弁護士コラム

2019.04.10

従業員の退職に伴い必要な手続きと解雇について

従業員を採用するとき同様、従業員が退職するときにも従業員に対する手続き、年金事務所・ハローワークに対する手続きなどを行わなければなりません。

今回は、これらのような退職に伴い必要になる手続きと、それに関連して、従業員の解雇について詳しくご説明します。

1.退職時に必要な手続き

(1)従業員に対する手続き

従業員の退職が決定したら、退職届を提出してもらいます。この際、トラブルに発展することがないように、必ず書面で受け取りましょう
入社時にマイナンバーが分かる書類(マイナンバーカード、マイナンバーが記載された住民票の写し等)を提出してもらっていない場合は、それも受け取ります。
そして、退職日以降に、本人及び被扶養者分の健康保険被保険者証を回収します。
回収した健康保険被保険者証の取扱いについては、(2)社会保険・雇用保険の手続きでご説明します。

 また、退職の年月日と理由を労働者名簿に記載する必要があります。
死亡した場合には、その年月日と原因を記載します。

(2)社会保険・雇用保険の手続き

①社会保険

退職の翌日から5日以内に、「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届」に回収した健康保険被保険者証を添付して、所轄の年金事務所に提出します。
もし、従業員が健康保険被保険者証を紛失している場合は、代わりに「健康保険被保険者証回収不能(滅失)届」を提出しましょう。

②雇用保険

「雇用保険 被保険者資格喪失届」と、従業員から離職票の交付を希望しない旨の申し出がない限り「雇用保険 被保険者離職証明書」を準備します。
そして、退職の翌日から10日以内に、出勤簿、労働者名簿、賃金台帳、退職届など退職理由を確認できる書類を添付した上で、所轄のハローワークに提出します。
この離職票とは、失業手当を受けるために必要な書類です。
提出すると、「資格喪失確認通知書」、「雇用保険被保険者離職証明書」、「離職票-Ⅰ」、「離職票-Ⅱ」、パンフレット「離職された皆様へ」が交付されるので、離職票とパンフレットを速やかに本人に郵送しましょう。

(3)給与関連の手続き

退職日以後1か月以内に「源泉徴収票」を本人に交付します。
従業員が死亡したことによる退職の場合、死亡時にまだ支給期が到来していない給与については、所得税や住民税は非課税ですので、源泉徴収票には記載しません。

また、住民税を給与から特別徴収している場合には、「給与所得者異動届出書」を作成します。1月1日から5月31日までの間に退職する場合には、未徴収税額を最後の給与や退職金から一括して徴収します。
5月中に退職する場合、未徴収分はひと月分ではありますが、一括徴収の方法により納めることになります。

6月1日から12月31日までの間に退職する場合には、本人が自分で納付する「普通徴収」、最後の給与や退職金から差し引く「一括徴収」、特別徴収税額を次の会社に引き継ぐ「特別徴収の継続」のいずれかを選択できるので、本人に確認します。

普通徴収または一括徴収の場合は、退職した月の翌月10日までに本人の居住地の市区町村に提出します。
特別徴収の継続の場合は本人に渡し、次の会社に提出してもらいましょう。

2.解雇事由と解雇予告

これまでは、従業員が退職するときに必要な手続きについて説明してきました。ここからは、退職に関連して、経営者が気になる「解雇」についてお話します。

雇っている従業員の勤務態度などに問題があると分かった場合、会社はすぐに解雇できるのでしょうか。
実は、解雇するためにはいくつかの条件があります。それは、①解雇に正当な理由があること、②就業規則に記載されている「解雇の事由」に該当すること、③解雇禁止事由に該当しないこと、④少なくとも30日前に解雇予告を行っていることです。

③の解雇禁止事由に関して、例えば、労働基準法19条において、業務上の怪我や病気により休業する期間や産前産後の休業期間とその後30日間は解雇してはならない旨が定められています。
他にも、育児・介護休業法10条においては、育児休業の申出をしたことや、育児休業をしたことを理由に解雇してはならない旨が定められています。

次に、④の解雇予告について詳しくご説明します。
前述したように、解雇するときは少なくとも30日前に解雇の予告をしなければなりません。
解雇の予告をしない場合は、「解雇予告手当」として、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。20日前に解雇の予告を行い、10日分の手当を支払うといったように、手当を支払うことによって日数の短縮をすることもできます。

ただし、解雇予告については、労働基準法20条に例外が定められています。
それは、①天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合、②労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合です。
これらの場合は、解雇予告を行わなくても解雇することができますが、所轄の労働基準監督署から「解雇予告の除外認定」を受けなければならないということに注意してください。

それでは、「試用期間中」の場合はどうなるのでしょうか。
あくまで試用期間なのだから、簡単に辞めさせることができるとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、試用期間であっても、労働契約が成立している以上、解雇する正当な理由が必要です。
この場合でも、解雇予告をする又は解雇予告手当を支払う必要がありますが、採用から14日以内の試用期間中の場合であれば、解雇予告は不要です。

最後に、解雇をすると、一定期間助成金を受けられないというデメリットがあるので、注意しましょう。

3.まとめ

従業員を雇う以上、いつかは退職する日が来ます。
何のトラブルもなく、気持ちよく退職してもらえるよう、スムーズに手続きを行うことを心がけましょう。

また、従業員の解雇のお考えの方も、安易に解雇を決めると労使関係が悪化してしまうかもしれません。
まずは、従業員と話し合うなどして、解決する方法がないか考えてみましょう。

2019.04.10

労働時間とは~どこからどこまで?~

現代では、過重労働や未払い残業代によって労働時間というものが取り沙汰されていますが、そもそも労働時間とはどこの部分を指すのでしょうか。
休日の自学自習の時間、研修への参加、休憩時間、待機時間などが労働時間に当たるとして、裁判になっているケースも多々あります。
ここでは、この労働時間の該当性というものについて考えていきたいと思います。

1.過去の判例

労働時間の該当性をめぐっては、過去さまざまな裁判が行われてきました。
例えば、電気設備の設計を行う会社において、「自社の製品を家族や親せきに販売しましょう」という取組に要した時間、「WEB上での学習に要した時間」が労働時間に該当するとして時間外・休日労働手当が請求されたという事案です。

会社側は完全任意であり、業務命令でもないため、労働時間には該当しないと主張しました。
しかし判決では、①一人ひとり年間の売り上げ目標が設定されていた②上司が達成状況を評価していた③達成状況が社内システムで把握されていたなどの点をふまえて、これらは指揮監督下にあったとして、割増賃金を支払うよう命じました。

