弁護士コラム

2017.08.25

どんな場合に残業代の請求はできますか?

どんな場合に残業代の請求はできますか?

【Aさん】

残業しても一切残業代が支払われていません。おかしいと思って会社に聞いたところ,「雇用契約書に残業代支給なしと書いてあるでしょ?」と一蹴されました。契約書にそのような記載がある場合,一切残業代は認められないのでしょうか。

【Bさん】

残業代の支払いはありますが,残業時間に見合ってない気がします。どんなに残業が多い月でも,残業代は一定額で打ち止めになっています。残業代はどのように計算するのでしょうか。

近年,労働者保護の流れで労働法改正の動きが進んでいますが,現実社会では,Aさんの会社のように残業代を一切払わないような法令違反の会社は多数存在します。会社は様々な理由付けをして残業代の支払いを拒否してくることがあります。また,Bさんのように,残業代の支払いはあるものの,その計算が適正に行われているかについて疑わしいケースもあります。そこで,今回は,どのような場合に残業代が発生し,残業代はどのように計算するのかについてご説明したいと思います。

1 残業代が発生する場合

以下の場合には,残業代が発生していると考えられます。

①法定労働時間(1日8時間,週40時間)を超えて労働した場合

労基法は,労働者保護の見地から,労働時間に限度時間を設けています。これを法定労働時間といい,法定労働時間を超えて労働させた場合は,原則として違法であり刑事罰対象行為となります。(もっとも,36協定を締結して労基署に届ける等,会社が一定の手続きを踏んでいれば法定労働時間を超えても労働させることが可能となります。)
労基法は,法定労働時間として,1日8時間,1週間40時間と定めており,これを超えた労働時間は残業時間となり残業代が発生します。よく見かけるのは,1日あたりの法定労働時間は遵守しているものの,1週間当たりの法定労働時間を超えている場合に残業代が支払われていないケースです。例えば,1日8時間,週6日勤務の場合は,週合計労働時間は48時間ですので,週法定労働時間の40時間を超えた8時間分については残業代が発生しますので,注意が必要です。

②所定労働時間(雇用契約書や就業規則で定められた労働時間)を超えて労働した場合

雇用契約書や就業規則には,始業,終業時刻が規定されていると思いますが,「始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を除いた時間」を所定労働時間と言います。例えば,始業時刻10時,終業時刻18時,休憩1時間の場合,所定労働時間は7時間となります。この場合,所定労働時間を超えて労働した時間は残業時間となりますので,例えば今述べた例で19時まで労働した場合,実労働時間は8時間で法定労働時間内ですが18-19時の労働は所定労働時間外の残業ですので,残業代が発生します。(但し,割増はつきません。)
 なお,所定労働時間は,会社が自由に決めることができますが,法令に違反する定めはできませんので,法定労働時間超えの所定労働時間の設定(例えば,1日10時間等)については原則として無効となります。

2 残業代はどのように計算するの?

それでは,残業代が発生するとして,その計算はどのようにすればいいのでしょうか?
まず,残業代は以下の計算で算出します。

残業代=「①1時間あたりの賃金」×「②割増率」×「③残業時間数」

上記算定式の「①1時間当たりの賃金」については,時給制の場合は時給となります。
月給制の場合は以下の通り算定します。

★月給制の場合の1時間当たりの賃金
=基本給÷(1月あたりの平均所定労働時間数)
=基本給÷{(365日―所定休日日数)÷12×1日の所定労働時間数}
(*なお,閏年の場合は366日で計算となります。)
【例】
 基本給30万
 年間の休日日数105日
 1日の所定労働時間数8時間の場合
⇒30万÷{(365日-105日)÷12×8時間}=1734円…「①1時間当たりの賃金」

★②の割増率とは?
・②の割増率は,残業の内容により以下の通り数字が変わります。
・法定労働時間を超えて行われた部分の残業→1.25
 ※所定労働時間を超えるが法定労働時間を超えない残業部分(ex,所定労働時間が7時間で,1時間残業した場合の1時間部分)については,割増はありません(=1で計算)。
・法定休日に行われた労働→1.35
・深夜帯(夜10時―朝5時)に行われた労働→0.25

★③残業時間数とは?
 所定労働時間や法定労働時間を超えて労働した時間数をいいます。

3 こんな場合でも残業代は請求できるの?

①雇用契約書や就業規則に残業代は支給しないと規定されている場合

→請求できます。
(∵残業代を支払わない旨の労働契約や就業規則は,労基法に違反し無効となるため,規定の有無にかかわらず残業代を請求できます。)

②試用期間中だから残業代は支払わないと言われた!

→請求できます。
(※試用期間であっても労働契約は成立している以上,残業代は発生します。)

③年俸制だから残業代は支払わないと言われた!

→請求できます。

④固定残業手当を払っているため,それ以上は支払えないと言われた!

→固定残業代で賄えない部分については別途残業代を請求できます。

⑤タイムカードや就業規則等の資料が手元になく残業代の計算ができない!

→手元にタイムカード等の資料がなければまずは使用者に対してその開示を求めましょう。それでも開示を拒否する場合は,弁護士に依頼しましょう。

 

4 まとめ

 以上の通り,残業代はどのような場合に発生し,どのように計算するのかについてご説明してきました。しかし,実際は,そもそも残業代を計算する上で必要な資料の開示を拒まれて残業代を算出できないケースや,証拠がなく残業時間を立証できないケース,残業時間を立証できても,会社が残業時間と認めないケース(従業員が勝手に残っていただけだ等と主張されるケース)等,様々な点が問題となります。
そのため,未払い残業代の請求をお考えの方は,労働問題に強い弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

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