額がローン残高より高く、売却すれば手元に利益が出る状態をアンダーローンといいます。売却益を2分の1ずつ現金で分ける方法(2章で確認した換価分割)や、家を取得する側が相手方に代償金を支払う方法(代償分割)で、比較的スムーズにマンションの財産分与ができます。
オーバーローン(査定額 < ローン残高)
マンションの評価価値が低く、売却しても借金(ローン)が残る状態です。「マンション自体に財産的価値はなく、積極的な財産分与の対象にならない」と扱われるケースが多いです。ただし、住宅ローンという負債をどちらがどのように負担するかは整理が必要になります。
3-2 ペアローン・連帯保証に対処する3つの方法
夫婦で協力してローンを組んでいる場合(ペアローン)や、相手方の連帯保証人になって連帯保証型の住宅ローンを組んでいる場合、離婚したからといって自動的にその責任から逃れることはできません。銀行にとって、夫婦の離婚は契約変更の理由にはならないからです。こうしたケースでは主に以下の3つの方法を検討します。
① 住宅ローンの借り換え(単独ローンへの一本化)
マンションに住み続ける側が、自分一人の名義で新しいローンを引き直し、現在のペアローンや連帯保証付きローンを一括返済する方法です。確実な解決策の一つですが、住み続ける側にローンを背負えるだけの十分な収入がなく、審査に通らないケースも少なくありません。
② 別の親族などを新しく連帯保証人に立てる
現在の連帯保証人に代わり、親などを新しく保証人に立てることで、銀行に保証人の交代を認めてもらう方法もあります。ただし、銀行側は今の保証人よりも支払い能力が高い、あるいは同等程度の保証人を求めるため、承認のハードルは低いとはいえません。
③ マンションを売却して一括返済する
比較的選択されることが多い解決策です。売却代金でローンを完済すれば、ペアローンも連帯保証もなくなります。売却してもローンが残る(オーバーローン)場合は、不足分を預貯金などで補填して完済を目指すことになります。
3-3 「公正証書」は万能ではない?銀行との交渉における注意点
離婚の際、離婚協議書を作成する人は少なくありません。離婚協議書は、当事者同士で作成する私文書としてまとめることもできますし、公証役場で公正証書として作成することも可能です。
この離婚協議書に、「離婚後のローン返済は相手方が全額支払うと書いたから大丈夫」と考える方がいますが、これは危険な誤解です。まずは、私文書としての離婚協議書と、公正証書としての離婚協議書の法的効力の違いを確認しましょう。
離婚協議書(私文書)
私文書の離婚協議書で「ローンを支払う」と約束した内容は、当事者間では有効です。しかし、強制執行力はありません。そのため、相手方が支払いを怠った場合には、原則として、裁判手続きを経なければ相手方の財産差し押えなどを行うことはできません。
公正証書(公文書)
離婚協議書を公正証書として作成し、強制執行認諾文言を盛り込むことで、相手方が1回でもローン返済を怠れば、裁判なしで即座に相手方の給与や銀行口座を差し押さえることができます。
【重要】それでも公正証書で銀行に対抗するのは難しい
ただし、注意が必要なのは、銀行(債権者)との関係です。公正証書で「相手方が払う」と定めても、その効力が及ぶのは夫婦間(内部関係)に限られます。銀行などの債権者はこの合意に拘束されず、銀行が保証人に返済を求める権利も変わりません。そのため、連帯保証人になっている状態で相手方の支払いが滞った場合は、離婚や公正証書の有無にかかわらず、銀行(債権者)から返済を求められることになります。
第4章 離婚後のマンション手続きで発生する税金と登記
4-1 財産分与で贈与税はかかるのか?
不動産という高額な資産が動くため、「多額の税金が課されるのではないか」と不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、結論からいうと、適切な手続きを踏めば、財産分与に伴う贈与税は原則として発生しないケースが大半です。
ただし、例外的に課税対象となるケースもあります。
マンションを譲る側に課税される譲渡所得税