また、WEB上での学習に関しても、会社側は単なる自学自習であるため労働時間ではないと主張しましたが、結果としては労働時間であると判断されました。

理由としては、①学習内容と業務内容が密接に関連していたこと②上司がこの学習によるスキルアップを明確に求めていたこと③学習状況が管理されていたことが挙げられていました。

2.業務性と労働の過密性

過去の判例をみていくと、ある観点から判断がなされており、それは「業務性」「労働の過密性」という2点になります。

そもそも労働時間とは、過去の最高裁の判例で次のとおり示されています。

「労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」

(三菱重工業長崎造船所(一時訴訟・会社側上告)事件=最判平12・3・9労判778・11)

つまり、労働者が使用者の指揮監督下にある状況を労働時間と定義づけたのです。

そのため、裁判の傾向としては、研修時間や休日の自学自習等の時間が業務性、つまり使用者側からの明確な指示に基づいたものであったかどうか、日々の業務と密接に関わっている内容かどうか、というところで判断されてきています。

また、労働時間には具体的な作業をしている時間だけではなく、待機時間や手待ち時間も含まれていますが、休憩時間は労働者が自由に使える労働から完全に解放された時間のことを前提としていますので、労働時間とは考えられておりません。

しかしながら、「完全に解放された時間」という定義のため、その休憩時間が労働時間であったとして裁判になった事例も多々あります。

例えば、ビルの警備員が休憩や仮眠の時間も労働時間に当たるとして時間外割増賃金を求めてきた事案がありました。

判決では、①休憩中であっても警備室に来訪する人の対応、電話の対応をしなければならなかった ②勤務中の同僚のサポートをするよう定められており、実質行動が制限されていた ③仮眠時間の帰宅を禁止されていた ④不測の事態がおこったときに直ちに動けるよう制服等を着用したままだった という点が挙げられ、本件においては労働時間に該当するとの判断が下されました。

一方で、休憩時間や仮眠時間が労働時間ではなかったと判断された事例もあります。
こちらもビルの警備員ですが、①仮眠室で寝間着に着替えて仮眠をとっていた②不審者等の対応が必要になっても勤務中の警備員が対応し、仮眠中の同僚を起こすことはなかったなどという事実関係があったため、この時間は自由を与えられ業務を完全に手放せていたとみなされました。

3.その他事例

実務において、休憩時間や研修時間だけではなく、労働時間に当たるのかどうかの判断が難しい時間があります。
例えば、業務開始前の着替えや清掃、業務終了後の片づけが労働時間に含まれるのかがよく問題となります。
扱い方としては、ここでも使用者側の指揮命令によって、それらが義務的になされているのかで判断します。

研修や朝礼、ミーティング等については、参加の自由が完全に認められていれば、原則として労働時間には該当しません。

しかしながら、以下の状況が少しでもみられるのであれば、労働時間とみなされる可能性があります。
①上司からの指示
②昇給に影響する
③職場の雰囲気的に参加せざるを得ない状況

また、出張に伴う移動時間は、労働をする場所への通勤と判断されるため、労働時間ではないとされています。
ただ、その移動に業務の意味合いが含まれている場合、例えば荷物の運搬が出張の目的だったりするのであれば、その移動時間は労働時間に該当された判例があります。

4.まとめ

労働時間と一括りにいっても、労働時間とみなされる時間、みなされない時間があり、実務での取扱はなかなか難しいというのが現状です。

裁判所の判断ポイントは、やはり使用者の指揮監督下にあったかどうかが重視されていますので、明確にするように心がけましょう。

2019.04.05

【不動産】区分所有建物の管理(後編)

前編では、管理組合の概要について見ていきました。

後編では、区分所有建物を実際に管理する上で重要となる「規約」と、管理組合の内部の役割、そして管理を外部に委託する場合に利用される「管理会社」について解説していきます。

前回の記事はこちらから→「区分所有建物の管理(前編)

1 管理規約

(1)規約の意義・効力

区分所有者の団体、つまり管理組合は、規約を定めることができ、その規約は区分所有者から物件を購入した特定承継人や占有者に対しても効力が生じます。

規約は、区分所有建物にかかる権利義務の根拠となり、法律関係を整理する際の出発点となるとても重要な存在です。

(2)規約の設定・変更・廃止

規約の設定・変更・廃止は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数の決議により行われます。

(3)規約の対象事項

規約は、建物又はその敷地、附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項について定めることができます。

区分所有法は、規約の対象を区分所有者の共有に属するものに限定せず、「建物」「その敷地若しくは附属施設」としています。
さらに、「管理」だけでなくそれらの「使用」についても規約の対象事項としています。

したがって、「管理」に関する事項として、専有部分に属する配管の点検を管理組合が行うことを可能にすることも、「使用」に関する事項として、ペット飼育を制限し、あるいは、専有部分の用途を住居のみに制限することも可能となるのです。

(4)規約の限界

規約の設定、変更または廃止の決議について、一部の区分所有者の権利に「特別の影響」を及ぼすべき時は、その承諾を得なければなりません。

また、規約では専有部分若しくは共有部分又は建物の敷地若しくは附属施設について、これらの形状、面積、位置関係その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定められなければなりません。

なお、この規約の衡平性の関係では、専有部分の面積と無関係に定められた管理費・修繕積立金の負担などが問題となりえます。

(5)マンション標準管理規約

マンション標準管理規約は、規約のモデルとして、国土交通省により作成され、公表されており、実際に多くのマンションの管理規約の参考にされています。(http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html

2 管理者(理事長)

管理者は、規約による別段の定めまたは集会の決議により、選任・解任され、①共用部分、区分所有者の共有に属する建物の敷地及び共有部分以外の付属施設を保存し、②集会の決議を実行し、③その他規約で定められた権利を有し、義務を負い、④その職務に関し、区分所有者を代理するものと定められています。

なお管理者の権限のうち、共用部分若しくは区分所有者の共有に属する建物の敷地等を保存する行為は、集会の決議などを経ることなく行うことができます。

3 理事・監事

法人化された管理組合においては、区分所有法上、理事は管理組合を代表する必須の機関であり、監事も、その執行等を監査する必須の機関であるとされていますが、法人化されていない管理組合では、理事・監事の規定を置いていません。

ところが実態として、多くのマンションでは規約により理事・監事が設置されています。マンション標準管理規約では、理事は理事会を構成し、理事会の定めるところに従い、管理組合の業務を担当するとされ、理事会は、収支決算案等の総会提出議案を決議するといった役割を担っています。
監事は、一般的な法人と同様に業務の執行及び財産状況の監査を担当します。

4 管理の委託(管理会社)

・管理委託契約(標準管理委託契約書)

