弁護士コラム

2019.06.28

働き方改革について

最近よく耳にするようになった「働き方改革」という言葉ですが、これは一体どのような取り組みのことなのでしょうか?

また、働き方改革によって、これからの私たちの働き方はどのように変わっていくのでしょうか?

1. 働き方改革とは

現在の日本では、長時間労働による過労死や、少子化による労働力・生産性の低下などが社会問題になっています。

皆さんも、ニュースなどで過労による自殺事件が取り上げられているのをご覧になったことがあるのではないでしょうか?このような痛ましい事件が起きてしまうのは、古くから、“長く働くことが偉い”という風潮が根強く存在しているためと言われています。

この記事をご覧になっている方の中にも、有給休暇を取りたいけれど、上司や同僚の目を考えると言い出し辛いという方や、1人で沢山の業務を抱え込んでいて残業をせざるを得ないという方もいらっしゃるかもしれません。

これらの問題を解決するために、政府が推進している取り組みが「働き方改革」です。政府は、働き方改革によって、労働者それぞれの事情に応じた多様で柔軟な働き方を選択できる社会の実現を目指しています。
具体的には、労働基準法などの法律を改正することによって、長時間労働の是正や、非正規雇用の待遇差解消などを図っています。

2. 働き方改革により施行される制度

それでは、働き方改革により施行される制度を1つずつ見ていきたいと思います。

① 時間外労働の上限規制(大企業:2019年4月~/中小企業:2020年4月~)

これまで、時間外労働の限度については会社・労働者間の合意(36協定)に任せられていました。すなわち、36協定で定める時間外労働については、厚生労働大臣の告示によって、上限の基準が定められていました。
しかし、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合には、特別条項付きの36協定を締結すれば、 限度時間を超える時間まで時間外労働を行わせることが可能でした。つまり、実質的に無制限に残業が出来てしまっていたということです。
 
そこで、時間外労働について、以下のように改正がなされました。
・時間外労働は原則として1か月に45時間、1年に360時間までという上限が条文に明記される
・繁忙期などでどうしても時間外労働をする必要がある場合でも、年720時間以内月100時間未満かつ複数月平均80時間(休日労働を含む)という上限が設けられる
月45時間を超えて時間外労働をしていいのは年間6か月までと定められる

②年5日の有給休暇の取得義務化(2019年4月~)

日本は有給休暇の取得率が低いため、取得を促進することが課題とされています。皆さんの中にも、「有給休暇を取りたいと言いづらい…」と思われたことがある方がいらっしゃるのではないでしょうか?
 
このような現状を改善するため、使用者は、10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して、「労働者自らの請求・取得」、「計画年休」及び2019年4月から新設される「使用者による時季指定」のいずれかの方法で労働者に年5日以上の年次有給休暇を取得させなければならないとされました

③高度プロフェッショナル制度の創設(2019年4月~)

高度プロフェッショナル制度とは、年収1,075万円以上(施行時の水準)で、コンサルタント業務など高度な専門性を必要とする職種について、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度のことです。
 
これだけ聞くと、「そんな制度を作って大丈夫なの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この制度は、あくまで本人の同意がある場合のみ適用されます。また、同制度の導入には、労使委員会で決議し、5分の4以上の賛成を得る必要があります。さらに、使用者は、労働者が事業内外で労働した時間の合計を把握し、健康診断の実施など健康確保措置を講ずる義務があります。

④フレックスタイムの清算期間の延長(2019年4月~)

フレックスタイムとは、一定の期間(当該期間のことを、清算期間といいます。)で週平均40時間以内となる労働時間を定め、その間で日々の始業・終業時間、労働時間を労働者自らが決められる制度です。この制度を導入することで、繁忙期に超過した労働時間を閑散期に精算することができます。
 
今回の法改正で、清算期間が1か月から最長3か月に変更されました。これまでは、1か月以内の清算期間における実労働時間が、あらかじめ定めた総労働時間を超過した場合には、超過した時間について割増賃金を支払う必要がありました。