たとえば、意外な盲点となるのが、マンションの名義を外れる(譲渡する)側に課される可能性がある譲渡所得税です。税務上、財産分与で不動産を渡す行為は「当時の時価で相手方に譲渡した」とみなされます。そのため、マンションを購入した時よりも、分与する時点の時価が値上がりして利益(譲渡益)が出ている場合には、譲る側に譲渡所得税がかかる場合があるのです。これには、譲渡益から最高3,000万円までを控除できる特例が適用できるケースもあるので、税理士など専門家に確認するのが安心といえます。
4-2 不動産の名義変更「所有権移転登記」のタイミング
相手側に代わって自身がマンションの名義人になる場合は、名義変更の手続き「所有権移転登記」を行います。登記は、離婚届を提出した後でなければ申請できませんが、これを放置すると、将来マンションを売却しようとした際に元配偶者の協力が必要になり、思わぬトラブルを招く可能性があります。離婚後の必要手続きとして覚えておきましょう。
第5章 マンション財産分与でよくあるトラブル事例
マンションの財産分与では思わぬトラブルが起こることがあります。ここまでの内容のおさらいとして、よくある失敗パターンとそれを未然に防ぐ予防策を紹介します。
5-1 勝手にマンションを売却されてしまったケース
別居中、自分に無断で相手方がマンションを売却しようとするトラブルです。名義が相手方の単独であれば理論上は可能ですが、家庭裁判所に処分禁止の仮処分を申し立てることで、勝手な売却を阻止できる場合があります。
未然に防ぐには?
別居前に登記事項証明書を確認し、勝手な売却の予兆があれば弁護士へ相談して「審判前の保全処分」などを検討しましょう。名義人が独断で動ける状態を放置しないことが大切です。
5-2 離婚後に相手方と連絡が取れなくなり名義変更ができないケース
離婚時に、ローンが終わったらマンションの名義を変えることを口約束でしていたケースです。いざ数年後に連絡をしようとしても相手がどこにいるかわからず、名義変更ができない事態は少なくありません。
未然に防ぐには?
口約束にとどめることは避け、「執行受諾文言付きの公正証書」などの作成をおすすめします。将来の登記義務を明記し、可能であれば委任状などの必要書類を事前に預かっておくことで、離婚後の音信不通リスクを最小限に抑えられます。
5-3 同居中に親から援助を受けた頭金の取り扱い
購入時に自分の親から1,000万円の援助を受けた場合、その分は特有財産として財産分与の計算から差し引くことができます。しかし、これを証明する証拠が不十分だと、相手から「夫婦の貯金だと思っていた」と反論され、泥沼化することがあります。
未然に防ぐには?
親からの贈与を証明する振込履歴や、当時の贈与税申告書などの客観的な証拠を保管しておきましょう。特有財産であることを明確に主張できるよう、資金の出所を記した合意書を早期に作成するのも有効策の一つです。
第6章 後悔しないマンションの財産分与のために
離婚に伴うマンションの財産分与は、住宅ローンの清算、名義変更の登記、譲渡所得税をはじめとする税務リスクまで、検討すべき事項が多岐にわたります。特に住宅ローンが残っている場合は、相手方ではなく銀行との契約関係になるため、さらに慎重な準備が必要です。
マンションの財産分与を確実に進めるために、以下のチェックポイントを今一度見直してみましょう。
• ローンの残高だけでなく、連帯保証人やペアローンの契約状況を確認しているか
• 相手方との離婚協議書は、公正証書として残しているか
• 離婚届の提出と、マンションの名義変更のタイミングを理解しているか
離婚に関するマンション(不動産)問題は、時間が経つほど相手方との連絡が困難になったり、資産価値が変動したりと、解決のハードルが上がりがちです。
私たちNexill&Partners(ネクシル・アンド・パートナーズ)那珂川オフィスでは、弁護士による法的アドバイスはもちろん、グループ内の税理士、司法書士らと連携し、登記や税金、売却査定までワンストップでサポートできる体制を整えています。
那珂川市周辺でマンションおよび不動産の財産分与にお悩みの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。実務経験豊富な士業の専門家が寄り添い、あなたの再出発がより確かなものとなるよう最善の解決策をご提案いたします。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
中高年のSNSトラブル