マンション標準管理規約においては、管理組合の業務として、管理組合が管理する敷地並びに共用部分等の保安、保全、清掃、消毒、ごみ処理やその他修繕の他、長期修繕計画の作成または変更、敷地及び共用部分等の変更及び運営、修繕積立金の運用など、多くの業務が列挙されています。

また、他にも、理事会の業務として、収支決算・予算案、事業報告・計画案、規約・使用細則などの変更案の作成など相応の知識が無ければ遂行が困難な業務が列挙されています。

そこで、マンション標準管理規約では、管理組合は、その業務の全部または一部をマンション管理業者等の第三者に委託し、または請け負わせ執行させることができると定めており、実際のところ、多くのマンションでは管理組合の業務をマンション管理業者に外部委託しています。

理事会・総会の運営についても、マンション管理業者の担当者が会議に出席し、その議事を補助ことが多く、総会の招集手続きも業者が代行することがほとんどです。

このように、管理組合の業務やその運営についての助言や事務の代行を管理会社に委託する契約が管理委託契約であり、管理組合と管理会社との法律関係はこの管理委託契約がその出発点となるのです。

管理組合と管理会社の間で発生するトラブルとして、例えば委託の範囲の理解についての齟齬が原因とみられるものが挙げられます。
両者の法律関係を整理するには、まずは管理委託契約の内容を確認することが必要となります。

なおこの点については、国交省が、管理委託契約の内容を適正化するためにモデルとして「標準管理委託契約書」を公表しており、同省のホームページからダウンロードすることができます。(http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000011.html

2019.04.04

SNSトラブルを防ぐ、ルール作りとチェック体制

気をつけたい企業におけるSNSトラブル」という記事でも前述しましたが、個人アカウント、企業アカウントに関わらず適切にSNS利用するためには、企業側でトラブルに対処できるような就業規則やガイドラインを作成し、従業員に周知させ、社内でチェックすることが重要です。

今回はSNSトラブルにも適応できる就業規則、ガイドライン作成のポイントと社内教育、社内チェック体制についてご紹介します。

1.就業規則を作成するポイント

就業規則に記載されているものは、労働者(従業員)の労働条件であり、懲戒処分などの人事措置を示す根拠でもあります。万が一、従業員がSNS上で問題を起こし、それが企業に多大な不利益を与え、重大な問題となった場合、就業規則に則って懲戒処分を検討せねばなりません。

ただ、SNSに限定した内容を就業規則に細かく記載してしまうと、流れの早いSNSのサービスに対応できず、何度も内容の変更をしなければならなくなってしまいます。
前述のとおり、就業規則を変更するには大変な時間と手間がかかるため、就業規則を作成する際には、SNSでの禁止事項を踏まえた一般的な内容にしていくことが重要です。

例えば、服務規律を定めた項目で「勤務中は業務に専念すること」等を記載すれば、業務中に不適切な行為を撮影し、SNSにアップすることが規則違反であると示すことができます。

他にも、機密保持の項目で情報の厳重管理と私的漏えいの禁止を定めることにより、SNSからの情報漏えいを防ぎ、また電子機器管理の項目では、社内PCや貸与されたスマートフォン等へのソフトやアプリの無断インストール禁止などを設けることで、貸与機器でのSNSアプリ等の使用禁止などを示すことができます。

このように、一般的に守るべき規則として記載し、SNSで生じたトラブルに対しても規則に則れるようにしていきましょう。

2.各ガイドラインを作成しましょう

(1)私的利用についてもガイドラインが必要

おおまかなルールについては就業規則で取り決め、SNSを利用する上で気をつけるべき注意点はガイドラインに記載し、適宜改正しながら運用していきましょう。

重要なのは、アルバイトやパートといった全ての従業員に対して周知してもらうよう、わかりやすく、端的に説明することです。高校生や大学生など、若い世代の人にも理解できるような文章、そして内容も長すぎると読み流されてしまうため、要点を絞ってまとめていくとよいでしょう。

具体的な内容としては、「なぜこのようなガイドラインを設けるのか」「SNSとはどのようなWEBサービスのことを指すのか」「その特徴はどんなものか」等を記載し、SNSを知らない人にも、これから利用するかもしれない人にも分かるように作成していきます。

そして一番重要な「SNSを利用する上での注意点」については、社外秘の情報、顧客情報をSNSに投稿しない勤務時間中はSNSにアクセスしない、など勤務中に起こりうる行為に対して注意を促し、また飲食店では、「有名人が来店したとしてもSNSにアップしない」など業種やサービスに合わせた内容で作成していきましょう。

事例を挙げ、読む側に想像させることで自分自身の事とし、従業員として会社に与える影響が大きいということを認識してもらうという点がポイントです。

(2)公式アカウントを運営する上でのガイドライン

公式アカウントがある企業では、運用していく際の注意点、守るべき点を従業員向けのガイドラインと区別して、公式アカウント用に作成するのが望ましいです。

いつどのようなときに、どのような内容で投稿するのか、SNS上での顧客とのやり取りの方法、トラブルが起こった際の対処法、投稿はどの端末から行うのか(個人所有のものを利用していいのかどうか)などを取り決めていきましょう。

先述したように、SNSの特性上、全ての投稿内容を上長が確認し許可を与えるというのは現実的ではありません。
しかしながら、企業の業績や売上に関わる新商品や新サービスの告知等の際には、「投稿の最終確認作業を複数人で行うこととする」といった内容にしておけば、誤った情報の拡散予防にもなります。

SNSの公式アカウントには、企業の広報的な意味合いが強いもの、担当者の性格が出やすいものなど、様々なアカウントが存在します。それぞれのタイプに合わせた内容にし、例外のないようにガイドラインを作成していきましょう。

3.SNSへの取り組みを外部へアピールする

社内へのSNS対応に加えて、外部へ取り組みをアピールする上でしておきたいのがソーシャルメディアポリシーの作成です。WEBで「ソーシャルメディアポリシー」と検索すると、様々な企業のソーシャルメディアポリシーを見ることができます。

内容としては、「各SNSの公式アカウントがあること」「SNSに対する考え方」「社員への対応」についてなどです。これらを企業のWEBサイトに掲載することで、SNSへの取り組みをしている企業としてアピールでき、トラブルが起こった際にも、企業としての方針を記載しておけば対処している姿勢を示すことができます。

さらに、新商品の情報などは、企業が正式に運営しているサイトやアカウントからのみ行うことや、運営しているWEBサイトやSNS上での意見やクレームの連絡先を掲載することで、誤った情報が予期せず広まるのを防ぐことができます。

