弁護士コラム

2017.09.17

今住んでいるアパートのオーナーさんが破産しました!賃貸借契約はどうなるの?

今住んでいるアパートのオーナーさんが破産しました!賃貸借契約はどうなるの?

【Aさんの相談】
先日、現在居住しているアパートのオーナーさんより、「この度、破産することになったので、今後の賃料振込先については追って連絡します。」との連絡がありました。私は不安になり、今のアパートの登記簿を確認したところ、私がアパートを借りる前から既にアパートには抵当権が設定されていました。現状、オーナーさんからは「出て行ってくれ。」等の話はありませんが、私は今まで通り居住を継続できるのでしょうか?また、賃料の支払いや敷金の返還はどうなるのでしょうか。教えてください。

Aさんのように、賃貸物件のオーナーさんから突如破産の連絡を受けたことがある人もいるかもしれません。そこで今回は、居住中の賃貸物件の賃貸人が破産した場合に賃貸借契約はどのように扱われるのかについてお話していきたいと思います。

1 賃貸人破産後の賃貸借契約の効力

⑴ 居住継続の可否

 結論からお話しすると、賃貸人が破産しても、賃借人が対抗要件を備えていれば、破産を理由に契約を解除されることはなく、居住を継続できます。
対抗要件とは何を指すかというと、(今回のAさんのように)建物を賃借している場合は、①当該建物の引渡しを受けているか、または②建物に不動産賃貸借の登記がされていることかのいずれかを言います。また、土地を借りている場合は、土地上に賃借人名義の建物があることが対抗要件となります。

他方で、対抗要件が備わっていない場合は、破産管財人が契約を解除するか存続させるかについて決定権限を有し、賃借人はその判断に従うことになります。
この場合において、管財人が、契約存続を選択した場合は、賃借人の居住権は財団債権として保護されるため、通常通り居住ができます。
他方で、管財人が契約解除を選択した場合、賃借人は居住できず、契約解除により損害を受けている場合には、管財人に対し、損害賠償請求をできるにとどまります。なお、損害賠償請求権は、破産債権となりますので、行使するためには破産手続に参加して届出をする必要があります。

⑵ 賃料の支払いについて

 破産手続開始後も賃貸借契約が継続する場合は、賃借人は当然賃料を支払う義務があります。ただ、破産手続開始後は、賃貸人の財産は、破産管財人が管理するため、賃料の振込先については、破産管財人になります。
 もっとも、破産管財人が当該不動産を放棄した場合は、管財人の管理下から外れますので、振込先も変わります。破産手続開始後の賃料の振込先については、通常は管財人から通知が来るはずですが、来ない場合は管財人に問い合わせをして確認した方がいいでしょう。
なお、管財人が不動産を放棄する場合とは、例えば、賃料収入については抵当権者が差押えをしており、収入は入ってこない一方で、当該不動産の固定資産税等の支払いは発生し続けるなど、当該不動産を保有することがデメリットとなる場合等が考えられます。

⑶ 敷金の返還について

ア 敷金は戻ってくるの?
敷金が戻ってくるかどうかについては、場合を分けて考える必要があります。

①当該不動産が任意売却された場合
不動産が担保権の実行ではなく、任意売却で譲渡された場合は、賃借人が、破産手続開始時点で対抗要件を具備している限り、不動産の買受人にも賃貸借契約と敷金契約が引き継がれ、買受人(新賃貸人)に対して、敷金の返還を請求することができます。

②競売(担保権の実行)の場合
 抵当権等の担保権実行に基づく競売の場合、担保権の設定よりも前に賃貸借契約が締結されている場合は、新所有者である買受人に対して賃貸借契約及び敷金契約が引き継がれます。よって、買受人を新賃貸人として、敷金の返還を請求できます。
 しかし、抵当権設定後に賃貸借契約を締結している場合、抵当権者に対して賃貸借契約及び敷金契約を対抗できないため、買受人から明渡しを求められた場合は応じなければならず、敷金も買受人からは戻ってきません。
 この場合、敷金返還請求権は旧賃貸人に対して有する権利のままですので、破産債権となり、配当を受けるためには届出が必要です。但し、配当を受けるためには時期的制限があるため注意が必要です。敷金返還請求権は、未払賃料や原状回復費等、賃貸借によって生じた賃借人の一切の債務を控除した残額の限度で発生するため、その具体的な金額は、不動産の明渡し完了時に初めて判明します。そのため、破産手続上で配当を受けるためには、破産手続が終了する前(具体的には、最後配当の公告がなされ、その後2週間を経過した時点)までに、賃貸借契約を解約した上で不動産の明渡しまで完了している必要があります。

③契約解除(終了)して明渡しをする場合
 契約解除等、賃貸借契約終了に基づく明渡しをする場合、破産手続終了前までに明渡しを完了していれば、破産債権として配当を受けることができます。

イ 配当額はどのくらい?寄託請求とは?

破産債権の場合、残った破産者の財産を債権者全員に分配するため、配当率はかなり低いことが多いです。敷金返還請求権も破産債権ですので例外ではありません。
しかし、破産手続開始後の賃料振込時に、管財人に対して賃料の寄託請求をすることで、寄託した賃料額の限度で敷金返還請求権を保全できる制度があります。この寄託請求とは、簡単に言うと、管財人に対して「破産手続開始後に支払う賃料については、配当に回す財産とは別に管理して保管しておいてください」という請求です。

管財人は、寄託請求があると、それ以降支払われる賃料については別口座で管理しておきます。
そのため、破産手続終了時までに明渡しを完了した場合には、寄託した金額については敷金としてそのまま返還を受けることができます。
なお、破産手続終了までに明渡しが間に合わなかった場合は、前述の通り配当を受けられないため、寄託されていた賃料も他の債権者の配当に充てられることになります。

2 Aさんの場合

 以上を前提にすると、Aさんは、破産手続開始時点において建物の引渡しを受けているため、破産を理由に賃貸借契約を解除される心配はなく、引き続き継続居住できます。しかし、建物には、Aさんが賃貸借契約を結ぶ前に既に抵当権が設定されているため、抵当権が実行され、競落された場合、競落人から退去を求められたら退去しなければなりません。その際、敷金返還請求権については、破産手続終了前に明渡が完了すれば、破産債権として配当を受けることができます。

3 まとめ

 以上の通り、賃貸人が破産した場合は、対抗要件を具備しているかによって、居住の継続の可否が決まり、明渡のタイミングにより、敷金の取り扱いも変わってきます。
 賃貸人の破産でお困りの方は、破産の経験豊富な弁護士に、ご相談することをお勧めします。

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