一昔前はインターネットを見るのは、パソコンでというのが常識というよりもパソコン以外に手段はありませんでした。
しかし、現在はこのブログもそうですが、インターネットやSNSを見る手段として、ほとんどの方がスマートフォンを活用されているのではないでしょうか。
実際、日本国民のどのくらいの人がスマートフォンを使用しているのかはわかりませんが、若い人だけでなく、高齢の方もスマートフォンを使用しているということは珍しくありません(今年88歳になる私の祖母もスマートフォンを使用しており、LINEでメッセージをくれます。頻繁に誤字があるのですが、それもとても微笑ましく感じます)。
しかし、スマートフォンが普及する前と比較し、SNSにまつわるトラブルは年々増えてきています。
特に、中高年の方のトラブルは非常に増加してきており、消費生活センターに寄せられる50歳以上のSNS関連のトラブルの相談は、2010年の145件から、2019年には4745件と30倍以上増加しているとのことでした。

SNSのトラブルと聞いて思い浮かぶのは若者という認識であったため、中高年の方のトラブルが増加しているというのはとても驚きました。
こうした中高年の方のSNSのトラブルが増えている理由として、これまでインターネットなどに触れる機会が乏しかった方がスマートフォンを購入することで、正しいインターネットの知識(ネットリテラシー)が不足したままSNSを使用することが原因であると考えられています。
例えば、何気ない日常(いきつけの喫茶店や、近所の公園の様子、自宅からの風景)を投稿することで、住所を公にしてしまうことや、子供や孫などの入学式や受験について学校名がわかるような投稿をしてしまうなど、自分の近しい人の個人情報を無断で公開してしまうということが多いそうです。
実際、中高年の方が「今、●●に旅行に来ています」と投稿したことで、自宅にはいないことが知られてしまい、空き巣に入られてしまったという被害もあるそうです。SNSに慣れている方ですと、旅行から帰宅した後に、旅行の投稿を行うなど、トラブルにならない投稿の仕方を心得ています。

SNSに慣れていないため、正しい情報と誤った情報の取捨選択ができず、根拠のないフェイクニュース等に影響されてしまったり、通常の投稿にまぎれて存在する広告の投稿等を不用意にクリックをし購入してしまい、知らぬ間に多額の請求や身に覚えのない請求が来ることもあるそうです。
さらに、近年問題となっているのが、他人の名誉を毀損する投稿や侮辱する投稿を行ってしまうことで、刑事罰や民事上の損害賠償の請求を受けることになってしまうことです。
いわゆる炎上している人物に対して、自身の正義感からか行き過ぎた投稿をしてしまうようです。
名誉を毀損されたり、侮辱された人から発信者情報開示請求により、発信者を特定すると、加害発言をしていた人の多くは中高年の方だったということもあったそうです。
SNSの活用により、現実のコミュニティーとは異なる場での交流などが可能となり、中高年の方の生きがいになっているという点はとても良いことであると思いますが、十分なネットリテラシーがないままにSNSを活用してしまうと、トラブルに巻き込まれてしまう危険性が少なくありません。
とくに、インターネット上にあげてしまった情報は、いわゆるデジタルタトゥーともいわれ、完全に消去することできなくなってしまいます。
ご自身でSNSとの付き合い方に不安をお持ちの場合には、お子さんや身近な人に相談したうえで上手に活用してもらいたいと思います。
また、万が一SNSでのトラブルに巻き込まれてしまった場合には、早急に弁護士にご相談ください。
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犬と猫へのマイクロチップの装着について

皆さんは、ペットを飼われていますか?
私は、小学校5年生の頃に父が捨て猫を保護しているところから、小さい猫をもらってきて飼い始めたのが一番最初に飼ったペットでした。
雑種の猫ですが、とても長生きをしてくれて亡くなってしまったときは、とても悲しく同じような悲しい気持ちになることが怖くて、それ以来ペットを飼う勇気がない状態です。
私のペットは天寿を全うしみんなに看取られながら旅立っていったのですが、飼っている犬や猫などが突然のアクシデントや災害などで行方が分からなくなってしまい、そのままお別れしてしまうというケースは少なくないのではないかと思います。
そのようなペットと離れ離れになってしまうことを防ぐために、犬や猫に対して動物愛護管理法が改正され、マイクロチップの装着を義務づける改正動物愛護管理法が令和4年6月1日から施行されました。