4. 社内教育と社内チェック体制の重要性

適切な私的利用、公式アカウント運営をするには、社内での研修や講習を行うのが望ましいでしょう。
新入社員に対しては、その企業に則した利用ができるよう、入社時点での研修等に盛り込むことでSNSが企業に対して与える影響の強さなど、認識を強く持ってもらう機会にもなります。もちろん、アルバイトやパート従業員に対しても入社時に研修を行い、全体で研修内容を把握することが大切です。

講師はSNSに通じた社員や外部講師でも良いですし、肖像権や著作権などに関係する問題も多いため弁護士に依頼するという手段もあります。

就業規則やガイドラインの説明、弁護士に依頼する場合は事例なども紹介し、「自分の身になって考える」というポイントで研修を進めていくと良いでしょう。

研修後は誓約書に署名し、企業の一員であるという意識を強く持ってもらうことも重要です。
社内でのSNSチェックについては、広報担当や管理部門が業務の一環として、いわゆる「エゴサーチ」(自社名、サービス名で検索し関係性を確認)もしくは「モニタリング」(社内PCが適切に使用されているか)を行い、問題が生じた場合には削除依頼や指導等の対応をとる方法、外部専門業者にチェックを依頼する方法、などが挙げられます。

また、公式アカウントで問題が発生した場合、調査対象として投稿した端末やメール等のチェックも行うと原因の究明につながります。

ただし、調査が行き過ぎてしまうとプライバシーの侵害となる可能性もありますので、どの段階までを調査し違反と判断するのかをガイドラインに明示するなど、従業員も配慮し行うことが重要です。

5.まとめ

今回はガイドラインの作成、社内チェック体制などについて説明しましたが、いかがだったでしょうか。企業の管理部門や総務の担当をされている方は、この先起きるかもしれないトラブルへの予防策として、対応が後手にならないよう、ガイドラインについては速やかに作成していきましょう。

次回は、トラブルが起こってしまった際の対処方法についてご説明します。

2019.03.28

マイナンバーと特定個人情報に関する安全管理体制

平成28年1月から、社会保障、税、災害対策の3分野で行政機関などに提出する書類にマイナンバーの記載が必要になりました。

マイナンバー制度において、多くの方が懸念しているのは「個人情報の漏えい」です。
マイナンバーを取り扱う側である事業者は、外部への漏えい・紛失を絶対防がなくてはなりません。
仮にマイナンバーの情報を漏えい・紛失してしまった場合は社会的信用を失うことにもつながります。そのため安全管理対策の徹底化は急務です。

事業者は、①組織的安全管理措置(組織的に管理する)②人的安全管理措置(人的に管理する)③物理的安全管理措置(物理的に管理する)④技術的安全管理措置(技術的に管理する)の4つの安全管理対策(措置)を講じる必要があります。
前者2つがソフト面、後者2つはハード面の対応と言えますが、今回はソフト面の安全管理対策について検討してみましょう。

1.組織的安全管理措置~組織体制、取扱規定

最初にすべきは、事務における責任者を決めることです。
そのあとに事務を行う担当者を決めて、担当者の役割と取り扱うマイナンバーや「特定個人情報(マイナンバーを含む氏名、生年月日、住所等の個人情報)」の範囲を明らかにします。

事業者はマイナンバーや特定個人情報を安全に取り扱うためのルールである取扱規定等を作成したら、これに基づく運用状況を確認するため、システムログや利用実績を記録する必要があります。
例えば、マイナンバーや特定個人情報に関して、以下のような行為を記録することが考えられます。

・ファイルの利用や出力の記録
・書類や媒体等の持ち出しの記録
・ファイルの廃棄や削除の記録
・情報システムのログインやアクセスログなどの記録

そして、もし担当者が取扱規定等に違反したり、情報漏えいなどがあったりした場合に責任者へ報告するための仕組みを整えます。
複数の部署で取り扱う場合における各部署の任務も明確にしましょう。

2.組織的安全管理措置~取扱状況の把握、情報漏えいなどへの対応

事業者は、マイナンバーや特定個人情報を記録したファイルの取扱状況を確認するための手段を整備する必要があります。
例えば、管理簿を作成し、「ファイルの種類」「名称」「責任者」「取扱部署」「利用目的」「作成日」「廃棄日」「廃棄や削除の状況」「アクセス権を有する者」などを記録する等です。
なお、取扱状況を確認するための記録などには、マイナンバーを記載しないようにしてください。

情報漏えいなどがあったり、その兆候を把握したりした場合に、適切に、且つスムーズに対応する仕組みを整える必要があります。
また、情報漏えいに伴う二次被害の防止などの観点から、再発防止策を早急に公表することが重要です。例えば以下のような対応を行うことを定めておくなどです。

・事実関係の調査及び原因の究明
・影響を受ける可能性のある本人への連絡
・特定個人情報保護委員会及び主務大臣などへの報告
・再発防止策の検討及び決定
・事実関係及び再発防止策などの公表

事業者はマイナンバーや特定個人情報の取扱状況の確認を定期的に行う必要があります。整備した対策は定期的に見直し、必要があれば改善しなければなりません。

3.人的安全管理措置

事業者は、マイナンバーの事務を行う担当者に対し、適切な教育を実施することが求められます。
マイナンバーの取り扱いの留意事項や、新たな制度などに関する研修を定期的に行うなど、常に教育をすることが重要です。

また事業者は、マイナンバーの事務担当者に対し、適切な監督を行うことが必要です。
マイナンバーや特定個人情報について、「秘密保持に関する事項」を就業規則や雇用契約書に盛り込むことなどで、担当者を監督できる体制を構築する必要があります。

4.中小規模事業者の対応

中小規模事業者でも、責任者と担当者を区別することで組織的に管理することが望ましいとされています。情報漏えいなどがあった場合に備え、従業者から責任者へ報告する仕組みを確認し、責任ある立場の者が定期的な点検を実施しましょう。

中小規模事業者の実務担当者には、取扱規定等に基づく運用状況の確認において、取扱状況がきちんと分かるように記録を保存することが求められます。
その方法として、管理簿や業務日誌などにマイナンバーや業務日誌などにマイナンバーなどの入手や廃棄、本人への交付などを記載したり、事務を行う際に利用したチェックリストを保存したりするなどが考えられます。
マイナンバーや特定個人情報の取扱状況の把握においても、同様の記録・保存が必要です。

5.まとめ

マイナンバーの安全管理体制においては、組織的に管理し、情報漏えいを防いでいくことが重要です。
中小規模事業者にも、マイナンバーの事務を行う実務担当者に対し、適切な教育や監督が求められます。
教育や監督の一環として、定期的に外部の専門家による研修等を活用するのも有効です。

2019.03.27

【不動産】区分所有建物の管理(前編)

