弁護士コラム

2017.08.13

【離婚問題】妻が宗教にハマってしまった…。離婚ってできるの?

 夫婦で宗教観が違うとしても,それだけでは裁判上の離婚事由にあたりません。日本においては信仰の自由が認められているため,夫婦であってもお互いの宗教観を尊重しなければならないのです。しかしながら,夫婦で信仰が異なるとやはり日常生活に支障を来たすこともあるかと思います。そこで,裁判所も一定の場合には「宗教」それ自体に問題があるのではないことは認めつつ,「家庭が崩壊していること」を問題として離婚ができることを認めています。今回は,どのような場合に離婚ができるかについてお話ししたいと思います。

1 宗教活動を理由に離婚できるのはどんなとき?

 「宗教活動」を理由として離婚が認められるためには,それが「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)にあたる必要があります。ここで,確認しておきたいのは「宗教」それ自体を離婚事由としているわけではないということです。日本においては,信仰の自由が認められているため,特定の「宗教」を信仰することは何の問題もないのです。
 しかし,「宗教」自体に問題がないとしても,夫婦は生活共同体であるから,いくらでも好きなだけ信仰していいというわけではありません。あくまで,「宗教活動」が夫婦の生活に重大な支障を及ぼさない程度,すなわち「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたらないものである必要があるのです。
「宗教活動」が「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められるか否かは,宗教活動の程度,家庭生活への支障の程度,協力義務違反があるとまでいえるか,別居期間,子の年齢,精神的ギャップの大きさ,関係修復の困難性などから判断されることになります。
 もっとも,実際にどんな場合に離婚が認められているかは具体例を見てみないとわからないと思います。ですので,今から離婚が認められた裁判例と離婚が認められなかった裁判例を3つほどご紹介したいと思います。

〈離婚が認められた事例①〉

夫の実家は,代々,神道を信仰しており,夫婦の家にも神棚がありました。しかし,妻は婚姻後,エホバの証人を信仰するようになり,神棚を夫の実家に返還するなどしたため,夫の実家との関係が悪化しました。そのような中,妻は未成熟の子供たちをエホバの証人に入信させ,夫の父の葬儀に出席しないなどの行動をとりました。このような諍いは10年余りに及んでおり,完全な別居期間も約2年間に達していました。
裁判所は,このような事情の下,今後,どちらか一方が共同生活維持のため,相手方のために譲歩するとことは期待できないとして,婚姻関係はもはや継続し難いまでに破綻しているものと認めるのが相当と判断し,離婚を認容しました。

〈離婚が認められた事例②〉

 妻は婚姻後エホバの証人を信仰するようになりましたが,当初は週に1時間程度聖書の勉強会に参加する程度でした。しかし,その後熱心な信者となり,家事をないがしろにし始めた上,子供を集会に連れて行くようになりました。その頃,夫は妻に信仰を止めるよう説得しましたが,逆に妻は夫に対し入信を勧め,夫の反対を無視して子供たちを集会に連れて行き続けました。そのため,夫は妻に対して離婚と慰謝料の支払いを請求しました。
 裁判所は,このような事情の下,夫婦間の婚姻関係は既に破綻していると判断しました。また,信仰の自由があることを認めつつも,夫婦の一方が自己の信仰の自由のみを強調し,相手の生活や気持ちを無視した結果,婚姻を継続し難い重大な事由があると認められる場合には,その者にも婚姻関係破綻の原因があるとする一方で,当事者双方が,それぞれ相手方の考え方や立場を無視して頑なな態度をとり,婚姻関係を円満に継続する努力を怠ったことが婚姻関係破綻の原因であると考えられるとしました。その結果,当事者双方の責任を認め,夫からの離婚請求を認める一方で慰謝料の支払いは否定しました。

〈離婚が認められなかった事例〉

 妻は婚姻後エホバの証人を信仰するようになりましたが,夫との同居中の宗教活動は1週間に1時間の聖書の勉強会に出席する程度のものであり,日常の家事や子供の教育に支障はありませんでした。しかし,夫とその実家は創価学会を信仰しており,先祖崇拝を巡って対立が生じてしまいました。その後,二人は別居することになりましたが,別居からしばらくの間は双方が婚姻の継続を希望していたという事案です。
 裁判所は,このような事情の下,夫が妻の信仰の自由を尊重する寛大さをもって,妻への理解を図る積極的な態度をとれば,婚姻関係を修復する余地があるとして,離婚を認めませんでした。

 以上の裁判例を見てもらっても分かりますように,裁判所は「宗教」を問題としているわけではありません。あまりに熱心に「宗教」を信仰していることで夫婦生活に支障を来していることを問題としているのです。

2 宗教にハマった妻から慰謝料や親権をとることはできるの?

 では,仮に離婚が認められたとして,慰謝料や子供の親権までも無条件に認められるのでしょうか?少しだけお話ししたいと思います。

(1) 慰謝料の話

慰謝料を請求するためには,「相手のせいで婚姻関係が破綻した」ということを主張する必要があります。そのため,単に相手が「宗教」にハマったというだけでは慰謝料請求は認められず,相手の「宗教活動」によって婚姻関係が破綻してしまったとまで言えないといけないのです。すなわち,相手の宗教活動があまりに熱心で家事などに支障を来し,夫婦生活を破綻させたような場合であれば,離婚だけでなく慰謝料請求も認められることになります。

(2) 親権の話

では,親権はどうでしょう?妻の宗教を信じていない側からすれば,できるだけ子どもを宗教から遠ざけ,引き取りたいと願うこともあるかもしれません。
しかし,妻が宗教にハマっていたとしても,虐待などの事情が認められなければ,宗教にハマっていることを不利益に評価することはありません。あくまで親権者の判断においては,子供を育てることへの意欲と能力,健康状況,経済的・精神的家庭環境,居住・教育環境,従前の監護状況,子に対する愛情の程度や子供の年齢・性別,子の希望などの事情を総合的に考慮することになるでしょう。
夫が,親権を勝ち取るためには,子供の養育実績を作ること,相手が虐待をしている証拠や子供を育てていないことの証拠を収集しておくことが大事になってきます。

3 まとめ

 以上,「宗教活動」を理由とする離婚について見てきましたが,いかがでしたでしょうか?宗教活動を原因として裁判離婚が認められる場合と言うのは必ずしも多くはありません。そのため,宗教活動を理由として離婚するためには,出来れば協議離婚か調停離婚の段階で決着をつけることが望ましく,どうしても初動が大事になってきます。経験豊富な弁護士であればそういった場合でも適切なアドバイスをすることが可能ですので,一度経験豊富な弁護士に相談してみてください。

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