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養育費を一括で支払ってもらうことはできる?未払い不安・贈与税・追加請求の注意点を弁護士が解説



 

離婚後の養育費について、「途中で支払いが止まるくらいなら、一括で受け取りたい」と考える方は少なくありません。養育費は、夫婦間で合意できれば一括払いにすることも可能です。ただし、贈与税、将来の追加請求、公正証書の作り方を誤ると、後から不利な合意になってしまうことがあります。この記事では、養育費を一括で支払ってもらう場合の注意点を弁護士が解説します。

第1章 養育費を一括で支払ってもらうことは法的に可能なのか

1-1 夫婦間で合意できれば養育費の一括払いは選択できる

養育費とは、子どもの監護や教育のために必要となる費用のことです。衣食住に必要な費用だけでなく、学費、教材費、医療費なども含まれます。
養育費は、実務上は「月額〇万円を毎月末日までに支払う」という形で取り決められることが一般的です。しかし、父母間で合意できるのであれば、将来分の養育費をまとめて一括で支払う内容にすることも可能です。

たとえば、子どもが10歳で、20歳まで支払うと合意する場合、月額5万円で単純計算すると10年分で600万円になります。この金額を、離婚時に一括で支払うという合意をすること自体は、法律上ただちに禁止されているわけではありません。

ただし、一括払いは、相手がまとまった資金を用意できるか、その金額が子どもの生活費・教育費として相当か、税務上問題がないか、将来の事情変更に対応できるかといった点を慎重に確認する必要があります。

1-2 相手が拒否した場合、裁判所で一括払いを命じてもらうのは簡単ではない

相手が任意に一括払いへ応じる場合は、協議離婚や離婚調停の中で合意を目指すことになります。
問題は、相手が「毎月払いなら応じるが、一括払いはできない」と拒否した場合です。
この場合、家庭裁判所に調停や審判を申し立てたとしても、将来分の養育費を必ず一括で支払うよう命じてもらえるとは限りません。
家庭裁判所では、父母双方の収入、子どもの年齢、人数などをもとに、養育費算定表を参考にしながら月額を検討することが一般的です。

そのため、一括払いを希望する場合には、裁判所に一括払いを強く求めるというよりも、まずは相手方との交渉で合意形成を目指すことが現実的です。
相手の資産状況、預貯金、不動産売却予定、親族からの援助の有無などを踏まえ、どの程度であれば一括払いが可能なのかを見極める必要があります。

1-3 裁判所手続では月払いが前提になりやすい理由を理解しておく

裁判所手続で月払いが前提になりやすいのは、養育費が子どもの成長に応じて継続的に発生する費用だからです。
子どもが小学生の時点では教育費がそれほど高くなかったとしても、中学・高校・大学への進学、塾代、部活動、病気やけが、進路変更などによって、将来必要となる費用は変わります。
また、支払う側の収入が減ったり、受け取る側の収入が増えたりすることもあります。

養育費は、離婚時に一度決めれば絶対に変わらないものではありません。事情が大きく変わった場合には、増額や減額が問題になることがあります。そのため、裁判所手続では、将来分をすべて現時点で確定させる一括払いではなく、月払いを前提に整理されやすいのです。

第2章 養育費を一括で受け取るメリットと安心できる場面

2-1 将来の未払いや滞納への不安を大きく減らせる

養育費を一括で受け取る最大のメリットは、将来の未払いリスクを減らせることです。
令和3年度全国ひとり親世帯等調査では、離婚した父親から養育費を「現在も受けている」母子世帯は28.1%とされています。養育費を取り決めても、長期間にわたって確実に支払いを受け続けることが簡単ではない現実がうかがえます。

離婚時には、毎月きちんと払うと言っていたとしても、数年後に転職、失業、再婚、病気、自営業の業績悪化などが起きることがあります。支払う側に悪意がなくても、結果的に養育費が滞るケースは珍しくありません。

一括払いであれば、少なくとも合意した金額については、離婚時点で確保できます。
特に、相手にまとまった預貯金がある場合や、離婚時に不動産売却代金・退職金・解決金などが入る見込みがある場合には、一括払いを検討する価値があるといえます。

2-2 離婚後に元配偶者と連絡を取り続ける負担を軽くできる

養育費の月払いでは、支払いが遅れるたびに元配偶者へ連絡をしなければならないことがあります。今月分が振り込まれていない、いつまでに振り込めるのかといった連絡を、離婚後何年も続けることは精神的負担になります。
特に、夫の浮気や長年の不仲が原因で離婚する場合には、できるだけ関わりたくないと感じるのも自然なことです。

一括払いにより、通常の養育費部分については支払いの確認や督促の必要がなくなります。
もちろん、子どもの進学や病気などで別途協議が必要になることはありますが、毎月の支払いをめぐる連絡がなくなるだけでも、離婚後の生活を落ち着かせやすくなるといえます。

2-3 子どもの進学や生活設計に必要な教育資金を確保しやすい

一括払いには、子どものための資金を早い段階で確保できるというメリットもあります。
たとえば、私立中学・高校への進学、大学進学、留学、塾代など、子どもの教育にはまとまった費用が必要になる場面があります。毎月の養育費だけでは、その時々の大きな支出に対応しにくいこともあります。