区分所有建物の管理について、前後編の2回に分けて見ていきましょう。
前編では、主に管理組合の成り立ちやその役割について説明していきます。

1 区分所有法と区分所有建物の管理の概要

マンションで共同して生活していくためには、玄関ホールや廊下の清掃、エレベーターの保守点検といった日常的なものから、建物全体の補修といった中長期的な修繕計画に基づく建物の修繕まで、多種多様な管理行為が必要となります。そして、当然にこういった管理を行う役割を担う人が必要となります。

(1)区分所有法上の管理に関わる規定

区分所有法は、区分所有者の共有に属するマンションの共用部分の管理について、建物の保存行為を除き、その決定を、①区分所有者らで構成される管理組合の集会決議、または②規約によるものとして、③管理者(管理組合が法人である場合は、管理組合法人)がこれらの管理組合の決議や規約を執行するものと定めています。

【不動産】区分所有建物の管理(前編)

しかしながら実際のところ、マンションを管理していくためには多くの知識と労力が必要とされるため、専門業者の助力が必要な場合が圧倒的に多くなるため、外部へ委託されているのが一般的です。

次に、管理組合の内部組織について見てみましょう。
区分所有法は、法人化されている管理組合については理事・監事の規定を置いていますが、法人化されていない管理組合についてはこれらの規定を置いていません。
しかしながら実際のところは、法人化されていない管理組合であっても上記のような役職が設置され、管理組合の意思決定が行われることが一般的となっています。

つまり、実際のマンションの管理は、区分所有法に規定のない管理委託契約により外部に委託され、具体的な管理組合の内部組織は規約により構成されていることが多いため、区分所有法のみの理解ではマンション管理に関わる法律関係を理解することはできないということです。
以下に、管理組合、管理規約、理事長(管理者)、理事・監事、管理会社(管理の委託)について順次解説していきます。(管理規約以降の項目は後編にて)

2 管理組合

(1)管理組合の成立

区分所有者は、その個々人の意思にかかわらず、建物等を管理するための団体の一員となり、所有者全員で建物等の管理のための団体を構成し、この団体を「管理組合」といいます。

(2)管理の対象物

管理組合が管理する対象は、どういった物になるのでしょうか?
区分所有法では、区分所有者の共有に属する①共用部分と②建物の敷地及び共用部分以外の付属施設(これらに関する権利を含む)の管理・変更に関する事項は管理組合の集会の決議または規約によるとしており、これらが管理組合による管理の対象物となります。

管理組合による管理の対象物として区分所有法3条に列挙されているのは「建物」「その敷地」「付属施設」であり、上記にある①共用部分②建物の敷地及び共用部分に限定されているわけではありません。
更に、規約では「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理または使用に関する区分所有者相互の事項(法30条)」について定めることができるため、管理の対象物を、規約によって上記①や②以外に拡大することも可能なのです。

なお、専有部分に属する物は、当然ながらその部分の区分所有者自身が管理することが原則ですが、例えば水道管を思い浮かべると分かるように、その枝管・支管が専有部分に属する設備であっても、その本管は共用部分に属しており、配管としては構造上一体となっているため、専有部分・共用部分に関わらず一体的に管理する方が効率的な管理対象もあります。
そういった場合にも、規約によって区分所有者ではなく管理組合がその管理を行うよう定める事が可能となっています。

(3)管理組合の法的性格と権限

1の(1)でも少し触れましたが、区分所有建物の管理組合には、①法人化されている場合と②法人化されていない場合の2つのケースが想定されます。
①法人化されている場合
管理組合そのものが権利・義務の主体となり得る
管理組合法人は、その事務に関して区分所有者らを「代理」するものであり(法47条6項)、管理組合法人の法律行為の効果は最終的には区分所有者に帰属します。

②法人化されていない場合
管理組合の法的性格は、その組織の実態に応じて判断されることとなり、組合内で規約を定めて集会が行われている場合は、その多くが権利能力なき社団と判断されます。
また、①と同様に②の管理組合における管理者も、その職務に対し、あくまでも「区分所有者」を代理するもの(法26条2項)と定められています。

つまり、管理組合が法人化しているか否かに関わらず、区分所有建物の管理に関する法律関係は、その本来的な権利・義務の帰属主体が組合ではなく区分所有者にあるということを理解する必要があるのです。

(4)決議の効力と決議事項

管理組合の決議の効力は、決議当時の組合の構成員のみならず、その特定承継人にも及び、更には建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法につき賃借人などの占有者にも及びます。
なお、区分所有法が定めている決議事項は表1の通りで、「区分所有者及び議決権の各過半数」で決するべき普通決議事項(法39条)と決議用件が加重された特別決議事項があります。
また、区分所有法に規定されていない事項についても、区分所有法や公序良俗、その他の法律に反しない範囲で、規約で集会の決議事項とすることも可能です(法30条1項)。

【普通決議事項】

1 18条本文 区分所有者の共有に属する共用部分の管理に関する事項
2 21条、18条本文 区分所有者の共有に属する敷地または付属設備の管理に関する事項
3 25条1項 管理者の選任・解任
4 26条4項、47条8項 管理者等に対する訴訟追行権の授権
5 33条1項但書、42条5項、45条4項 法人でない管理組合において管理者がないときの規約、集会議事録、書面決議の書面の保管者の選任
6 39条3項 集会における電磁的方法による議決権の行使
7 41条 集会の議長の選任
8 49条8項、50条4項、25条1項 管理組合法人の理事および監事の選任・解任
9 49条5項 理事が数人ある場合の代表理事の選任または共同代表の定め
10 49条の3 理事の代理人の選任の禁止
11 52条1項本文 管理組合法人の事務
12 55条の3 管理組合法人の清算人の選任
13 57条2項・4項 区分所有者等の共同利益は違反行為の停止等の請求の訴訟提起
14 57条3項・4項、58条4項、59条2項、60条2項 区分所有者等の共同利益は違反行為に関する法57条から60条までの訴訟に関する管理者等への訴訟追行権の授権
15 61条3項 建物の小規模一部滅失の際の復旧

 

【特別決議事項】

1 17条1項 区分所有者の共有に属する共用部分の変更
2 21条、17条1項 区分所有者の共有に属する敷地または付属設備の変更
3 31条1項 規約の設定・変更・廃止
4 47条1項 管理組合の法人化
5 55条1項3号、2項 管理組合法人の解散
6 58条1項・2項 区分所有者等の共同利益は違反行為に対する専有部分の使用禁止請求
7 59条1項・2項 区分所有者の共同利益は違反行為に対する区分所有権等の競売請求
8 60条1項・2項 占有者の共同利益は違反行為に対する引き渡し請求
9 61条5項 建物の大規模一部滅失の際の復旧
10 62条 建物の建て替え

