物損事故の問題点①~代車料について~
<ご相談者様からのご質問>
物損事故に遭ったのですが,相手方の保険会社の担当者から「過失事故なので代車料は支払えません」と言われましたが本当でしょうか。
<弁護士からの回答>
今回から数回にかけて物損事故において問題になる事項についてご説明させていただきます。今回は,物損事故の際に発生する代車料についてご説明させていただきます。
物損事故が起きた際に,自動車の損害を回復するためには,自動車を修理する必要があります。その修理期間中に自動車を使用する必要が生じた場合,代車を使用する際の代車料は交通事故により発生した損害であるため,加害者には代車料を請求することができます。代車料が請求できる期間は,一般的に当該損傷を修理するために要する期間です。
なお,代車の車種(グレード)についてですが,代車を使用する必要性や代車使用の目的との関係で,代替できる車種(グレード)に限定されてしまうことが一般的です。例えば,外車が事故に遭った場合には,国産高級車で代替可能であると判断されることが一般的です。
このように,代車料は,交通事故により発生した損害であることから,双方に過失が認められる事故であっても,損害として発生していることに変わりはありません。したがって,ご相談者様のケースでの相手方保険会社の担当者の対応は間違っており,過失事故であっても代車料を請求することができます。
もっとも,保険会社においては,被害者ご本人のみで対応している際には,過失事故の場合には代車料を支払わないとの対応をすることがあります。そのような場合には弁護士を代理人としてつけることにより,過失事故であっても代車料は支払うべき義務があるということをきちんと説明し,相手方保険会社と交渉することができます。
ここで気を付けなければならない点としては,過失事故の場合,被った損害の全てが賠償されるわけではありません。自身の過失割合に相当する金額は支払われないことになります。したがって,代車料についても,全額が支払われるわけではなく,自身の過失割合に相当する金額については支払われないことになります。
賠償に至るまでの流れ~人身事故編~
<ご相談者様からのご質問>
交差点に入ったところで脇道から入ってきた車にぶつけられました。相手は減速せずにぶつかってきたため,とても強い衝撃で,首も肩も腰も痛いです。今日から病院で入院することになりました。仕事も休まないといけないです。今後どうなるのでしょうか。
<弁護士からの回答>
前回ご説明したとおり,物損事故の場合には,過失割合が問題にならないときには紛争になることもなく,スムーズに解決することが多いです。もっとも,人身事故の場合には過失割合のみならず,治療期間,慰謝料等交渉すべき事項が多岐にわたります。今回は,人身事故における賠償にいたるまでの経緯についてご説明させていただきます。
1 治療
事故に遭いケガをしてしまった場合には,まずはケガの治療を第1に優先されてください。骨折など重傷を負っている場合など,ケガが治るまでに相当の期間を要する場合には,治療が終了するまで損害額を確定することができないため,事故後直ちに示談が行われるということはありません。また,入院をした際等には仕事にでることができませんが,治療により欠勤した際の損害(休業損害といいます。)については請求することができます。相手方保険会社との交渉により,休業損害については,示談前であっても,先に支払われることが多いです。
治療期間が経過していくと,相手方保険会社から「そろそろ治療を打ち切ってください」等といわれることがあります。治療については一般的に保険会社が判断できる事項ではなく,医師が判断すべき事項であります。したがって,弁護士が代理人としてお手伝いさせていただく際には,治療を行っている医師の診断内容を踏まえつつ,相手方保険会社に対しまだ,治療の必要性があると伝え,治療費を負担するよう交渉することになります。
2 治癒,症状固定(後遺症の申請)
ケガの治療を継続していくと,どこかのタイミングで,ケガが完全に治った状態(治癒といいます)になるか,医師においてこれ以上治療を続けても症状が改善しない状態(症状固定といいます)のいずれかの状態になります。治癒の状態になった場合には,直ちに示談の交渉に移行しますが,症状固定の状態になった場合には,残存している症状が,後遺障害として認定された場合には後遺障害による損害(慰謝料,逸失利益)も請求することになります。後遺障害の認定を売るためには医師に後遺症診断書を作成してもらう必要があります。