離婚時に一定額を確保できれば、教育資金として計画的に管理できます。特に、相手が自営業で将来の収入に波がある場合や、現在は収入が高いものの今後の収入が読みにくい場合には、今ある資金から子どものための費用を確保しておく意味があります。

第3章 養育費を一括で受け取る場合の注意点とリスク

3-1 まとまった金額を受け取る場合は贈与税の問題に注意する

養育費は、通常、子どもの生活費や教育費として必要な範囲で支払われる限り、贈与税の対象にはなりにくいものです。
ただし、一括払いの場合は金額が大きくなります。そのため、税務上、本当に養育費なのか、子どもの生活費・教育費として通常必要な範囲なのかといった点が問題になることがあります。

国税庁は、扶養義務者から生活費や教育費に充てるため取得した財産で、通常必要と認められるものは贈与税がかからないと説明しています。一方で、生活費や教育費として必要な都度直接充てるためのものに限られ、預金したままにしたり、株式や不動産の購入資金に充てたりする場合には贈与税がかかることがあるとしています。

つまり、養育費という名目で受け取れば常に非課税になるわけではありません。
特に、数百万円から数千万円単位の一括払いを受ける場合には、贈与税の問題について、弁護士や税理士に確認したうえで進める方が安心といえます。

3-2 贈与税の課税対象と疑われやすい具体的なケース

贈与税の問題が生じやすいのは、養育費としての実態が不明確な場合です。
たとえば、次のようなケースでは注意が必要です。

・算定表や子どもの年齢から見て、明らかに高額な一括金を受け取る場合
・養育費として受け取った金銭を、親自身の住宅購入資金や投資資金に使う場合
・子どもの生活費や教育費に使った記録がほとんど残っていない場合
・慰謝料、財産分与、解決金、養育費の区別をしないまま総額だけを決めている場合
・夫本人ではなく、夫の両親から直接まとまった金銭を受け取る場合

特に、夫の実家に資金力があり、夫の両親が支払いを援助するケースでは、資金の流れを整理する必要があります。夫の両親から妻や子へ直接支払われる形にすると、養育費なのか、祖父母からの贈与なのかが曖昧になりやすいためです。
このような場合には、夫が両親から借入れや援助を受け、その資金をもとに父として養育費を支払う形にするのか、祖父母から子への教育資金として整理するのかなど、法務・税務の両面からの検討が求められます。

3-3 子どもの状況が変わったときに追加請求できるかを確認しておく

一括払いを受けた後に、子どもの状況が変わることがあります。
たとえば、離婚時には公立高校への進学を前提にしていたものの、後に私立高校や大学への進学を希望することがあります。子どもが病気やけがをして、継続的な医療費が必要になることもあります。発達特性への支援、療育、専門的な学習支援など、離婚時には具体的に想定できなかった費用が生じる場合もあります。

このような事情が生じた場合に、追加で請求できるかどうかは、離婚時の合意内容に左右されます。
離婚協議書や離婚公正証書に、「将来の教育費、医療費を含めて一切請求しない」といった文言を入れてしまうと、後から追加請求をしたい場面で相手から拒まれる可能性があります。
一方で、「通常の生活費・教育費として本合意をするが、進学、病気、事故その他予期しない特別の費用が生じた場合は、父母で別途協議する」といった文言を入れておけば、将来の協議の余地を残しやすくなります。
一括払いを受ける場合ほど、将来の例外場面を書面に残しておくことが重要です。

3-4 一括払いの合意で将来請求を制限する文言に注意する

離婚協議書や公正証書では、最後に「本件離婚に関し、当事者間には本書に定めるほか何らの債権債務がないことを確認する」という清算条項を入れることがあります。
清算条項自体は、離婚後の紛争を防ぐために用いられる一般的な条項です。しかし、養育費の一括払いと組み合わせる場合には注意が必要です。

たとえば、養育費、慰謝料、財産分与をまとめて「解決金」として受け取り、さらに清算条項で今後一切請求しないと記載してしまうと、後になって、清算条項を根拠に養育費の追加請求を拒まれるおそれがあります。

養育費は子どものための費用であり、親同士の慰謝料や財産分与とは性質が異なります。そのため、離婚協議書や公正証書では、養育費、慰謝料、財産分与をできる限り分けて記載することが望ましいです。
特に、一括払いを受ける場合には、どの金額が養育費なのか、何歳までのどの費用を対象にしているのか、特別費用は別途協議できるのかなどの点まで明確にしておく必要があります。

3-5 相手方から減額を求められることがある

養育費を一括で受け取る場合、相手方から「まとめて払うのだから、その分は減額してほしい」と言われることがあります。
これは、中間利息控除という考え方に近い主張です。
簡単にいうと、将来受け取る予定だったお金を今受け取る場合、受け取る側はそのお金を早く使ったり管理したりできるため、将来の総額をそのまま現在支払うのは多すぎるのではないか、という発想です。
たとえば、月額5万円を10年間受け取る場合、単純計算では600万円です。しかし、相手方が「一括で支払うなら500万円にしてほしい」と交渉してくることがあるのです。