 

(5)決議の限界

管理組合の決議といえども、区分所有法の規定に反することは勿論できません。
区分所有法では、集会の招集・議事の手続について34条以下に規定を置いています。
また、決議の内容についても、決議の内容が公序良俗に反してはならず、かつ区分所有法の規定に反することもできません。

 

後半に続きます。

http://www.nakagawa-lawoffice.jp/blog/business/977/

2019.03.11

事業者に求められるマイナンバーの安全管理

平成27年10月からマイナンバー制度がスタートし、平成28年1月からは、社会保障、税、災害対策の行政手続きでマイナンバーの利用が始まりました。
事業者は、マイナンバー法で定められた事務等のうち、税と社会保険の手続きでマイナンバーを利用します。個人の重要な情報であるマイナンバーに関し、事業者はどのように安全管理を行うべきでしょうか。

1.事業者によるマイナンバーの安全管理の基本的な流れ

事業者がマイナンバーを取り扱う上での安全管理に関しては、特定個人情報保護委員会のガイドライン(事業者編)」で規定されています。
これにより、事業者はマイナンバーを安全に管理し、外部への漏えいや紛失を防ぐために、「どのような事務でマイナンバーを取り扱うか?」「どのようなマイナンバーを取り扱うか?」「誰がマイナンバーを取り扱うか?」についての措置を検討することになっています。

これらを考慮しつつ事業者は、マインバーや特定個人情報を安全に管理するための方針である基本方針と、安全に取り扱うためのルールである取扱規定を策定します。
そして以下の4つの安全管理措置を講じることになります。

・組織的安全管理措置
・人的安全管理措置
・物理的安全管理措置
・技術的安全管理措置

まとめると、事業者のマイナンバーの安全管理の基本的な流れは、①措置の検討 ②基本方針と取扱規定の策定 ③安全管理措置 を講じることとなります。
今回は安全管理措置を講じる前段階として、措置の検討と基本方針・取扱規定の策定についてお話ししますので、しっかり準備を整えていきましょう。

2.マイナンバーの安全管理~措置の検討

マイナンバーを安全に管理し、外部の漏えいや紛失を防ぐ上で、まずは「どのような事務でマイナンバーを取り扱うか?」について明確にしておかなければなりません。
頭書のとおり、事業者はマイナンバー法で定められた事務等のうち、税と社会保険の手続きでマイナンバーを利用します。
税関係の事務としては源泉徴収票や給与支払報告書の作成事務、社会保険関係の事務としては、健康保険・厚生年金保険の届出や給付を受ける事務、雇用保険の届出や給付を受ける事務です。

次に、「どのようなマイナンバーを誰が取り扱うか?」を明確にします。前段で明確にした事務について、取り扱うマイナンバーや特定個人情報の範囲を明確にしていきます。
具体的には、それぞれの事務において書類に記載されるマイナンバーと、それに関連付けて管理される「氏名」「生年月日」といった個人情報を洗い出すことです。
尚、特定個人情報とはマイナンバーを含む個人情報を指します。

マイナンバーにさまざまな情報を関連付けると、万が一情報が漏えいした場合などに被害が大きくなることも予想されますので、必要最小限の情報に限定した方がよいでしょう。
一般的には従業員と扶養家族のマイナンバーと氏名、生年月日となります。

そして措置の検討の最後は、マイナンバーや特定個人情報を「誰が取り扱うか?」です。
事業者は、事業者内でマイナンバーを取り扱う事務を行う担当者を明確にしておく必要があります。
事業者によっては個人名を特定することが困難な場合も想定されます。そのような場合は、例えば総務部人事担当者などとし、担当者が特定できれば構いません。

3.マイナンバーの安全管理~基本方針の策定

事業者はマイナンバーを安全に管理するための基本となる方針「基本方針」を策定します。
作成は任意ですが、会社組織としての方向性をきちんと示す手段として非常に重要だと思われます。尚、基本方針を策定する場合は、以下の項目を盛り込んでください。

・事業者の名称
・関係法令・ガイドラインなどの遵守
・安全管理措置に関する事項
・質問・苦情処理の窓口など

4.マイナンバーの安全管理~取扱規定の策定

マイナンバーや特定個人情報を安全に取り扱うためのルールとして取扱規定等を作成することは事業者の急務と言えます。事務の流れを整理し、具体的な取り扱いを定めます。
例えば、以下のような段階ごとに「誰が」「どのように」取り扱うかを検討し、取扱規定を定めます。

・取得する段階(社員からマイナンバーの報告を受けるなど)
・利用する段階(届書にマイナンバーを記載するなど)
・保存する段階
・提供する段階(届書を役所に提出するなど)
・廃棄・削除する段階

5.まとめ

従業員が100人以下の中小規模事業者については、新たに取扱規定として作成しなくとも、日頃使用している業務マニュアルや業務フロー図、チェックリストなどにマイナンバーや特定個人情報の取り扱いを加えるなどの形で構わないこととされています。

中小規模事業者では、事務で取り扱うマイナンバーや特定個人情報が少なく、取り扱う担当者なども限定的であると考えられるので、事業者の負担が軽くなるよう特例的な方法も認められています。

担当者が変更になった場合等も、責任ある立場の者が確実な引継ぎを確認していれば問題ありません。業務フロー図やチェックリストなどを活用して徹底管理するなどの対応をすすめていただきたいものです。

2019.03.04

区分所有者の権利と義務

前回、区分所有建物について説明する中で、区分所有建物は「専有部分」と「共用部分」に分けられると解説しました。
当然ながら建物は複数の所有者が一緒に使用するものなので、それぞれの部分に応じたルールが定められています。

1.専有部分の利用・処分

一般的に、物の所有者の権利については、「法令の制限内において、自由にその所有者の使用、収益及び処分をする権利を有する(民法206条)」とされています。
ところが区分所有法では、区分所有者の権利として以下のような独自の規定を設けています。

(1) 建物の使用等について

法6条1項「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し、区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」

これに違反した場合、一定の要件のもとで、違反行為の停止などの請求(同57条)や専有部分の使用禁止請求(同58条)区分所有権の競売請求(同59条)を受けることもあり得ます。区分所有建物でない建物の所有者が近隣住民に迷惑をかけても、特段の事情のない限り不法行為責任を負うにすぎないことと対比すると、区分所有権者の所有権は大幅に制限されているといえます。

法30条1項「建物又はその敷地若しくは付属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる」

もしマンション等に居住したことがあるならば、下記のような制限が賃貸借契約書に書いてあることを見たことがあるのではないでしょうか?