3 示談~裁判
ケガが治癒したあとや,後遺障害が認定されると損害額について,加害者側の保険会社と協議を行うことになります(双方に過失が認められる場合には過失割合についても協議を行います。)。損害額の協議が整わなかった場合には,物損事故と同様裁判によって賠償を求めることになります。
物損事故の場合には賠償額が減額されるということはありませんが,人身事故の場合には慰謝料の金額について,保険会社の基準で非常に低い金額が提示されることが多々あります。したがって,人身事故における慰謝料の交渉については弁護士を代理人として入れた方が基本的には慰謝料の金額が上がるため依頼した方がよいでしょう。
賠償に至るまでの流れ~物損事故編~
<ご相談者様からのご質問>
交差点で相手の車とぶつかってしまいました。お互いケガはありません。
これまで交通事故に遭ったことがないので,今後どのように進んでいくのかがわかりません。ケガはないので弁護士さんに依頼しなくても大丈夫でしょうか。
<弁護士からの回答>
物損事故といえども,相手方の保険会社との間でトラブルになることは少なくありません。今回は,物損事故に遭ってしまった場合に事故後から解決に至るまでの一連の流れについてご説明させていただきます。
1 損害額の確定
物損事故の場合には,基本的には,当該車両の修理費(もしくは時価額。時価額が損害になる場合については別の機会にご説明させていただきます。)が損害額となります。事故に遭った場合には,修理工場にて修理の見積もりを行い,見積が確定した後に,賠償額が決まることになります。
2 賠償額の確定
停車中に後ろから衝突された場合など,加害者の一方的な過失(0:100)の事故の場合には,上記の損害額(修理額若しくは時価額)がそのまま賠償されることになります。賠償額の支払方法としては,修理が行われている場合には,加害者側の保険会社から直接修理工場に対し修理代金が支払われるという方法と,修理代金を加害者側保険から被害者が直接支払いを受けるといった2つの方法が考えられますが,自動車の修理が先行することが多いため,前者の方法がとられることが多いのではないかと思います。
これに対し,交差点での事故や,双方の自動車が動いている際の事故の場合には,当該事故がどちらの過失がどの程度認められるのかという過失割合が問題になります。物損事故の場合にはこの過失割合について相手方保険会社との間で交渉する際にトラブルとなり,弁護士にご依頼いただくことが多いです。自身にも過失があると判断された場合には,自分の損害額のうち自身の過失割合に相当する金額は,賠償されません。それどころか,相手方の損害のうち,自身の過失割合に相当する金額については賠償する必要があります。具体例で説明すると,ご自身の車の修理額が40万円,相手車両の修理額が20万円,自分と相手の過失割合が20:80(自分が2割の過失,相手が8割の過失)の場合には,自車の修理代の2割(8万円)と,相手方の修理代金の2割(4万円)は負担しなければなりません。
3 示談~訴訟
この過失割合については,相手方保険会社との間で協議を行い,協議がととのえば示談書を作成して解決するのですが,過失割合について協議が整わない場合には,裁判で賠償額を確定することになります。物損事故のみの場合の裁判は,金額も高額になることは稀であり,簡易裁判所で判断することになるため,比較的短期間機で解決することが多いですが,過失割合について複雑な事案等の場合には半年以上かかる場合もあります。
いずれにせよ,過失割合が問題になった際には,弁護士に依頼することで,適切な過失割合をきちんと相手方保険会社に提示して交渉をすすめることができますので,是非弁護士にご相談ください。
任意保険の特約について
<ご相談者様からのご質問>
任意保険を契約する際に,確か色々な特約もついていたと思うのですが,交通事故に遭ってしまったときに役に立つ特約というのは何かありますか。
<弁護士からの回答>
任意保険に関しては,各保険会社において補償内容については様々ですが,契約する際には保険の内容についてきちんと説明を受けてはいるものの,自分がどういった内容の特約が付いているのかについては,普段あまり意識していないと思われます。そこで,今回は任意保険についている特約のうち,交通事故に遭った際に役に立つ特約についてご説明させていただきます。
1 人身傷害特約,無保険車傷害特約