具体的には、飼い主となる人がペットショップやブリーダーなどのマイクロチップ装着を義務付けられているところから犬や猫を購入した場合には、30日以内に飼い主情報を公益社団法人日本獣医師会へ申請する必要があります。
これにより、犬や猫が迷子になった時や災害、盗難や事故などによって離れ離れになった時に、マイクロチップを読み取り登録されている情報を確認することで飼い主のもとへ戻すことができるようになります。
また、マイクロチップに飼い主の情報を登録することが義務付けられることにより、近年のペットブームで簡単な気持ちでペットを購入し、その後育てられなくなりペットを捨ててしまうといった無責任な行為を防ぐことができるのではないかと思います。
なお、ブリーダーやペットショップからではなく知人や動物保護団体などの、マイクロチップの装着が義務付けられていない人や団体から犬や猫を譲渡されたり購入した場合は、マイクロチップの装着は必須ではなく、装着することを努めるように努力義務が設定されています(装着する場合には獣医師に依頼するようです。)
この制度が広まって、思わぬかたちでペットと離れ離れになってしまう人が少しでも減るといいなと思いました。

なお、少し話は外れますが、離婚事件などで飼っているペットの所在で夫婦間でもめることもゼロではなく、離婚協議書などでペットの帰属についても記載することがあります。
無用なトラブルを防ぐために、これからは離婚協議書で定める際にはマイクロチップの登録情報を変更する手続きに協力することなどを規定しなければならないなと思いました。
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おとり広告とは?

おいしそうな飲食店のCMを見ているとそのお店に行きたくなりますよね。
私も長男が3歳になり、某ハンバーガーのチェーン店のCMが流れると「ハンバーガー食べたい!」とねだってきて困ることがあります。
このように飲食店の広告は、多数の人が目にし、且つその広告をきっかけとして来店してもらうためのものなので、私たちの生活にとても影響があるものになっています。
先日、とある飲食店が、いわゆる「おとり広告」を行ったとして、消費者庁がその飲食店に対し措置命令が出したとのニュースがありました。

「おとり広告」の具体的な内容としては、CM等で期間限定の商品があると謳っておきながら、ほとんどの店舗にてその期間限定の商品を提供することができない状態であったため、CMの表示が一般消費者を誤認させる恐れがある「おとり広告」に該当すると判断されたとのことです。
広告について規制する法律に「景品表示法」(正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法」といいます。)という法律があり、同法の5条3号で、一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある広告を禁じています。
その具体的な内容として、消費者庁より「おとり広告に関する表示」が指定されており、商品・サービスが実際には提供できないにもかかわらず、提供できるかのような表示をすることを禁じています。
なぜ、おとり広告が禁止されるかというと、購入できない商品をおとりにして他の商品を購入させるためであり、よくあるのは不動産会社の広告です。
すでに入居者が決まっているいい物件を広告に載せ、来店や問い合わせを促して、別の物件を契約させるということも少なくないようです。

しかし、飲食店で「おとり広告」として規制されたというケースは非常に珍しく、飲食店の場合にはおとりの商品で客を誘引し、その商品がない場合でも他の商品を注文する可能性が、不動産の場合と比べてとても高いと考えられ、悪質性は高いのではないかと思います。
CM広告は、先ほど述べた通り多くの一般消費者の目に入るものであり、その広告をきっかけに購入や来店をするほど影響力の強いものであるため、消費者に誤解を与えないようきちんと対応してもらいたいと思います。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
WEB(ウェブ)で離婚調停成立可能に

令和3年12月から、東京・大坂・名古屋そして福岡において、離婚調停や遺産分割調停など家事調停について、対面ではなくWEBで調停を行う運用が開始されました。
それまでも、遠隔地の裁判所に調停を申し立てた際には(通常、家事調停は相手方が居住する住所地に申し立てを行う必要があるからです。)電話会議システムといって遠隔地にいる人が依頼している弁護士の法律事務所まで行き、そこで電話で調停に参加するという手続きが行われてきました。
しかし、その電話会議システムを利用しても、これまでは離婚調停において話し合いがまとまり、離婚が成立するという場面では当事者双方が裁判所に出廷しする必要がありました。

これは、離婚という身分関係に関わる重大な決定のため、本当に離婚することで問題ないかという意思確認については、裁判官が対面して慎重に判断すべきであるという考えに基づくものでした。
そのため、遠隔地に住んでいる方や配偶者のDVを受けてきた方も、離婚の成立の際には相手方と遭遇してしまうのではないかという不安のなか、わざわざ裁判所へ行く必要がありました。
何年も離婚事件に携わってきたなかで、面会交流や養育費の調停は対面ではなく電話会議システムで成立させることは可能であるにも関わらず、この離婚成立の時だけ裁判所へ行かなければならないということをとても不合理であると考えていました(失礼な個人的見解ではありますが、実際に裁判官が対面で慎重に離婚の意思を確認しているかと言われると、あまりそうとは思えませんでした。)。
しかし令和4年1月26日、政府が離婚調停に必要な意思確認について、従来の対面だけでなくウェブ会議でも可能にする方針を固めたとの発表がありました。
調停手続などを規律した「家事事件手続法」という法律を改正する法案を国会に提出予定とのことです。

