弁護士コラム

2019.03.11

【相談事例27】~インフルエンザでも出勤強要、違法では?~

【相談の内容】

土曜日にちょっと人が多いところに行ったため、日曜日非常に高熱が出たため、今朝病院に行ったらインフルエンザと診断されました。
すぐに会社に連絡し、休む連絡をしたところ、上司から「忙しい時期なんだから出社しろ」と言われました。
インフルエンザなのに出社なんかしたら会社に迷惑をかけてしまうだけだと思うのですが・・・・

【弁護士からの回答】

2019年は全国各地でインフルエンザが猛威を振るっており、福岡でも、1月に、警報レベルでの感染者が報告されるに至りました。

インフルエンザウイルスは、飛沫感染のみならず接触感染も認められるウイルスであり、インフルエンザであるにも関わらず、無理に会社などに出社してしまうと、他の従業員に移してしまうなど多大な迷惑をかけることになってしまうため、通常の企業であればインフルエンザに感染した従業員に関しては、欠勤させ、他の従業員に対する感染を防ぐという企業が一般的であると認識しています。

では、ご相談者様の事例のとおり、従業員がインフルエンザに感染したにもかかわらず、上司や会社において出勤を強制した場合には、どのような問題になるのかご説明させていただきます。

1 安全配慮義務違反

使用者と労働者との間の契約(雇用契約)関係を規律する労働契約法5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定されており、かかる規定は、使用者側に労働者の安全を確保するための義務、すなわち、安全配慮義務を負っていることを記載している規定であると言われています。

したがって、使用者側としても、自由に従業員を出勤させることができるというわけではなく、労働者の安全を確保しなければならないという点での制約を受けることになります。

そして、インフルエンザであることが診断書などで客観的に判明している場合に、当該インフルエンザに感染した従業員を出勤させることは、従業員の体調をさらに悪化させることにつながり、当該従業員の身体の安全を害する行為であることに加え、ウイルスに感染した従業員を出勤させたことにより、他の従業員にウイルスが感染し、他の従業員の体調が悪化することで、他の従業員の身体を害する行為にも当たりうるものです。

したがって、インフルエンザに感染した従業員を無理に出社させることは、当該従業員のみならず他の従業員に対しても安全配慮義務違反し、会社や上司において、損害賠償の支払を余儀なくされることになる可能性があります。

2 パワーハラスメント

近年、パワハラの件数が増加してきたことを踏まえ、厚生労働省では、このパワーハラスメントに該当しうる行為として6つの類型を挙げており、その中の1つの類型として、「過度な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制仕事の妨害」というものがあります。

そして、インフルエンザに感染した従業員を強制的に出席させる行為は、過大な要求として、パワハラ行為に該当する可能性があり、その場合には使用者若しくは上司において、パワーハラスメントに伴う損害賠償(慰謝料)を請求される可能性も否定できません。

3 労働安全衛生法違反

また、労働安全衛生法では、「事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかった労働者については、厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない」と規定しており(同法68条)、厚生労働省で定める省令では、就業が禁じられる場合として「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者」(労働安全衛生規則61条)を規定しています。

インフルエンザウイルスに感染した従業員については「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者」と認定されることになると思われます。
したがって、就業が禁じられているインフルエンザに感染した従業員を強制的に出社させることは、上記労働安全衛生法に違反し、事業者(使用者)には6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科される可能性があります(労働安全衛生法119条1号)。

4 最後に

このように、インフルエンザウイルスに感染してしまった、従業員を強制的に出勤させてしまった場合には、損害賠償請求のリスクだけでなく、刑事罰を科されるリスクも存在することになります。
インフルエンザにウイルスに感染してしまった場合には、仕事に行かず他の人に感染を拡大させないことが、従業員本人のみならず、企業にとっても一番重要なことではないかと考えています。

今回の相談事例のような従業員の出退勤に関してはトラブルになりやすい場面であるため、早めに弁護士にご相談されることをおすすめします。

 

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