停車しているところに相手方の自動車が追突してきた場合のように,相手方の一方的な過失によりケガをしてしまった際,加害者が任意保険者自賠責保険に加入していれば問題ないのですが,加害者が加入していない場合,事故により被った損害を加害者側から支払ってもらうことは現実的に難しくなってしまいます。そのような場合に,無保険車傷害特約が付いていると,自分が加入している任意保険会社から治療費や慰謝料,休業損害等が支払われることになります。
また,無保険車傷害特約と似た内容ではありますが,人身傷害特約というものもあります。こちら側の過失の割合が大きい場合には,こちらのケガの治療費等損害額のうち,自身の過失割合に相当する額については自己負担しなければなりませんが,人身傷害特約に入っていれば,過失の割合に関係なく,治療費等損害額の全額を補填してもらえることになります。
なお,無保険車傷害特約,人身傷害特約のいずれにも,支払うことができる限度額(保険金限度額)が設定されていますので,その限度額を超えた損害については支払いがなされないことになります。
2 弁護士費用特約
交通事故で加害者側になった場合には,別の機会にもご説明いたしますが,加害者の任意保険会社の担当者が被害者側と交渉し,交渉が難航した場合には保険会社の費用負担で弁護士が対応することになります。
他方で,被害者側の場合には,原則として被害者の弁護士費用については被害者ご自身が負担をしなければならず,物損事故や軽微なケガの事故の場合には,弁護士費用の負担を理由に弁護士への依頼ができないというような状況が一般的でした。
そこで,弁護士費用特約に加入しておくと,被害者になった際に,自身の任意保険会社が依頼した弁護士の費用を負担してくれることになります。これにより,交通事故に遭われた方であっても,弁護士費用を気にすることなく,弁護士に依頼することができます。なお,弁護士費用特約を使っても保険料の等級が下がるということはありません。別の機会にもご説明いたしますが,物損事故であれ,軽微な人身事故であっても,適正な賠償を得るためには,弁護士を代理人として選任するのが一番の解決策であると考えています。
したがって,ご自身の任意保険に弁護士費用特約がついている場合には,是非一度弁護士にご相談ください。
自動車保険について
自動車保険について
<ご相談者さまからのご質問>
交通事故に遭うまで自動車保険についてはあまり意識していませんでした。
自賠責保険,任意保険などありますがそれぞれどういったときに使うものなのですか。
<弁護士からの回答>
交通事故の場合,被害者が被った損害について,加害者から直接支払われることは稀であり,基本的には,加害者が加入している任意保険会社から支払われることになります。今回から数回にかけて,自動車保険についてご説明させていただきます。今回は,自賠責保険,任意保険の内容についてご説明させていただきます。
自賠責保険とは,正式には,自動車損害賠償責任保険といいます。自動車損害賠償責任保険法によって自動車及び原動機付自転車を使用する際,すべての運転者への加入が義務付けられている損害保険です。自賠責保険に未加入で運行した場合には1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることになります。したがって,自動車などを運転される方は必ず,自賠責保険には加入しておいてください。
前回もお話させていただきましたが,自賠責保険で支払われるのは,交通事故に関する損害のうち,人身損害の部分のみであり,物損部分については,自賠責保険は適用されません。また,自賠責保険は保険金の限度額が低く設定されており,傷害部分(治療関係費,文書料,休業損害,入通院慰謝料)については,120万円までしか支払われず,後遺障害部分については,等級によってことなりますが,例えば,後遺障害等級14級の場合では75万円しか支払われません。
このように,自賠責保険だけでは,きちんとした賠償を行うことができず,自賠責の限度額を超えた部分については,加害者が支払わなくてはなりません。交通事故による損害については,被害者が死亡してしまったり,重度の後遺障害が残ってしまった場合には,損害額が数千万円,場合によっては数億円となるような場合も十分にあり,多額の賠償義務を負うことになってしまいます。このような事態を防ぐために,自賠責を越えた損害部分について,填補するための保険が任意保険になります。具体的には,物損部分については,任意保険の対物賠償保険が,人損部分については対人賠償保険が適用されることにより,ほとんどの事故で被害者の損害の全額を填補することができます。このように,事故を起こしてしまったとしても,自賠責保険と任意保険に加入しておけば,多額の賠償金を負担しなければならないことは避けることができるため,自動車を運転する場合には,自賠責保険だけでなく,任意保険にも加入しておいた方がよいでしょう。