・室内でのペットの飼育の禁止   ・住居以外の目的での使用の禁止

これが、正に法30条1項にある、建物の使用に関して区分所有法に規定が無く、「規約で定めることができる」事項の典型例です。
専有部分の所有者は、その専有部分(部屋の使用等)を一軒家と同様に自由に使用して良い訳ではありません。規約で定められる事項の範囲として専有部分の使用等に関する事項も一定の範囲で含まれるものと解釈されています。
また、専有部分の使用について規約に違反した場合には、区分所有法6条1項違反となります。

(2) 処分に関する主な制限

民法の所有権と同様に、区分所有権も自由に売却等の処分をすることかできます。
ただし、共用部分との分離処分は認められていないため、専用部分のみを処分した場合、共用部分も専用部分の処分に従うものとされています(法15条1項)。なお、共用分のみを処分した場合、その処分は無効となります(同条2項)。

2.共用部分の使用・処分

(1)共用部分

共用部分は原則として区分所有者の共有に属しますが(法11条1項)、その持分割合は、規約に特段の定めがない限り、原則として各所有者の有する専有部分の床面積の割合に準じています(法14条)。
専有部分の面積については、建物の全部事項証明書(登記簿)を確認すると良いでしょう。

(2) 共用部分の管理・変更

共用部分の共有関係については、民法上の規定が排除され(法12条)、区分所有法独自のルールによって規律されます。
それぞれの条文について、区分所有法と民法を比較していきます。

区分所有法 民法
13条「各共有者は、共用部分をその用方に従って使用することができる。」 249条「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。」
17条「共用部分の変更は、区分所有者及び議決権の・・・集会の決議で決する。」
18条「共用部分の管理に関する事項は、・・・集会の決議で決する。」
256条「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。」
30条1項「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」 206条「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。」

①民法は「持分に応じた使用」しか認めていないことに対し、区分所有法では「各共有者」が「共用部分」を使用することができるという点が大きく異なっています。
②民法では共有物を「いつでも」分割請求することが認められていますが、区分所有法では、共用部分に関わる部分については「集団決議で」決定することが求められています。
③これは1.の(1)建物の使用等についての説明で触れた条文ですが、専有部分に限らず、共有部分の用法に制限が加えられている例も多く見られます。

(3) 費用の負担

法19条「各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する」

例えば、廊下の窓ガラスが割れて修理が必要となった場合の費用負担を考えてみましょう。
廊下は、一般的に共有部分に属します。よって、規約に定めのない限りは、その建物の区分所有者全員がその修理費用を負担しなければなりません。もし特定の区分所有者がこれを支出した時には、他の区分所有者は自分の負担割合に応じて、支出者に立替金の返還をする必要があります。

3.専用使用権

(1)専用使用権とは

法30条1項「建物又はその敷地若しくは付属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる」

さて、この条文は今回何度目かの登場となりますが、「専用使用権」を理解する上では、「規約で定めることができる」という部分に着目します。
ここでいう「規約」では、前述した1専有部分や2共用部分の使用でも触れたように、区分所有法に規定のない項目について定めることができます。

建物の中には、共用部分に属しながら特定の区分所有者しか使用しない(若しくは他の所有者は使用できない)部分が存在します。そういった部分について、特定の区分所有者、又は特定の第三者に対し、排他的に使用する権利を与えることを「専用使用権」というのです。
具体例を挙げて見ていきましょう。

①ベランダ・バルコニー
多くの場合、ベランダやバルコニーは共用部分に属します。しかしながら一方で、世帯ごとに区切られていることが一般的であり、区分所有者が勝手に他の世帯のベランダに立ち入ることを認めるわけにもいきません。よって、多くの規約では、ベランダやバルコニーについては、これに隣接する専有部分の区分所有者に対し専用使用権を認めているのです。

②駐車場
区分所有建物内やその敷地の中に駐車場を設けている場合、特定の区分所有者に専用使用権を認めている例も多いようです。

なお専用使用権については、その条件設定や条件の変更の可否をめぐって紛争化するケースも少なくありません。

4.管理費用の負担

区分所有者は、それぞれが建物の管理費や修繕積立金を負担していることがほとんどですが、これらの費用の支払い義務・金額については、区分所有者らによる集会、又は規約によって定められています(法18条1項、30条1項)。

2019.02.20

労働基準法とは? ~労働契約編~

企業に務める上で遵守されるべき「労働法」や「労働基準法」ですが、そもそも労働基準法とはどんなものなのか、またどのような場合に違反となるのか、今回は事例を踏まえながらご紹介します。

1.労働基準法とは?

そもそも労働法とは何か、労働基準法とは何かをお話した上で進めていきます。

労働法とは、労働者の権利を保護し生存を保障するための法律のことを指します。中でも、労働基準法、労働組合法、労働関係調整法の3つを、労働法の最も基礎となる法律として、労働3法としています。
労働基準法は憲法27条「労働権」の規定に基づいて1947年に制定されました。
例外もありますが労働者を守るための「最低限」のことを定めた法律にあたります。

ここで何か引っかかったでしょうか。
それは「最低限」という部分ではないでしょうか。

この法律は守ることが当たり前であり、法律の基準を下回ると違法となってしまいます。
労働基準法を下回る労働条件は無効となりますが、その場合無効とされた部分に関して労働基準法の基準が自動的に適用されることとして労働者の保護を図ったのです。

このことを踏まえて、具体的に労働基準法に何が規定されているのか見ていきましょう。
労働基準法では主に以下のことが規定されています。

働く上で事業主にとっても労働者にとっても重要なことばかりです。

今回は労働契約について見ていきましょう。

2.労働契約のルールと記載すべき事項

<契約期間>
労働契約は双方の合意に基づき締結されるものですが、その期間というものに制限があります。無期雇用の場合は問題ないのですが、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほか、3年を超えて締結してはなりません。
ただし、例外というものがあります。専門的な知識・技術・経験が必要とされている業務に就く場合、若しくは満60歳以上の方についての契約は5年まで可能となっています。

また、雇用をする際には、労働条件の明示が義務付けられており、これを明示する書類を労働条件通知書と呼びます。
そして、この通知書の交付により明示すべき事項は決まっています。
このような義務付けられた明示事項を絶対的明示事項と言います。

・労働契約期間
・有期労働契約者の場合は更新する場合の基準
・就業場所、従事すべき業務
・始業、終業時刻、所定労働時間外労働の有無、休憩、休日、休暇
・賃金の決定、計算方法、支払方法、賃金の締切日及び支払日、(※昇給)
・退職に関する事項です。
※なお、昇給に関しては書面の交付は必要ありません。