最高裁判所で出されている司法統計では、離婚調停の成立件数が年間で約1万6000件~2万2000件にも上る状況で、対面での意思確認を継続していくことも事実上困難になったのかもしれません。
このように、調停成立の際にわざわざ裁判所へ行く必要がなくなったことで、遠隔地の裁判所で調停を申し立てる人やDVの被害者の方も、裁判所に行かなくても安心して離婚が成立することができるため、とても良い改正であると思います。
当事務所も家事事件を多く取り扱っている事務所として、今後も家事事件に関するニュースについては積極的にお知らせしていきたいと思います。
家事事件での法律無料相談は菰田総合法律事務所の那珂川オフィスまでお気軽にお問い合わせください。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
離婚の原因は様々
当事務所は、現時点で(2021年2月3日)那珂川市に唯一ある法律事務所であるため、日々、様々なご相談をいただくのですが、当然、離婚の相談についても非常に多くのご相談をいただいています。
離婚についての相談である以上、なぜ離婚したいと思ったのか、なぜ離婚したいと言われているのか(別居されてしまったのか)という離婚原因については必ずご質問することになります。
その質問に対する回答としては、不貞行為をされた、DVを受け続けていた等という、離婚したいと考えるのは当然と思えるようなご回答もある一方、ご相談者様からの話のみを聞くと、そのような理由で別居されてしまうのかというような事情もあります。
ご依頼者様のプライバシーや弁護士の守秘義務の関係で、具体的な内容をそのままお伝えすることはできず、あくまで架空の内容にはなりますが、例を挙げるとすると、「いつも妻は、自分がお風呂に入る時にバスタオルを準備してくれており、その日は準備してくれていなくて、少し注意したら翌日、別居された」というようなお話があることは決して少なくありません。
そのような事例で代理人としてお手伝いさせていただくと、その多くが、別居直前のできごとは、別居を決意する引き金にはなったが、それだけでなく、日々の不満等が色々出てくるというケースが多いです。
おそらく、日々の不満などが積もり積もって、いわばコップからあふれる直前の状態であるときに、それ自体は大きな出来事ではないことが起こり、それがきっかけで溢れてしまい、別居に至ったのだと思います。
こういった状況でいつも思うのが、「いつの時点で取り返しがつかない状況であったのか、いつの時点で話し合いなどを行えば、離婚という結論を回避することができたのか」ということです。
個人の感情の部分ですので、なかなか分からないなと日々感じています。