交通事故の種類について
交通事故の種類
<ご相談者様からのご質問>
交通事故に遭ったときは色々しなくてはならないのですね。ところで,先ほどから先生が話している人身事故,物損事故とはそれぞれどういった内容の事故を言うのですか。おおまかなイメージはわかるのですが,人損事故と物損事故で何か違いはありますか。
<弁護士からの回答>
今回は,交通事故の種類についてご説明させていただきます。
物損事故と人身事故では,請求できる内容,適用される保険等が異なってくるので,各事故についてご説明させていただきます。
交通事故の種類は,①人身事故,②物損事故,③人身事故兼物損事故の3種類があります。
人身事故とは,交通事故により人が死傷した場合をいいます。ケガを負った場合だけでなく,死亡してしまった場合にも人身事故となります。また,運転手のみならず,同乗者がケガした場合,事故に巻き込まれた第三者がケガした場合でも人身事故になります。
物損事故とは,交通事故により人がケガをしておらず,自動車やバイクが損傷した事故をいいます。また,当事者の車両だけでなく,ガードレールや他人の敷地等を損傷してしまった場合にも物損事故に該当します。
人身事故になった場合は自動車運転過失致傷罪(死亡した場合には自動車運転過失致死罪となります。)として,刑事事件として扱われます。したがって,事故状況をきちんと把握するために,警察官にて実況見分(衝突位置,相手の車を発見した位置等を記録する捜査です。)を行い,実況見分調書を作成します。物損事故の場合には刑事事件にはならないため,実況見分調書は作成されず,簡単な事故状況報告書というものが作成されるだけです。
また,人損事故の場合には行政処分として免許の点数が加算されますが,物損事故の場合には行政処分も課されません。
自賠責保険(保険の内容については別の機会にご説明させていただきます。)は,人身傷害の際に支給される保険となっています。したがって,物損事故の場合には自賠責保険の対象になりません。加害者が任意保険(対物賠償保険)に加入していないと,保険会社からは保険金が支払われないことになってしまいます。
免許の点数がついてしまうと,仕事などで不都合が生じる場合等に,加害者側から「きちんと治療費を払うので,人身扱いにしないでほしい」と頼まれることがまれにあります。しかし,物損事故扱いになってしまうと,病院の治療費や,慰謝料(入通院慰謝料,後遺障害慰謝料)などが一切払われなくなってしまい,きちんとした賠償が受けられなくなってしまいます。したがって,交通事故でけがを負った場合には,必ず病院に行き,診断書を書いてもらい,警察に提出することで,人身事故として処理してもらうようにしてください。
交通事故にあってしまったら②
交通事故にあってしまったら②
<ご相談者様のからのご質問>
どんなに軽微な事故でもきちんと警察に届け出ないといけないのですね。警察には連絡しました。これで警察がきちんと対応してくれるので問題ないですね。
<弁護士からの回答>
事故後にしなければならないこと,すべきことについてはまだまだ存在します。特に,どういった事故であったのかということについては,後々過失割合という形で大きな争点になることがあります。事故直後からきちんと準備をしておくことでたとえ紛争になったとしてもきちんと自分の主張を認めてもらえる可能性が高まります。今回は引き続き事故直後の対応についてご説明させていただきます。
警察への連絡を行うと,通常10分程度で警察官が現場へ臨場します。警察官が臨場するまでの間に,加害者の情報を確認する必要があります。相手に対し,自動車車検証の提示を求め,加害者の氏名,住所,連絡先,職業等を確認した方がいいでしょう。また,相手方が加入している任意保険会社がどの保険会社あるかについても確認した方が良いでしょう。
次に,事故状況をきちんと記録に残しておくことが必要です。ご相談者様がおっしゃるように,警察に連絡をすれば,警察において事故状況を確認するのですが,仮に,物損事故である場合には警察において当事者の話を聞いて簡単な手書きの図を作成して終了ということがほとんどなので,事故直後の車の位置,ブレーキ痕,双方の車両の衝突箇所,損傷具合などを写真に残しておくとともに,可能であれば加害者に事故当時の運転状況(わき見をしていたか,ブレーキを踏んでいたか)等の話を聞き,録音しておくとよいでしょう(事故状況をきちんと記録しておくという意味ではドライブレコーダーがあればとてもよいでしょう。)
