先日、某ダンス&ボーカルグループの方が、罪を犯し、検察庁に書類送検されたというニュースを目にしました。そのニュースでは、書類送検された人のことを「○○メンバー」と記載していました。以前、ほかのニュースでもアイドルグループの人やお笑い芸人などが書類送検された際にも「メンバー」と記載されていたのを目にしたことがあったため、なんでこのような呼称になっているのか気になりました。
まず、事件を起こした人などについて、法律上存在する呼称は「被疑者」と「被告人」の2つしかありません。「被疑者」とは、起訴される前の状態で、犯罪の疑いをかけられて、捜査の対象となっている人のことをいいます。交通事故で、お相手の方を汚させてしまった際には、過失運転致傷罪という犯罪の疑いがあり、捜査の対象となるため、被疑者となってしまいます。また、「被告人」とは、検察から起訴された人のことをいいます。
このように、法律上では、起訴される前で、捜査の対象となっている人は全て被疑者であるため、上記書類送検された人たちについても「○○被疑者」と呼称することは法律上間違ってはいません。
しかし、共同通信社発行している「記者ハンドブック」という記事を書く際の統一的なルールをまとめた本(記事をわかりやすく読みやすくするために、用語の統一を図るためのもので、新聞だけではなく多くの媒体で参考にされているようです。)の中では、
「実名を出す場合の任意調べ、書類送検、略式起訴、起訴猶予、不起訴処分」の場合、「肩書」または「敬称(さんや氏)」を原則とする。
と記載されています。これは、書類送検などは逮捕と違い、全ての刑事事件で行われる手続きであり、罪を認めている場合でも、逮捕とは違い、逃亡や証拠隠滅の恐れがない場合に取られるものであるため、人権に配慮して、「肩書」などで呼称しているようです。逆に、逮捕状がでた指名手配犯、逮捕された場合には「容疑者」という呼称を使用するようですが、この「容疑者」という言葉は、法律上の言葉ではなく報道機関が独自で使用している用語になります。
したがって、冒頭のアイドルグループ等の場合でも、「さん」での呼称は不自然であるため、肩書として「メンバー」と記載しているとのことでした。
そもそも、厳密にいうと、起訴されたからといって、その人が本当に悪いことをしたか(罪を犯したか)はまだわからない状態であり、裁判で有罪の判決が確定して初めて、罪を犯したか否かが決まることになります(これを「推定無罪の原則」といいます。)。ですが、ニュースで「容疑者」などとインパクトのある呼び名が記載されているのを見ると、「悪いことをした人」というイメージが強くなってしまうと思うので、ニュースなどの呼称については、ちゃんと配慮されているのだなと勉強になりました。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。