弁護士コラム

2019.06.14

企業が備えておくべき試用期間のリスク

多くの企業では、本採用前に一定の試用期間を置き、面接では知り得なかった社員の能力や適性を見極める期間を設けています。実際に試用期間とは、どのような目的で設定されており、試用期間中の雇用契約はどうなっているのでしょうか?

また、企業は試用期間中の従業員に対して、解雇や試用期間の延長、本採用の拒否などを行いたい場合はどのような点に気を付けなければならないのでしょうか?今回は企業が理解しておくべき試用期間の法的性質についてご説明いたします。

1. 試用期間とは法的に見てどのような雇用形態なの?

試用期間は、正社員に限らず、アルバイトやパート、契約社員などに対しても設けることが可能です。企業は試用期間を定める場合には、期間を明確に定めなければなく、「〇ヵ月前後」といった不明確な取り決めは認められていません。

試用期間の長さについて制限する法律は定められていませんが、過去に1年を超える試用期間を設けたケースは、公序良俗違反と判断され試用期間が無効となった裁判例があり、過度に長期となる試用期間の設定は認められないものと考えられます。(裁判例:名古屋地判昭59.3.23)

では、試用期間中の企業と従業員の雇用契約は厳密にどの様な状況になっているのでしょうか?試用期間中の雇用契約は「解約権留保付労働契約」が締結されていると考えられています。「解約権留保付労働契約」とは、企業が従業員を解雇することが出来る解約権を有している労働契約を意味しています。ただ、企業側が解約権を有しているからといって、何の制限もなく企業側が従業員を解雇できるというわけではありません。

試用期間中の従業員の立場は、不安定で不利な立場であり、試用期間中は他の企業へ就職する機会を放棄している状態になります。よって、企業が試用期間中の従業員に対して解雇や延長を行うのであれば、客観的で合理的な社会通念上相当の理由が必要です。

次からは、企業が試用期間を延長する場合及び試用期間中に解雇を行う場合について具体的に見ていくことにします。

2. 試用期間の延長は法律に違反するの?

試用期間が終了したときに企業側が本採用とするか否かの判断がつかずに、試用期間を延長してもう少し様子を見たいといったケースもあると思います。その様な場合、試用期間を延長すること自体は法律に違反しませんが、次の点に注意しなければなりません。

① 就業規則や雇用契約書などに試用期間を延長する可能性を明記しておくこと
② 試用期間の延長について従業員との間で合意がなされたこと
③ 客観的で合理的で社会通念上相当性のある理由があること

以上3点については企業側が試用期間の延長という選択をする場合に必ず守らなければならない事情となります。もし、これらを守らずに一方的に試用期間の延長を決定した場合、従業員から試用期間の延長の是非について争われ、その結果試用期間の延長を無効と判断されるケースもあるため注意が必要です。

ここからは、上記の各注意点についてもう少し詳しく説明することにします。
前述した通り、試用期間中の従業員は非常に不安定な立場であるため、企業は試用期間の延長が可能であること、及び延長する場合の期間などを、予め就業規則や雇用契約書などに明記しておく必要があります(①)。

また、従業員との間で試用期間の延長について合意がなされていなければなりません(②)。ただ、仮に従業員との間で合意がなされたとしても、試用期間については延長前の期間を含めて最長でも1年以内であるべきと考えられています。試用期間の延長について合意がなされたとしても、延長前の試用期間がリセットされるわけではありませんので、気を付けましょう。

最後に、試用期間の延長には、客観的で合理的な社会通念上相当性のある理由が必要になります(③)。延長の理由が認められる可能性が高いとされる例は、従業員が何らかの理由により長期の欠勤があり試用期間中に従業員の適性を見極めることが難しいケースや、業務内容の変更に伴い改めて適性を見極める必要性が認められるケースなどが挙げられます。

3. 試用期間中の解雇はできるの?

試用期間中において、企業は解約権留保付労働契約に基づく解約権を留保しているため、一定の「解雇の自由」が認められています。しかし、どの様な理由でも解雇が認められるわけでは無く、試用期間の延長と同じように「客観的に合理的で社会通念上相当と是認できる」場合に限られています。具体的には、重大な経歴詐称、正当な理由なく遅刻・欠勤を繰り返す場合等です。

また、試用期間の開始から14日を経過して解雇する場合、本採用後の社員を解雇する場合と同様の手順を踏む必要があります。解雇という判断をした場合には、従業員に対し解雇日の30日前までに解雇予告を行うか、解雇予告を行わなかった場合には従業員に対して「解雇予告手当」を支払う必要があります。

もし、企業側が本採用をしない決定をした場合でも、企業側の意思表示が従業員に明確に伝えられていないまま試用期間を終えると、従業員は本採用になったものと判断されます。試用期間に解雇を判断した場合は、試用期間が経過する前に従業員へ解雇の意思表示を行いましょう。
 

4.まとめ 

企業側にとって試用期間を設けることは、正確な採用判断を行うことが可能であり必要な期間となります。しかしながら、予め就業規則や雇用契約書を整備しておかなければ、試用期間の運用を誤った場合の企業へのリスクを防ぐことはできません。

就業規則や雇用契約書を不備の無いようにきちんと整えることで、リスクから会社を守るツールとして役立てましょう。就業規則の整備等については、法的な知識が必要となるため一度専門家へ相談することをお勧めいたします。

WEB予約 KOMODA LAW OFFICE総合サイト
事務所からのお知らせ YouTube Facebook
弁護士法人サイト 弁護士×司法書士×税理士 ワンストップ遺産相続 弁護士法人菰田総合法律事務所 福岡弁護士による離婚相談所