また,人身事故になった場合には,警察にて実況見分調書は作成され,事故状況を詳細に確認しますが,その際にもブレーキ痕などは時間が経つと消えてしまうので,同様に事故状況をきちんと記録しておくことが重要です。
最後に,必ず現場で行わなければならないわけではありませんが,ご自身が加入されている任意保険会社に連絡し,交通事故が発生したことについては報告しておいた方がよいでしょう。その際,ご自身の保険内容をご確認し,任意保険でどういった保障がされるのか,弁護士費用特約がついているか等を確認してみてください(任意保険や弁護士費用特約については別の機会にご説明させていただきます。)。
もし,弁護士費用特約がついていることが確認できた場合には,弁護士費用(相談料だけでなく,着手金,報酬金も含みます。)についても保険会社が負担してくれるので,今後の進め方などをアドバイスし,代理人としてお手伝いさせていただくことも可能ですので,是非一度弁護士にご相談ください。
交通事故に遭ってしまったら①
交通事故に遭ってしまったら①
<ご相談者様からのご質問>
先程,交差点で交通事故に遭いました。私が交差点を直進しようとしたら,対向車線から相手の車がいきなり右折してきたのです。幸いケガはなさそうです。相手の方からは自分が悪いので,車の修理費は全て持つので警察は呼ばないでくれと言われています。きちんと対応してくれるのであればわざわざ警察まで呼ばなくてもいいのではないかと思ってしまうのですが。
<弁護士からの回答>
ご相談者さまの事例のように,相手方から警察を呼ばないで欲しいと言われることは少なくありません。相手の言葉を信じて,警察を呼ばないと後々で面倒なことに巻き込まれてしまう可能性は非常に高いです。今回から数回にかけて,交通事故が発生直後にしなければならないこと,しておいた方が良いことについてお話させていただきます。
事故が発生したら,すぐに,ご自身や同乗者等にお怪我をなされている方などがいるかを確認し,けが人がいる場合には早期に救出することが必要です。このとき,ご相談者さまのように,目立った外傷がない場合であっても,あとから症状が出る場合もあるため,大きなケガをしていなように見えても,痛みがある場合などには念のため救急車を呼んでおいた方が良いでしょう。
ケガの状況の確認が済み次第,必ず警察へ連絡を入れてください。これは事故の内容がケガをしておらず,車の損傷のみである物損事故の場合であっても必ず連絡することが必要です。その理由としては,交通事故にかかる車両等の運転手には,事故が発生した際に警察に報告する義務を有している(道路交通法72条1項)だけではなく,警察に事故の届出をしなければ,後日,相手方の保険会社や,ご自身の保険会社に保険金を請求する際に,そもそも交通事故が発生したことの証明をすることができなくなってしまいます。警察に届出をすることで,物損事故の場合であっても,交通事故が発生したことの証明書(交通事故証明書といいます。)が作成されるので,どのような事故であっても必ず警察に連絡してください。
ご相談者様の事例のように,相手方から職場でのペナルティや,事故による免許の違反点数がついてしまうことを避けるために警察に連絡するのをやめて欲しいと言われることはまれにですが存在します(特に事故の加害者から言われることがあります。)。しかし,相手からいくら,治療費や修理費を全額払う旨言われていたとしても必ずその申出は断るようにしてください。上記のように,警察に届け出なかったことにより,後々保険金の請求をすることができない若しくは困難になってしまったり,相手の所在が分からなくなり,被害者であるにもかかわらず最終的に,損害を賠償してもらえなくなる可能性が十分に考えられます(事故証明書を取得しておけば,相手方の住所地や自賠責の保険会社などの情報が判明するため,所在不明というような状況は防ぐことができます。)。
したがって,そのような申出があった場合には,自動車を運転している以上,交通事故が起きた際には,法律上警察を呼ぶ義務があることをきちんと理解してもらい,必ず警察に連絡するようにしてください。
交通事故に関する問題について
交通事故に関する問題について
近年,技術の発達に伴い,衝突回避システム等を搭載した自動車が普及される時代になってきました。こうした技術に確信に伴い,近年交通事故の件数は減少しています。しかしながら,日本では1年間に約50万件以上の交通事故が発生しています(平均にすると1日約1600件,1分に1件以上発生していることになります。)。
