配偶者がお金を使いすぎる、貯金をしてもすぐ使われる、借金までしている。このような状態が続き、「もう離婚したい」と考えているかもしれません。金銭感覚が合わないという理由だけで裁判で直ちに離婚が認められるとは限りませんが、実際、どこからが離婚事由になり得るのでしょうか。
本記事では、過去の裁判例を参考に、金銭問題が離婚事由となり得るラインと弁護士へ相談する際のポイントを解説します。
第1章 金銭問題を理由に離婚する場合の基本的な考え方
1-1 相手が離婚を拒否する場合は法律上の離婚事由が問題になる
夫婦の両方が離婚することに合意できるのであれば、「金銭感覚が合わない」という理由でも協議離婚はできます。
一方、浪費している相手が離婚を拒否し、最終的に裁判で離婚を求める場合には、民法が定める離婚事由が必要になります。浪費や金銭感覚の違いは、それ自体が独立した離婚事由として定められているわけではないため、浪費の程度や状況もふまえて、主に「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し得るかが問題になります。
1-2 浪費の金額だけでなく家計や夫婦生活への影響も含めて判断される
毎月いくら以上無断で使っていれば離婚事由となるといった一律の金額基準はありません。ただし、夫婦の収入や資産に対してどの程度の金額を使っていたのかは、金銭問題の深刻さを判断する一つの材料になり得ます。
また、裁判では、何のために使ったお金なのか、家族の生活費や子どもの教育費にまで影響しているか、配偶者に隠れて借金をしているか、注意された後も繰り返しているかなどの事情もふまえ、金銭問題によって婚姻関係がどの程度損なわれ、婚姻生活を継続することが困難になっているかが判断されます。
では実際、具体的にどの程度になると離婚事由になり得るのでしょうか。次章では実際に離婚が認められた裁判例と認められなかった裁判例を見ながら整理します。
第2章 どこから離婚事由になりやすい?裁判例から見る3つの段階
金銭問題に関する裁判例を3つの段階に分けて見ていきます。なお、以下の3段階は裁判所が示した公式な基準ではなく、複数の裁判例から違いを分かりやすく整理したものです。
2-1 段階1|借金で家計が圧迫されていても、それだけでは離婚事由にならないことがある
配偶者に多額の借金があり、その返済のために家計へ入るお金が減っている場合、生活に支障が出ているので離婚事由になるのではと考えるかもしれません。
しかし、借金で家計が圧迫されていても、それだけで直ちに「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められるとは限りません。
裁判では、借金がいくらあるかだけでなく、なぜその借金ができたのか、借金以外に夫婦関係を続けられない事情があるのか、婚姻生活を立て直す余地はないのかといった事情も含めて判断されます。
裁判例:約600万円の借金があり、生活費が月3万円程度でも離婚が認められなかったケース
夫には結婚当初から約600万円の借金があり、その後も借入れをしていました。借金の返済により、一時期には妻へ渡す生活費が1か月3万円程度となっていました。
それでも、裁判所は妻からの離婚請求を認めませんでした。(仙台地方裁判所 昭和60年12月19日判決)
この事案では、借金の原因に弟の大学進学費用、父の入院費用、夫婦の結婚費用などが含まれていました。
また、借金問題以外には婚姻生活を続けるうえで大きな支障が認められないことに加え、当時の判決では、妻も働いて家計に収入を入れれば借金の返済や生計の維持が容易になるとの事情も考慮されています。なお、この点は当時の社会状況や家族観を反映した判断であり、現在の夫婦にそのまま当てはめることはできません。
つまり、妻に渡される生活費が月3万円程度まで減っていたにもかかわらず、借金の原因や夫婦関係全体の状況によって離婚事由が認められなかったケースといえます。
2-2 段階2|生活費や教育費など家族のためのお金にまで手を付けている
お金の使い方が、自分の収入や自由に使える範囲に収まらず、生活費や教育費など家族のために確保していたお金にまで及んでいる場合には、問題は深刻になります。
たとえば、子どもの入学費用として用意していたお金や、生活費として渡したお金をギャンブルや買い物に使ってしまうといったケースです。
裁判例:子どもの中学校入学費用まで別の用途に使い、浪費を繰り返していたケース
妻は、競馬に毎月1~2万円を使うほか、夫に無断で不要な衣類や時計、貴金属などを割賦で購入し、代金を払い終わらないうちに質入れして現金化するなどの行為を繰り返していました。さらに、夫が長女の中学校入学費用として妻に渡した13万円についても、妻は別の用途に使っていました。
夫から浪費を注意されると反省する態度を示していたものの、その後も同じような行動を繰り返し、離婚調停中にも、夫から生活費を受け取っていながら自宅の冷蔵庫やステレオを質入れしていました。
