弁護士コラム

2019.07.05

従業員が50人以上になったら?~労働災害防止のための事業者の義務

事業者には労働災害を防止する責任があり、このことは労働安全衛生法に規定されています。
労働安全衛生法では、事業者に対し、労働者数が常時50人以上となった場合に、いくつかの取り組みが義務付けられています。労働者が50人に増加した場合、事業者は何を行わなければならないのでしょうか?

1.安全管理者または衛生管理者の選任義務について

労働災害を防止するためには、事業場において安全衛生を確保するための安全管理体制を確立することが不可欠です。労働安全衛生法では、同法目的条文にある「責任体制の明確化及び自主的活動の促進」を受けて、安全衛生管理体制が規定されています。安全管理体制とは、労働災害を防止するための、一つの企業内での組織づくりの取り組み方と言えます。

常時50人以上の労働者を使用する事業者は、業種にしたがって、安全管理者又は衛生管理者を選任しなければならないとされています。次の①~⑤の業務のうち、安全管理者は安全に係る技術的事項の管理を、衛生管理者は衛生に係る技術的事項の管理を業務とします。

①労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること。
②労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること。
③健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること。
④労働災害の調査及び再発防止対策に関すること。
⑤上記①~④に掲げるもののほか、労働災害を防止するために必要な業務で、厚生労働省令で定めるもの。

安全管理者を選任しなければならない事業者は、林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業等と定められており、労働災害の危険が大きい業種と言えます。その他の業種の事業者は、衛生管理者を選任しなければなりません。
安全管理者の資格については、「大学又は高等専門学校における理科系統の正規課程を卒業し、その後2年(高等学校の同課程を卒業した者は4年)以上産業安全の実務に従事した経験を有する者が、安全に係る技術的事項を管理するのに必要な知識についての研修を修了すること」、とされています。

業種の性質上、理科系統を卒業した従業員がいる場合は、その従業員に研修を受けさせ安全管理者の資格を取得させるのが、実務上の対応になります。該当する従業員がいない場合は、労働安全コンサルタントに外部委託することができます。

衛生管理者の資格については、「都道府県労働局長の免許を受けた者、医師又は歯科医師、労働衛生コンサルタントのいずれか」とされています。実務上の対応としては、従業員に第1種衛生管理者等の試験を受験させ、免許を取らせるということになります。

2.産業医の選任義務について

常時50人以上の労働者を使用する事業者は、業種を問わず、産業医を選任しなければならないとされています。産業医の職務は、労働者の健康管理にかかる事項です。産業医の資格は医師とされているため、基本的には外部委託によるのが実務の対応です。

3.安全委員会、衛生委員会の設置義務について

労働災害を防止するためには、前述の管理者等に一定の義務を課すだけでは不十分であり、労働者自身がその事業場の安全衛生の問題について関心を持ち、かつ、その意見を事業者等が管理面に反映させることが必要です。

そのために、常時50人以上の労働者を使用する事業場については、安全衛生に関する一定の事項を調査審議させ、労働者が事業者に対し意見を述べることができるように、安全委員会、衛生委員会の設置が義務付けられています。
安全委員会を設置しなければならない事業場は、林業、工業、建設業、製造業、運送業等の業種とされています。

衛生委員会は、業種を問わずすべての事業場において設置が義務付けられています
事業者は、安全委員会及び衛生委員会ともに設けなければならないときは、安全衛生委員会として設置することができます。

安全委員会の委員構成は、事業者の事業の実施を統括管理する者を委員の1人とし、その委員が議長となるほか、安全管理者、その他の従業員で、安全に関し経験を有するもののうちから事業者が指名した者とされています。
衛生委員会の委員構成は、事業者の事業の実施を統括管理する者を委員の1人とし、その委員が議長となるほか、衛生管理者、産業医、その他の従業員で、衛生に関し経験を有するもののうちから事業者が指名した者とされています。
事業者は、安全委員会、衛生委員会(又は安全衛生委員会)を毎月1回以上開催することを義務付けられています。

4. ストレスチェック制度について

仕事による強いストレスが原因で精神障害を発病し、労災認定される労働者が、平成18年度以降増加傾向にあります。そのため、事業者においても労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することが重要な課題となっています。こうした背景を踏まえ、心理的な負担の程度を把握するための検査及びその結果に基づく面接指導の実施を、事業者に義務付けること等を内容とした、ストレスチェック制度が平成27年12月1日より施行されました。

ストレスチェック制度は、常時50人以上の労働者を使用する事業者が対象とされています。
事業場における事業者による労働者のメンタルヘルスケアは、取り組みの段階ごとに、次の三つに分けられます。

① 労働者自身のストレスへの気づき及び対処の支援並びに職場環境の改善を通じて、メンタルヘルス不調となることを未然に防止する「一次予防」
② メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な対応を行う「二次予防」
③ メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援する「三次予防」

「メンタルヘルス不調」とは、精神及び行動の障害に分類される精神障害及び自殺だけでなく、ストレス、強い悩み及び不安等、労働者の心身の健康、社会生活及び生活の質に影響を与える可能性のある精神的及び行動上の問題を幅広く含むものを言います。
事業者は、労働者に対し、医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(以下「検査」と表記します。)を行わなければなりません。

5.まとめ

事業者の常日頃の努力がなくては労働災害の防止は図れません。平成31年4月1日施行の労働安全衛生法及び同規則改正により、時間外労働が月100時間超えた場合には、医師による面接指導を実施することを事業者に義務付けています。また同法改正により、産業医の強化についても定められており、事業者におかれましては、今後の改正にも注意し安全衛生管理体制の構築に取り組くんで頂ければと思います。

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