交通事故に関しては,運転中のほんの少しの気のゆるみで取り返しのつかない事態に発展してしまう可能性があるだけでなく,自分は問題ない運転をしていたにも関わらず,被害者として事故に巻き込まれてしまう可能性も否定できません。
交通事故はあらかじめ起きることが分かっているものではなく,突然発生します。いきなり交通事故にあってしまいどうすればいいかわからないまま,現場での対応,病院への通院,相手方保険会社とのやり取り等(治療期間のやりとり,過失割合のやり取り,代車が認められるのかなど・・・・交通事故の被害に遭われた方でここが一番大変なところだと思います。)に負われてしまいます。
上記の各場面できちんと対応しなければ,事故により被った被害をきちんと回復することができなくなってしまう可能性も否定できません。
軽微な物損事故であれば,金額はそこまで大きくないので大きな問題にはならないかもしれませんが,重大な事故で,重篤な後遺障害が残ってしまった場合には,ケガを抱えたままで生活をしていかなければきちんとした賠償を得ることができなければ,今後のご自身の生活だけでなくご家族の生活もままならない可能性も否定できません。
相手方保険会社から提示される賠償金額は,ご本人のみで交渉にあたっている場合には,残念ながら極端に低額である場合がほとんどであり,相手からの書面にサインをしてしまうと,やっぱりその金額では納得できないと思っても後から主張することは原則としてできないので,それを知らずにサインをしてしまうときちんとした金額での賠償を受けることができません。
今回のコラムでは,これまで,多くの交通事故案件に携わってきた弁護士として,交通事故にまつわる問題やよくご質問いただく事項等をご相談者さまからのご質問という形で紹介し,弁護士としてご質問に回答するという形でご説明させていただきます。もし,事故に遭われてしまった場合でも,このコラムをお読みいただき,これから何をすべきなのかということを把握していただけることで,事故に遭われた不安を少しでも解消できければと考えております。
【交通事故】遭ってしまったら何割くらい弁償してもらえるの?過失相殺について知っておきたい基礎知識
交通事故には不注意で遭遇してしまうものから、注意していても遭遇してしまうものまでありますが、総じて交通事故は、予期せぬタイミングで起きるものです。
そのため、交通事故に遭遇するとどうすればいいか分からなくなってしまうもので、そのような状況で損害賠償責任が、休業損害が、後遺障害等級認定が、過失相殺が、と知らない用語で説明されても頭には入ってこないはずです。
そこで、今回は、交通事故でよく問題になる「過失相殺」についてご説明したいと思います。
1 過失相殺ってなあに?
過失相殺という言葉は、日常でも耳にすることもあるかと思いますが、正確には、被害者側に事故の発生や損害の拡大に落ち度がある場合、損害賠償額を減額する制度を言います。
この制度は、自分の責任に基づく損害を第三者に負担させるべきではないという公平の理念に基づくものとされています。
例えば、A車とB車が衝突し、A車にだけ100万円の損害が発生した事案で、それぞれの過失割合がA:B=2:8だとします。
この場合、お互いの過失割合を考慮したうえで過失相殺を行い、BはAに対して80万円を賠償すればいいことになるのです。
2 過失割合はどのように決まるの?
過失相殺は、本来裁判所の裁量によって、個々の事件ごとに判断することが可能なはずですが、交通事故は日々大量に発生しており、同じような交通事故について裁判官ごとに判断が異なるのは望ましくありません。
そこで、裁判所や弁護士の間では、過失割合について、別冊判例タイムズ第38号や財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」(通常、「赤い本」と言われています。)を参考にして判断されています。
これらの基準表では、事件類型ごとに図を作成し事故当事者の過失相殺割合が記載されています。具体的には、歩行者対自動車・単車、歩行者対自転車、自動車対自動車、単車対自動車、自転車対自動車・単車の類型及び高速道路上の事故類型が基準化されています。
しかも、類型ごとに提示された基準を修正する要素やその修正率等まで定められていますので、事案ごとのおおよその過失割合を知ることができます。
3 こんなとき過失割合はどうなるの?