裁判所は、このような一連の事情から「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして離婚を認めています。(東京家庭裁判所 昭和41年4月26日審判)
このケースでは、子どもの入学費用13万円を使ったことだけを理由に離婚が認められたわけではありません。家族のために確保されたお金にまで浪費が及び、注意されても改善せず、同じような行為を繰り返していたことなどが重なっています。
つまり、配偶者がお金を使いすぎている場合には、その金額や使途に加えて、同じことを繰り返しているか、注意や話し合いをしても改善しないかといった事情も重要になるといえます。
2-3 段階3|隠れた借金や名義利用まで進み、家族の生活や信用に影響している
浪費によってお金が足りなくなるだけでなく、配偶者に隠れて借金をする、自分以外の名義を使って取引をするなどして、家族の信用にまで影響が及んでいる場合はさらに深刻です。
たとえば、買い物やギャンブルのために借金を繰り返す、配偶者に知られないよう消費者金融から借りる、配偶者やその家族の名義を無断で使うといった状況です。
裁判例:隠れて借金をし、夫や夫の父の名義まで利用していたケース
妻が支出を重ねて家計を不足させ、夫に隠れて質入れや借金を繰り返していたケースがあります。妻は夫名義の約束手形を無断で振り出し、月賦購入の際には夫の父の名義まで無断で使用していました。
夫婦はいったん話し合いをして再出発しましたが、その後も妻の生活態度は改善しませんでした。
裁判所は、このような事情から「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして離婚を認めています。(東京地方裁判所 昭和39年10月7日判決)
このケースでは、浪費そのものに加えて、隠れて借金を繰り返し、夫やその家族の名義まで利用していたこと、さらに一度やり直す機会を設けても改善しなかったことなどが重なっています。
紹介した裁判例には、昭和時代のものも含まれています。当時と現在では物価や家族のあり方なども異なるため、古い裁判例の金額をそのまま現在のケースに当てはめることはできませんが、浪費や借金による離婚について、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるかを夫婦関係全体から判断するという基本的な考え方は現在も変わりません。
裁判所が重視していた、借金の使途や家計への影響、配偶者に隠していたか、問題を繰り返していたか、改善する可能性があったかなどの事情については、現在のケースを考えるうえでも参考になります。
第3章 浪費を理由に配偶者との離婚を考えたら準備しておきたいこと
3-1 金銭問題が始まってから現在までを時系列で整理する
弁護士へ離婚について相談する場合には、配偶者の金銭問題がいつ頃から始まり、その後どのように状況が変わってきたのかを時系列で整理しておくとよいでしょう。
たとえば以下のような出来事をまとめておきます。
・借金がいつ発覚したか
・生活費や貯金にどのような影響が出たか
・夫婦でいつ話し合ったか
・相手が改善を約束した後も繰り返したか
上記のような事項を時系列で整理しておけば、弁護士も金銭問題が一時的なものなのか、夫婦関係の破綻につながるほど継続しているのかを把握しやすくなり、今後の離婚の進め方も検討しやすくなります。
3-2 浪費や借金を裏付ける資料は確保しておく
配偶者がお金を使いすぎていることや借金があることを確認できる資料が手元にある場合には、なくさないように保存しておきましょう。
たとえば、自分が適法に確認できる範囲の預金口座の取引履歴、クレジットカード明細、借入れ関係の書類、家計簿、金銭問題について夫婦でやり取りしたチャットやメールなどです。
これらの資料があれば、「いつ、何に、いくら使っていたのか」「借金がどの程度あったのか」「問題が発覚した後に夫婦でどのような話をしたのか」を具体的に確認し、金銭問題を裏付ける資料として活用できる場合があります。
離婚調停や訴訟になれば、相手の浪費の程度や借金について争うこともあります。そのため、現在手元にある資料は、相談時に弁護士へ見せるためだけでなく、その後の離婚手続で金銭問題を説明するためにも保存しておくことが重要です。
まとめ|金銭問題を理由に離婚を考えている方は早めに弁護士へ相談を
配偶者の浪費や借金が離婚事由になり得るかは、金額だけでなく、家計への影響やこれまでの経緯などによって異なります。離婚を考え始めた段階で弁護士へ相談しておけば、現在の状況で離婚を求めることが現実的か、今後どのような資料を確保し、どのように進めるべきかを整理できます。
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