これに対して、相対的明示事項というものがあります。
これは定めがある場合には明示しなければいけないものですが、絶対的明示事項とは異なり口頭による説明のみでも問題ありません。

・退職手当に関する事項
・賞与、最低賃金に関する事項
・食費、作業用品に関する事項
・安全衛生
・職業訓練
・災害補償、業務外の傷病扶助
・表彰及び制裁
・休職

では、労働条件を明示していなかったことを理由として、会社側に不利な判断がなされた事例を見てみましょう。過去に以下のような労働審判がありました。

3.過去の判例から見るポイント

従業員が、自身の勤める会社とは別の職場への出向命令を受けました。
この命令が従業員の同意なしに行われたことについて、違法であるとして争われた事案です。

この労働審判において、争点は、出向命令の有効性でした。

・出向命令の根拠

裁判所は、本件が、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合」に当たるか否かを検討するに、就業規則において、「従業員に対し業務上の社外勤務をさせることがある」と定めていること、従業員に適用される労働協約において、社外勤務の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金、退職金、各種の出向手当など出向者の処遇に関して出向者の利益に配慮した詳細な規定が設けられていることからすれば、個別的同意なしに、従業員としての地位を維持しながら、その指揮監督の下に労務を提供することを命ずる本件出向命令を発令することができるというべきであると判断しました。
(最高裁平成11年(受)第805号平成15年4月18日第二小法廷判決・最高裁判所裁判集民事209号495頁参照)

・注意すべきポイント

この裁判の重要なポイントは
①就業規則に出向について定めているか
②労働協約に出向に関する具体的な待遇について定めていたか
③出向元と労働契約関係が存続しているか
➃出向の必要性と人選に関する正当性の有無

など上記の点から判断された事例です。

結果、この出向命令に違法性は無いとして、請求は棄却されました。
労働契約にて就業場所の記載欄に、今後の転籍や出向についての記載があれば裁判自体、十分に防げたかもしれません。
すべてのことを網羅的に記載することは難しいかもしれませんが、こういった穴を1つひとつ埋めていくことが必要になってくるでしょう。

4.まとめ

近年、労働に関するニュースは報道される度に注目されています。
特に問題として多く取り上げられてきたのが、労働時間に関する問題及びそれに付随してくる賃金(残業代)の問題です。
様々な労働問題が発生した際は、労使間にて対等な立場で決定していくことが理想ですが、性質上どうしても使用者側が優位になっていることが現状です。
なるべく労働問題が発生しないように、注意すべきポイントで述べたように雇用契約書や諸規則を度々見直し、改善していくことが大切なのです。

2019.02.20

いまさら聞けない?社会保険の基礎知識!

入社した際に加入する「社会保険」。
社会保険には、様々な種類があるのはご存知でしょうか。社会保険制度について正しい知識を持つことはとても重要なことです。
知っているようで知らない、社会保険について種類や手続きなどをご紹介します。

1.そもそも社会保険とは何だろう

公的な社会保険制度とは、会社などで働く人たちが収入に応じて保険料を出し合い、万が一病気やケガをして医療機関で診療、入院、手術ということになった場合に必要な保険給付を受けることができたり、加齢や障害といた事由が生じた場合に年金給付を受けることができるよう制度化された、国が運営する保険制度のことです。

日々の暮らしの中で、突然の病気やケガ、急な死亡や障害を負ってしまったり、経済的に困ってしまうことがあるかもしれません。
そうした万が一のリスクに備えて、民間の生命保険会社や損害保険会社の医療保険や個人年金等に加入している人たちが数多くいます。ただし、民間の保険は任意加入ですから、すべての人たちが医療保険等によってリスクカバーできているとは限りません。

2.社会保険の趣旨

(1) 社会保険である健康保険・厚生年金は、広く働く人のための保険です。サラリーマンなら皆加入して、生活を保障してもらうことになっています。
(2) 社会保険は、仕事に関連しない私傷病における療養費の給付や、生活保障・老齢による生活保障をするための制度です。なので、業務上の傷病については、適用できないことになっています。
(3) 労働者でない事業主や役員も原則加入となります。つまり、給与所得者は全員加入することになります。

3.社会保険の種類

・会社勤めの人・・・職域保険
・自営業や無職の人・・・地域保険
・公務員など・・・共済保険

上記のすべてを含む総称を社会保険と示すことが多くあるので、内容をしっかり読み取り、どの保険について書かれているのか把握するようにしましょう。
※新聞・雑誌が使う社会保険の定義
・社会保険・労働保険
・国民健康保険・国民年金・後期高齢者保険
・各種共済保険

4.社会保険の給付が適用になる範囲

5.会社(事務)が行う手続き

(1)会社が行う手続きは?

上記、3. 社会保険の種類の中の職域保険は会社そのものが適用対象となります。
①健康保険   ②介護保険(保険料徴収のみ)
③厚生年金保険 ④労働者災害補償保険(労災保険)
⑤雇用保険

(2)社会保険は支店、営業所ごとに加入する

原則として「事業」を単位として成立します。会社そのもの、企業そのものではなく、一つの会社にいくつかの支店や工場がある場合には、原則として支店や工場ごとに保険関係が成立することになります。
※ただし、事業所の規模が小さいあるいは事務処理能力がない、などその独立性が乏しい場合は、直近上位の事業所にまとめたり、一括することもできます。

(3)事務手続き

会社そのものが対象となるため、従業員の入社・退社にともなう手続きや保険給付の請求等の手続き事務は、従業員本人ではなく会社が行わなければなりません。

例えば、従業員に子供が生まれ、会社にその旨が報告されても会社が手続きを怠れば、その子供は被扶養者(被保険者本にから扶養されている人)として健康保険被保険者証が交付されませんし、出産手当金や出産育児一時金という保険給付も受けることができません。
それだけに、社会保険事務の担当者は従業員の法定福利を担う重要な役割を果たす義務があるといえます。

(4)手続きまで手が回らない時は?

やはり社会保険事務を行う部署は総務や人事が主ですが、手続きの手順や方法などすぐには分からない時は、社会保険労務士に顧問についてもらい、社会保険の加入の手続きやその他の労務関係を代行して手続きしてもらえますので、社会保険労務士に相談するのも一つの手かもしれません。
自社で対応する人件費コストと顧問社労士を依頼するコストを比較して、自社に最適な形を考えましょう。

1 5 6 7 8 9 10 11
WEB予約 Nexill&Partners Group 総合サイト
事務所からのお知らせ YouTube Facebook
弁護士法人サイト 弁護士×司法書士×税理士 ワンストップ遺産相続 弁護士法人Nexill&Partners 福岡弁護士による離婚相談所