このような減額に応じるべきかどうかは、一概にはいえません。
一括で確実に受け取れるメリット、相手の支払能力、財産分与や慰謝料との全体バランスなどを踏まえて判断する必要があります。
単純に「本来の総額より低いから損」と見るのではなく、実際に回収できる可能性がどの程度あるかという視点も重要です。

第4章 養育費の一括払いを安全に進めるための実務ポイント

4-1 税務リスクを抑えるために養育費信託などを検討する

養育費を一括で受け取る場合、税務リスクや資金管理の問題を抑える方法として、いわゆる養育費信託などの活用が検討されることがあります。
信託とは、一定の財産を信託銀行などに預け、決められた目的に従って管理・給付してもらう仕組みです。養育費の場面では、将来分の養育費に相当する金銭を信託し、子どものために毎月または一定時期ごとに支払われるように設計することが考えられます。

このような設計ができれば、受け取った側が自由に全額を使える状態にはなりにくく、子どもの生活費・教育費として管理していることを客観的に説明しやすくなります。また、支払う側にとっても、本当に子どものために使われるのかという不安を軽減しやすく、一括払いに応じる動機になることがあります。
ただし、実際に信託を利用できるか、どのような税務上の扱いになるかは設計内容によって異なるため、弁護士や税理士、金融機関に確認しながら進める必要があります。

4-2 贈与とみなされにくいように離婚協議書や公正証書の記載を具体化する

養育費の一括払いでは、離婚協議書や離婚公正証書の作り方が非常に重要です。
単に「夫は妻に解決金として〇〇万円を支払う」と記載するだけでは、その金額の内訳が分かりません。後から、養育費なのか、慰謝料なのか、財産分与なのかが客観的に説明しにくくなる可能性があります。

そのため、離婚協議書や離婚公正証書では、養育費の対象期間、その金銭が子どもの生活費・教育費に充てられること、慰謝料、財産分与、解決金とは別の性質であること、特別な教育費・医療費が発生した場合の協議方法などを整理しておくことが望ましいです。

税務上は、金額の根拠を資料で示せる状態にしておくことも大切です。
算定表を参考にした月額、子どもの年齢、支払期間、進学予定などをもとに計算過程を残しておくと、養育費としての相当性を整理しやすくなります。

4-3 将来の予期しない事情変更に備えた文言を残しておく

養育費の一括払いで避けたいのは、離婚時点で予想できなかった事情が起きたにもかかわらず、追加の協議ができなくなってしまうことです。
離婚協議書や離婚公正証書には、通常の養育費に含める範囲と、将来別途協議する範囲を分けて記載することが考えられます。

たとえば、通常の衣食住、学校生活に必要な基本的費用、一般的な教材費などは一括払いの対象に含める一方で、私立学校への進学、大学進学、留学、長期入院、高額な医療費、特別な支援費用などについては、発生時に父母で協議するという形です。

もちろん、協議条項を入れたからといって、必ず相手が追加負担に応じるわけではありません。しかし、何も記載がない場合と比べると、一括払いで全て解決済みと反論をされるリスクを下げやすくなります。

4-4 口約束や私的な念書で終わらせず離婚公正証書を作成する

養育費の一括払いを合意する場合は、口約束や簡単な念書で終わらせるべきではありません。できる限り、離婚公正証書を作成することを検討してください。
公正証書とは、公証人が作成する公的な文書です。
養育費について、支払義務者が支払いを怠った場合には強制執行を受けてもよいという強制執行認諾文言を入れておくことで、調停や審判を経ずに強制執行手続を利用できる場合があります。

一括払いの場合でも、支払期限を離婚成立後や不動産売却後に設定することがあります。その場合、約束どおり支払われなかったときに備え、公正証書で支払義務を明確にしておく意味があります。

一括払いではなく、「半分を離婚時、残りを半年後に支払う」といった何回かに分けて支払うという設計になることもあります。このような場合には、なおさら公正証書の重要性が高まります。

第5章 まとめ

養育費を一括で支払ってもらうことは、夫婦間で合意できれば可能です。離婚後の未払いや滞納への不安を減らし、元配偶者との連絡負担を軽くできるという意味では、一括払いには大きなメリットがあります。
もっとも、養育費の一括払いは、金額が大きくなれば贈与税の問題が生じる可能性がありますし、離婚協議書や公正証書の書き方によっては、将来、子どもの進学費用や医療費が必要になったときに追加請求が難しくなるおそれもあります。また、相手方から中間利息控除を理由に減額を求められることもあり、財産分与や慰謝料を含めた離婚条件全体の中で検討する必要があります。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)那珂川オフィスでは、弁護士だけでなく、税理士などの士業が連携し、離婚条件の整理、公正証書作成、贈与税を含む税務面の確認までワンストップで対応できる体制を整えています。養育費を一括で支払ってもらいたいと考えている方や、相手方から一括払いを提案されて不安を感じている方は、合意書を作成する前に、一度ご相談ください。

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