それでは、具体的事案で過失割合がどのようになっているかご紹介したいと思います。ここでは、実際によく発生している追突事故、出会い頭の衝突事故、右折時衝突事故について見て行きたいと思います。
(1) 追突事故の場合
追突事故の場合、基本的には追突された側の車両には過失がなく、追突した側の前方不注意(道路交通法70条)や車間距離不保持(道路交通法26条)等の一方的過失によるものと考えられます。そのため、赤信号や一時停止の規制、渋滞で停止した車両に追突した場合、追突した車と追突された車の過失割合は100:0ということになります。
もっとも、追突された側の車が急ブレーキをかけた場合は話が別です。急ブレーキは、危険を防止するためやむを得ない場合を除き、してはならないとされています。そのため、追突された側の車が急ブレーキをかけたために、追突してしまった場合、追突された側にも過失があると判断されることになります。
その割合は、速度違反の程度など具体的な事例にもよりますが、70:30くらいの場合が多いでしょう。
(2) 出会い頭事故の場合
次に出会い頭事故の場合をご説明します。ここでは、信号機による交通整理の行われていない同幅員の交差点で自動車同士が出合い頭に衝突した場合を見てみたいと思います。
このような交差点では一般的に左方車が優先とされているだけで(道交法36条1項1号)、それ以外に特別の優先関係がある訳ではありません。しかし、見通しのきかない交差点では、左方車は減速しない限り、自分が優先されていることに気付けないのですから、あまり左方優先を重視すべきではありません。また、同幅員の交差点においては、両車ともに徐行義務があります(道路交通法42条1項)。そのため、過失割合の判断にあたっては、両車が減速したか否かが重要となってきます。
具体的には、両車が同じくらいの速度だった場合、過失割合は左方車:右方車=4:6となります。左方車が減速したのに、右方車が減速しなかった場合、さらに左方車が有利となり、過失割合は2:8となります。これに対して、左方車が減速せず、右方車が減速した場合、過失割合は逆転し、6:4となります。
なお、これらはあくまでも基本割合なので、見通しのきく交差点だったか、夜間だったか、どちらかに著しい過失があるといえるか等により、割合が変動することになります。
(3) 交差点で右折車と直進車が衝突
交差点で右折車と直進車が衝突した場合についてご説明します。ここでは、直進車・右折車共に青信号で侵入した場合を検討しましょう。
この場合、右折車は直進車の進行を妨げてはなりません(道路交通法37条)。そのため、右折しようとした場合に、直進車が存在し速度や方向を急に変更しない限り両者が接触するおそれがあるときには、直進車が右折車に対して優先関係に立ちます。もっとも、直進車が優先されるとしても、右折する車両に注意する義務を有することには変わりがありません(道路交通法36条4項)。
したがって、直進車と右折車の過失割合は、通常、2:8となります。
もっとも、右折車が徐行をしていなかったり、ウィンカーを出していなかったりする場合、右折車に不利に、他方、直進車に時速15キロメートル以上の速度違反やその他の著しい過失がある場合などは直進車に不利に修正されることとなります。
4 過失割合を争う方法
過失割合を争う方法を簡単にですが説明させて頂きたいと思います。
過失割合は、通常、事故時の状況に基づいて判断されることになります。そのため、過失割合を争う場合、事故時の状況のうち自分に有利な事情を積極的に立証して行くことが必要になります。
裁判所が別冊判例タイムズ38号を参照して過失割合を判断することが多いことからしますと、ここで考慮されている事情のうち自分に有利なものを立証することが重要になると考えられます。具体的には、ドライブレコーダーの映像や目撃者の話などから事故時の状況を客観的に立証して行くことになります。
では、それは自分で簡単にできるかと言うとそういう訳ではありません。別冊判例タイムズ38号の類型はどうしてもモデルケースにすぎませんので、実際の事故にぴったり合致しているとは限りません。そのような場合には、類似する事故態様でどのような過失割合が認定されているのか過去の裁判例を調べてみることも必要になるでしょう。
5 まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は、交通事故における過失相殺について簡単にご説明させて頂きました。
過失割合を争うには、先程も申しました要因別冊判例タイムズ38号における過失割合の知識だけでなく、証拠の収集方法など様々な知識が必要になってきます。自分で保険会社や弁護士と交渉するとなると、どうしても知識的に専門家に劣ってしまうから、保険会社からの提案を鵜呑みにしてしまい、思わぬ損をすることもあります。
そのため、実際に自分の事件ではいくらくらい弁償してもらえるのか弁護士に相談してみることをお勧め致します。













