弁護士コラム

2017.08.08

【婚姻問題】婚約をちゃんと解消できるのってどんなとき?

「私は,知人に紹介された男性と交際し,プロポーズを受け,お互いの家族にも賛成されたので,彼と婚約しました。そして,先月には結婚式を行い入籍する予定でした。しかし,彼は結婚式の10日前に行方不明になり,結婚式に来ませんでした。ですので,私の方から婚約の解消を申し入れました。しかし,彼は,今頃になってあらわれて『不安になったからちょっと一人になりたかった,婚約解消なんて認められない』と言っているのですが,婚約は解消できていないのですか?」婚約関係にある二人がその関係を解消するためには何か理由が必要なのでしょうか?今回は,婚約破棄と損害賠償についてお話ししたいと思います。

1 婚約の成否

まず,初めに婚約が成立しているかどうかを検討してみたいと思います。
婚約とは,将来婚姻をしようという当事者間の合意をいいます。つまり,私たちが日常的に用いている「婚約」と同じような意味であると言えるでしょう。
 本件では,プロポーズの存在だけでなく,関係者もこれを知っており,結婚式も上げる予定だったのですから婚約が成立していると言えるでしょう(なお,婚約が成立しているかどうかは,プロポーズの有無に限らず,婚約指輪の授受・婚姻式場の下見・両親への挨拶・結納式の実施等,様々な事情を総合して決定します。)

2 婚約の解消ってできるの?

 では,婚約を解消することはできるのでしょうか?
 婚約は,当事者の合意がある場合だけでなく,一方の判断だけで解消することができます。また,当事者の一方が死亡してしまったら婚姻そのものが不可能になってしまうため当然に解消されます。そのため,婚約は,①当事者の一方が死亡した場合,②当事者が婚約解消の合意をした場合ならびに③当事者の一方が婚約解消の明示又は黙示の意思表示をした場合に解消されます。このなかで婚約解消が紛争に発展するのは,③当事者の一方が解消の意思表示をした場合のみです。では,これからどのような紛争が生じるのか見ていきたいと思います。

(1) 婚約の履行請求

婚姻は完全に自由な意思によってなされるべきですので,裁判所に「婚約の履行をせよ」と訴えを提起したとしても,現在の日本においては,裁判所が「婚約が成立したこと」を認めたとしても,「婚姻を強制する」ことはできません。そのため,裁判所の力を使って強制的に婚姻するということはできないのです。
もっとも,婚約したにも関わらず,婚姻に至らないときには,裁判所の調停委員会を間に入れて話し合いを行うという方法も考えられます。これは,「婚約の履行を求める調停」を家庭裁判所に対し,申し立てることによって可能となります。このように,話し合いによって解決を試みる方法は用意されてはいます。
 しかしながら,一度婚約破棄となって,裁判所を間に入れて話し合いをしなくてはならないほどの関係になったのであれば,それは一生を添い遂げるパートナーにはなり得ないでしょう。「婚約したにも関わらず,婚姻に至らない場合」には,「強制的に結婚する」というのはあまり現実的な選択肢とはいえません。そのため,そのような相手とは婚姻するのではなく,「婚約の約束を守ってくれないことを理由として損害賠償を請求する」という方法が最も現実的な選択肢となりそうです。

(2) 損害賠償請求

上で述べたように,いくら婚約を当事者の一方の判断のみで解消できるとしても,婚姻のできなくなる相手側としてはたまりません。そこで,婚約を解消した場合,正当な理由のない限り,婚約という契約をちゃんと履行しなかったとして損害賠償責任を負うことになります。
そのため,婚約破棄の事案では,その婚約解消に正当な理由があるのかが問題になることになります。
婚約解消における正当理由の判断は,ほぼ離婚が認められる場合の「婚姻を継続しがたい重大な事由」の判断と重なりますが,離婚がそれまでの結婚生活の積み重ねを前提とするのに対して,婚約破棄はそれまでの生活の積み重なりが無いため,比較的離婚よりも認められやすい傾向があります。
裁判例において正当理由が認められたものとしては,婚約成立後の不貞行為,結婚式直前の家出,暴力や暴言(当事者のみならず家族に対する者も含まれます),性的不能の発覚,肉体関係の強要,相手の結婚式における社会常識を逸脱した言動,経済的状態の急変,婚姻生活を維持しえない程度の疾病などがあります。これらのように今後婚姻をすることが社会通念上困難な状態となることが認められれば,婚約を破棄する正当な理由があると認められる傾向にあります。
逆に,相性方位が悪い,年回りが悪い,家風に合わない等という理由は,もちろん正当理由にならないと判断される傾向にあるといえます。

3 まとめ

 今回の相談のように,当事者の一方が結婚式に来ないということは,裁判所の判断基準からすれば,正当理由が認められる可能性が高いと思いますし,実際に男性が結婚式を不可能にした事案において,正当理由がないと判断した裁判例も見受けられます。しかし,正当理由が認められるか否かは,専門的判断が必要になるところですので,事案によっては専門家によっても結論が分かれる余地があります。もし正当理由が認められない場合であれば,損害賠償請求や結納の返還請求をすることも考えられます。
 そのため,同種事案について経験豊富な弁護士に相談することをお勧めいたします。

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