弁護士として、お手伝いする以上、圧倒的に離婚という結果で終わる案件の方が多いです。
今年で弁護士8年目ですが、一方が離婚したいという状況で代理人としてお手伝いした案件で、離婚にいたらず円満で解決したという事例は1件しかありません。
離婚という結末が良いというケースも少なくないですが(離婚したことで逆に当事者の関係性がよくなったというケースもあります。それは別の機会に)、弁護士として、離婚という結論を回避するために何かできることはないかなと考えたのですが、弁護士が間に入る=離婚を前提とした話し合いになるというイメージがほとんどだと思うので、なかなか難しいのかなと思っています。
もっとも、夫婦の関係が悪く、どうしたらいいかというご相談についても可能な限りお答えさせていただきます。
その際にはきっと、離婚を切り出された際の対応や離婚に関する問題(養育費、財産分与等)についてのご質問もあろうかと思います。
ご夫婦の関係に悩まれている方は是非ご相談ください。
【相談事例38】合意をすればすべて有効?~契約(法律行為)の有効性について~
【相談内容】
平成32年という合意であっても無効になることは少ないようですね。
先日、妻の不貞相手との間で、慰謝料の和解をして、慰謝料として5,000万円支払うと相手も言っていたため、その旨の和解契約書を作成しました。
相手は学生で、到底払えきれないとは思うのですが、一度当事者で合意をした以上、問題ないですよね?
【弁護士からの回答】
前回は、契約(法律行為)の客観的有効性の要件のうち、内容の確定性についてご説明させていただきました。
今回は、内容の確定性以外の客観的有効性の要件についてご説明させていただきます。
1. 内容の「実現可能性」について
前回ご説明したとおり、契約が成立すると、契約の当事者には、契約内容にしたがった権利(債権)と義務(債務)が発生することになり、義務を履行することができない場合には、損害賠償をしなければならないリスクを背負うことになります。
したがって、契約の内容が実現することが不可能な契約の場合には、当事者間で合意をしたとしても、契約は無効となります。
例としては、既に消失してしまっている物の売買や、「3時間以内に月に行って帰ってくる」といったような、社会通念上実現不可能な契約(そもそもこんな契約を行うこと自体考えられませんが、分かりやすい例としてご説明しています。)についても無効となります。
2. 内容の「適法性」について
法律の中には、契約の当事者を保護するために、その規定に反する合意を行ったとしてもその合意が無効になる効力を有する規定があり、これを「強行規定」といいます。
強行規定の例としては、民法146条で「時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。」と規定されており、時効の利益(消滅時効や取得時効により生ずる利益(債務の消滅や、物の所有権の取得など)をいいます。)については時効期間が満了する前に契約書等で時効の主張を行わないと定めていても、上記強行規定に反し無効ということになります。
3. 内容の「社会的妥当性」について
当事者がいかに合意していたとしても、公の秩序や善良な風俗(社会における一般的な倫理)に反し、社会的な妥当性を欠く法律行為(契約)については、公序良俗違反として民法90条によりとなるとされています。
例えば、「人を殺したら200万円支払う」といったような犯罪行為に関する契約や、愛人、妾の契約については、家族若しくは性道徳に反する契約として無効になります。
また、不当に高額な利息を付した契約や、莫大な賠償金などを設定するようないわゆる暴利行為に関しても、公序良俗違反として無効になるとされています。
ご相談者様の事例でも、不貞行為の慰謝料の金額がどの程度の金額になるかについては、不貞行為の内容や、不貞を行った人の経済能力などが考慮の対象となります。しかしながら、5000万円というあまりにも高額な金額について、学生が支払うことができ金額ではないことは誰がみても明らかであるため、示談書を作成していたとしても公序良俗に反し無効とされてしまう可能性が非常に高いでしょう。
ご相談者さまの事例については、あまりに極端な事例ですが、上記のような契約の有効性については意識しておかなければ、要件を満たしていない契約書を作成してしまう可能性は少なくないと思いますので、契約書等の合意書面を作成する際には、是非一度弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
不貞相手に慰謝料請求ができない??④~今後の問題点について~
【ご相談者様からのご質問】
第三者に離婚慰謝料を請求することができる場面はとても限られているのですね。
今回の最高裁所の判例がでたことにより、気を付けなければならないことはありますか。
【弁護士からの回答】
これまで、不貞行為を行った第三者に対する離婚慰謝料が否定された最高裁版所の判例についてご説明させていただきましたが、今回は、上記判例が出されたことによる、今後の検討課題や、注意しなければならない事項についてご説明させていただきます。
1 注意事項~消滅時効に注意~
夫婦の一方と不貞行為を行った第三者に対しては、「離婚」慰謝料の請求は認められず、「不貞」慰謝料の請求のみ認められることになります。
そして、不貞慰謝料の場合自身の配偶者が不貞行為を行ったこと及び加害者知った時点から3年以内に訴訟を提起しなければ、消滅時効により不貞慰謝料は消滅してしまうことになります。
したがって、不貞を行った第三者に対して慰謝料請求を行う場合には、不貞行為の事実や相手方を知った日から3年以内に請求しなければならないということは認識しておいた方がよいでしょう。