一方で実労働時間が総労働時間に達しない場合には、①欠勤扱いとなり賃金が控除されるか、 ②仕事を早く終わらせることができる場合でも、欠勤扱いとならないようにするため総 労働時間に達するまでは労働しなければならない、といった状況にありました。
清算期間を延長することによって、2か月、3か月といった期間の総労働時間の範囲内で、労働者の都合に応じた労働時間の調整が可能となったのです。

⑤労働時間の状況の把握の義務化(2019年4月~)

長時間労働をなくすためには、使用者において、労働者の労働時間を適正に把握し、管理を行うことが重要になってきます。しかし、これまでは、管理監督者やみなし労働時間制の労働者は、使用者による労働時間管理の対象から外れていました。
 
そこで、今回の法改正によって、会社が全ての労働者について労働時間を把握することが義務化されました(ただし、高度プロフェッショナル制度の対象者は除かれます。)。この把握は、タイムカードやICカードなど客観的な記録によることが原則です。そして、一定の労働時間を超えた労働者については、医師による面接指導を実施しなければなりません。

⑥産業医・産業保健機能の強化(2019年4月~)

従業員50人以上の事業所では産業医、従業員1,000人以上の事業所では専業産業医の選任が必要です。
 
今回の改正で、選任された産業医は、会社に対し労働者の健康管理について必要な勧告が可能になりました。また、使用者は、労働時間その他の必要な情報を産業医に提供することが義務付けられました。

⑦勤務間インターバルの導入推進(2019年4月~)

勤務間インターバルとは、勤務終了後、一定時間以上の休息時間を設ける制度のことです。日本ではあまり普及していませんが、ドイツやフランスなどのEU主要国では広く浸透しています。
 
今回の改正で、勤務間インターバルを導入することが会社の努力義務として定められました。あくまで努力義務なので強制ではありませんが、導入によって過労死ラインを超える時間外労働の抑止が見込まれます。

⑧同一労働同一賃金(大企業:2020年4月~/中小企業:2021年4月~)

同一労働同一賃金とは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差をなくすという考え方のことです。ニュースでもよく報じられていたので、聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか?
 
今回の改正で、同じ働き方であれば同じ待遇に(均等待遇)、働き方に違いがあればその違いを考慮してバランスを保った待遇(均衡待遇)にしなければならないことになります。また、労働者から「待遇について知りたい」と求められた場合、会社は待遇について説明する義務が生じます。

加えて、派遣労働者については、①派遣先の労働者との均等・均衡待遇又は②一定の要件を満たす労使協定による待遇のいずれかを確保することを義務化されます。

⑨月60時間超の時間外労働の割増賃金率50%以上(2023年4月~)

現在、大企業は、月60時間を超える時間外労働に対して、50%以上の割増賃金を支払わなければならないことになっています。しかし、中小企業については、この割増賃金率の適用が猶予されています。
 
今回の改正で、中小企業についての猶予措置が2023年4月になくなるため、2023年4月から、全ての会社が月60時間超えの時間外労働について50%以上の割増賃金を支払う必要があります

3. まとめ

現在の日本企業には、決められた時間よりも長く働き続ける文化が根強く残っていますが、長時間労働は労働者の健康被害の原因になります。会社としても大事な従業員を失うわけにはいかないので、今回の働き方改革を機に、様々な会社が従来の働き方の見直し・改革に取り組んでいます。
 
しかし、それでも労働者に違法な労働を行わせようとする会社が存在しているのが現状です。「違法だから会社に抗議しよう!」とお考えになる方もいらっしゃるかもしれませんが、第三者を通さずに解決しようとすることはトラブルのもとです。会社に先手を打たれて泣き寝入りすることに……ということもあり得ます。
 
もし、この記事を読んでくださっている皆さんの中に、働いている会社から不当な労働を強いられていると感じている方がいらっしゃれば、すぐに専門家に相談されることをお勧めいたします。

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