弁護士コラム

2019.06.11

テレビ番組制作において気をつけるべきポイント~未成年者の実名報道編~

テレビ番組などでは、未成年者が起こした事件について実名などを伏せて報道されているかと思います。
なぜ匿名でなければならないのでしょうか。また、過去に起きた事件の中には、未成年である被告人に死刑判決が下された後から一部メディアで実名報道されるということもありました。
そこで浮かんでくる疑問は、未成年者の実名報道についての特例や、例外があるのか、ということです。以下では、未成年の犯罪に関する報道について見ていくことにします。

1.未成年の犯罪についての報道と少年法

(1)少年法61条

少年法61条では、「記事等の掲載の禁止」として下記のように未成年者の報道について定めています。

第六十一条 家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。

※ここでいう「少年」とは、20歳未満の男子女子すべての未成年者を意味しています。

(2)テレビ報道と少年法61条

未成年者の犯罪等が発生し逮捕された場合、新聞などでは少年法に基づき匿名で報道されています。しかしながら、テレビ報道は、出版物ではないため、同条の適用はないのでしょうか。新聞と並び記載されている「その他の出版物」について、テレビ報道が含まれないのでしょうか。

現在、テレビ局の報道番組では実名を伏せ、「18歳男子が殺傷事件を起こし逮捕された」というような報道を耳にするかと思います。同条の「その他の出版物」の中に、雑誌やテレビ局、いわゆるメディア全般が行う報道も含まれるとする裁判例があり、現在はこれに基づいてテレビ局も報道を行っています。
多くのテレビ局はこの少年法61条を重視しており、自局のガイドラインで報道について細かく定めるなどし、後述する死刑や死亡の場合を除いて、現時点では実名報道をしないとしているようです。

(3)「推知することができる」とは?

「推知」という言葉自体、あまり聞きなれないかもしれませんが、文字通り推測して知ることができるかどうかという意味です。そして、判例によって同条の「推知」は、「不特定多数の人間が、その報道によって本人を推察し知ることができるかどうか」と解釈されています。

例えば、報道番組の中で、未成年被疑者についての詳細が放送されたとします。
被疑者がどんな人物であったかという部分で、被疑者の職歴や友人、知人との関係を放送しても視聴する多くの人は、本人を推察し特定することはできないため、少年法的には問題ないとされます。
ただし、被疑者本人を知っている者が、この放送で言われている内容で、本人の名前や顔などが推知できる場合、肖像権やプライバシーの侵害にあたる可能性もあります。

少年法61条には罰則がなく、違反しても刑事責任は問われませんが、民事上の責任(賠償責任)を問われることも過去の裁判例ではあるようです。
事例として、ある週刊誌が、被疑者である少年の職歴、交友関係、非行歴、法廷での様子を記した記事を掲載したため、被疑者である少年が、当該週刊誌の出版社を相手取り、少年法61条違反と肖像権・プライバシー権の侵害を主張して損害賠償を求めたケースがあります。

上記の事例で裁判所は、不特定多数の一般人からしてみれば、面識のない少年について、この記事だけでは本人を特定することはできないとして、少年法には違反しないと結論づけました。
しかしながら同じようなケースで訴訟となった際、民事上の責任を負うという判決も示された事例もあり、すべての裁判例が同様であるとは言えない現状となっています。

2.少年法をどこまで適用させるのか

さて、少年法61条に基づくと、犯行時に未成年だった場合、永久に匿名のまま取り扱われるということになります。これを、どこまで匿名報道し続けるのか、どういった場合に実名報道に切り替えるのかは、テレビ局によって違いがあるようです。

多くのテレビ局が、実名報道に切り替えるケースとしては、
・被疑者・被告人が死亡したとき
・被告人の死刑が確定したとき
が多く、なぜ切り替えるのかを明確に説明した上で実名や顔写真を報道しています。その理由としては、
・死刑の対象は明らかに報道すべきであるという指針
・社会復帰の可能性が事実上消失したこと
・事件の重大性、社会に与える影響を考慮した
などという点を挙げています。

当時18歳の少年が起こしたいわゆる光市母子殺害事件では、少年に死刑判決が言い渡された後、社会復帰の見込みがなくなったとして実名報道に切り替えるメディアと、再審の可能性もあるなどして、匿名報道を続けたメディアとで対応が分かれました。
当時の法務大臣や法務省は、上記のような理由に基づき行う被告人への実名報道に対しては、経緯を説明して行っているので、一定程度の理解はできると会見しています。

3.まとめ

テレビ局などのマスコミは、ガイドライン(放送指針)を定めています。
特にNHKや民放連のガイドラインは未成年の実名報道がどんな時になされるのか、などを詳しく表記しています。テレビ事業に新規参入するなど、ガイドラインを新たに策定する場合や、現在のガイドラインを見直しする際には参考にするとよいでしょう。

警察庁の調査によると、1900年代と比較して2000年代以降、未成年者による犯罪は減少傾向にあるようです。しかしながら、未成年の凶悪犯罪は依然として注目を集めやすく、社会に与える影響も大きいものです。
取り扱う場合には十分注意を払い、法的な問題やガイドラインに抵触していないかをよく確認するようにしましょう。

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