2 検討課題①~離婚の有無が慰謝料金額に及ぼす影響~
従前、「不貞」慰謝料を第三者に対し請求をする場合には、当該夫婦が離婚したか否かという点が、慰謝料金額を算定する上で考慮の対象になるという考え方がありました。
もっとも、今回の判例により、離婚するか否かは、あくまでも夫婦での問題であるということであるため、この判例を素直に読むと、不貞慰謝料を第三者に対し請求する場合には、夫婦が離婚をするのか、婚姻関係を継続するのかについては、あまり影響しないようにも読めるため、「不貞」慰謝料の金額が離婚の有無により影響を及ぼすのか否かについては、今後の裁判例の蓄積を待つ必要があると考えています。
3 検討課題②~配偶者と第三者の連帯責任の範囲~
別の機会にご説明させていただきますが、不貞行為を行った配偶者と第三者は2人で不貞行為という違法な行為を行っているため、連帯して慰謝料を支払う義務をおっており、これを共同不法行為による連帯債務といいます。
今回の最高裁の判例で、配偶者に対しては、不貞慰謝料のみならず離婚慰謝料も認められるものの、第三者に対しては不貞慰謝料のみ認められることになったため、配偶者と第三者は、「不貞」慰謝料の範囲のみ連帯して責任を負うということになると解するのが自然であるため、訴訟において、配偶者に対しては、離婚慰謝料、第三者に対しては不貞慰謝料を請求した場合にはどの範囲で連帯債務を負担することになるのかについては、今後の検討課題になると思います。
4 不貞行為以外で、第三者が離婚慰謝料を負う場合はあるのか?
最高裁判所は、「当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情」がある場合には、第三者に対し「離婚」慰謝料を請求することができる旨判断しているところ、この判断が、不貞行為により離婚を余儀なくされた場合に限定した判断であるのか、それとも不貞行為に至っていなくても、第三者が暴力や脅迫により離婚を余儀なくされた場合等においても、離婚慰謝料を認めるという判断になるのかについては今後、問題になっていくと思われます。
5 最後に
これまで、数回にわたり、不貞行為に関する最高裁の判例についてご説明させていただきましたが、この判例のみならず、不貞行為の慰謝料請求は、法的に複雑であり、専門的な内容が多々ある分野ですので、慰謝料請求については、是非早めに弁護士にご相談されることをおすすめします。
不貞相手に慰謝料請求ができない??③~最高裁判例の検討~
【ご相談者様からのご質問】
先日、妻から離婚を切り出されました。理由としては、不倫相手から、離婚して一緒になろうと言われたらしく、妻も不倫相手との将来を考えているとのことでした。
妻がそう言う以上、妻との関係は考えていませんが、妻と、不貞相手に対してはきちんと慰謝料を請求したいと考えております。
しかし、先日、ニュースで、不貞相手には離婚の慰謝料が請求できないと知り、どうすればいいか悩んでいます。
【弁護士からの回答】
前回は、夫婦の一方と不貞行為を行った第三者に対する慰謝料請求に関する最高裁の判例についてご説明させていただきました。
今回は、前回ご説明した最高裁の判例の内容の解説とともに、今後検討すべき課題についてご説明させていただきます。
1 第三者には「離婚」慰謝料の請求は認められない。
前回ご説明したとおり、最高裁は、夫婦の一方と不貞行為を行った第三者に対する「離婚」慰謝料は原則として認められないと判断しました。
他方、不貞行為を行ったことを理由とする慰謝料(不貞慰謝料)については認められると判断しました。
離婚慰謝料が原則として認められないと判断した理由として、最高裁判所は、「夫婦が離婚するまでに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが、協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても、離婚による婚姻の解消は、本来当該夫婦の間で決められるべき事柄である。」と述べられています。
すなわち、不貞行為があったとしても離婚するかしないかは夫婦で決めるべき事情であるため、離婚に至ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料は、配偶者に対し請求すべきであって(最高裁も、配偶者に対しては離婚慰謝料を請求することができると判断しています。)、離婚するかしないかに関与することができない第三者に対しては原則請求することはできないと判断しました。
2 例外的に離婚慰謝料が認められる場合
上記のとおり、最高裁判所は、夫婦が離婚するか否かは夫婦で決められるべき事柄であることを理由に、第三者に対する離婚慰謝料を否定しています。
したがって、最高裁判所も、第三者が「当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情がある」場合には例外的に、第三者に対する離婚慰謝料が認められると判断しています。
どの程度の干渉があれば、特段の事情があると認められるかについては、今後、の裁判例の蓄積を待つ必要がありますが、第三者が不貞している夫婦の一方に対し、配偶者と離婚するよう積極的に働きかけた、その結果として離婚するに至った場合や、第三者自身が、不貞をしていない配偶者に対し、離婚するようメールや電話などで執拗に要請した場合などは、第三者の不貞行為等によって、離婚を余儀なくされたと認められ得るため特段の事情の有無を検討してよいのではないかと思います。
次回は、今回の最高裁判所の判例が出されたことによる、今後の検討課題や注意すべき事項等についてご説明させていただきます。















