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刑事事件の示談は後から撤回できる?弁護士が教える法的効力と例外的に認められるケース



 

刑事事件において、一度は示談書にサインをしたものの、後になって「やはり納得がいかない」「相手に騙されていた」「約束が守られない」といった理由から、示談を撤回したいと考える場面があります。しかし、法的に成立した示談を後から覆すことは、簡単ではありません。本記事では、示談撤回が問題になる場面を整理しながら、刑事事件における示談成立後の効力と、例外的に争えるケースをわかりやすく解説します。

第1章 刑事事件における示談の成立と撤回の原則的ルール

1-1 なぜ示談成立後の撤回は難しいのか

刑事事件における示談は、加害者と被害者が、当該事件について一定の条件で解決することを合意するものです。法的には、民事上の和解契約として整理されるのが一般的であり、いったん有効に成立すれば、当事者はその内容に拘束されます。当該事件について示談の話し合いをしている段階であれば、まだ合意そのものが固まっていないため、条件の見直しや交渉の打ち切りも検討できますが、示談が成立した後は、当該事件について和解が成立しているため、一方の都合だけで元に戻すことは原則として認められません。
これは、当事者間で確定した合意内容を安定させるための原則です。もし「一度決めたことだが、やはり気が変わった」という理由だけで示談が無効になれば、示談金の支払いによる被害回復や、それを受けた刑事処分の決定といった法的な手続きがすべて不安定になってしまいます。そのため、示談成立後の撤回は一般的にハードルが高いのです。

1-2 示談書への署名捺印が持つ確定的な合意としての重み

示談が成立したかどうかは、最終的には個別事情によって判断されますが、実務上は示談書の存在が重要な意味を持ちます。民法上、契約は原則として書面がなくても成立し得るものの、示談書が作成され、そこに署名および押印されていれば、当事者がその内容を確認したうえで合意したことを基礎づける資料となるからです。とくに刑事事件の示談書には、対象となる事件、示談金の金額、支払時期、清算条項、そして被害者がそれを受け入れて加害者を許す(宥恕)という文言などが含まれ、後から争いになりやすい事項がまとめて記載されることが多く、書面化されていること自体が合意内容の明確化につながります。
そのため、署名した後に「内容をよく読んでいなかった」「本意ではなかった」と主張しても、客観的な証拠である示談書の効力を否定することは現実的に難しい場合が多いといえます。裁判所も特段の事情がない限り、署名捺印がある書面の内容を真実の合意として取り扱います。

第2章 法律上で認められる「示談の取り消し・無効」の正当な理由

2-1 重大な事実の勘違いがあった場合の錯誤

とはいえ、示談の成立後であっても、どのような場合でも争えないわけではありません。示談の前提となる核心的な事実について認識に誤りがあり、その誤りがなければ通常はその内容で合意しなかったといえる場合には、「錯誤」が問題となることがあります。
たとえば、被害の程度や損害の内容に関する事情について、示談時点で重大な誤認があったような場面です。
もっとも、錯誤が問題になるためには、何について、どのような認識違いがあり、それが示談の判断にどの程度大きな意味を持っていたのかを具体的に示す必要があります。示談金が思ったより少なかった、後から冷静になって不利に感じたという程度では、通常は足りません。
刑事事件の示談で錯誤を理由に効力を争うには、示談の前提にあった重要事実と合意との結びつきを丁寧に整理することが必要になります。

2-2 相手方の嘘や威圧があった場合の詐欺・強迫

示談に応じた経緯そのものに問題がある場合には、詐欺や強迫による取消しが問題になることもあります。典型的なケースとして、相手方から重要な事実について虚偽の説明を受け、それを信じて示談した場合や、不当な圧力を受けて自由な意思決定が妨げられたまま署名した場合です。
たとえば、被害者が示談に応じなければ不利益が生じるかのように誤った説明を受けた場合や、加害者本人や関係者から心理的圧迫を受け、落ち着いて判断できない状況で署名に至った場合などが考えられます。刑事事件では感情的な対立が強かったり、周囲の関係者が関与したりすることもあるため、形式的に署名があるというだけで、常に十分な意思決定があったとまでは言えない場合もあります。
ただし、ここでも重要なのは立証です。あとから振り返って不本意だったと感じていても、詐欺や強迫があったと認められるためには、具体的な発言、交渉時の状況、メッセージの内容、同席者の有無などを踏まえた客観的な裏づけが必要になります。

2-3 内容自体が著しく不当である場合の公序良俗違反

示談の内容が社会通念に照らしてあまりに不公正である場合、民法90条の公序良俗違反として無効とされる場合があります。例えば、重大な被害が生じているにもかかわらず、事情を十分に理解していない被害者に対して、極端に低い金額で広範な権利放棄を求めるような内容で合意がなされた場合などが問題となり得ます。
もっとも、示談は当事者が互いに譲歩しながら当該事件について終局的な解決を図るものですから、後から見て条件がやや不均衡に感じられるというだけで、直ちに公序良俗違反になるわけではありません。示談金の多寡のみで判断されるものでもなく、合意に至る経緯、被害の内容、条項の範囲などを総合的に考慮して判断されます。

第3章 示談の際の約束が守られない場合には追加で何らかの処罰や対応を求めることができるのか

示談が成立したにもかかわらず、加害者が約束した示談金を支払わない、あるいは謝罪や接触禁止など、示談時に取り決めた条件を守らないというケースも起こり得ます。
刑事事件においては、示談が成立しているかどうかだけでなく、その内容が実際に履行されているかどうかも重要な判断要素となりますので、示談金が支払われていない場合や、約束された対応が行われていない場合には、被害者としては、改めて処罰を求める意思を警察や検察官に伝えることが可能です。
もっとも、刑事事件としてどのように処理されるか、あるいは起訴されるかどうかは、最終的には捜査機関の判断によるため、被害者の意向のみで結論が決まるものではありません。ただし、示談が履行されていないという事情は、処分の判断に影響を及ぼす可能性があります。
この点、示談書の中に、「示談金が支払われた場合には刑事処罰を求めない」というように、示談金が支払われて始めて処罰を求めないという記載にしておくと、実際に示談金が払われない際には、刑事処罰が認められやすいと考えられています。

なお、示談金の支払いが行われないことを理由に、追加で賠償を求めることができるかという点については、通常示談書には清算条項が記載されているため、一回合意をした後で追加での損害賠償請求はできません。
この場合は、示談書に記載されている金額について回収をするべく、訴訟を行い確定判決を得たうえで、強制執行を行うことになります。

第4章 示談を撤回できるか悩んでいる場合に整理すべきポイント

4-1 後悔なのか、法的に争える事情なのかを切り分ける

示談を撤回したいと感じる理由は様々ですが、まず重要なのは、その理由がどのような性質のものかを整理することです。示談金が低かったと感じる、もっと慎重に判断すべきだったと思うといった事情は珍しくありませんが、これらは基本的に結果への不満にとどまると評価されやすく、こうした事情だけで示談の効力を覆すことは難しいと考えられます。
一方で、示談の前提となる事実に重要な誤りがあった場合や、相手方の説明内容に問題があった場合、あるいは十分に検討できない状況で合意してしまった場合には、法的に示談の効力を争う問題として検討できる可能性があります。
まずは、自身の状況がどちらに当たるのかを冷静に整理することが大切です。

4-2 問題となっているのは示談の内容か、履行か

示談後に生じるトラブルは、大きく分けて「合意内容そのものの問題」と「合意後の履行の問題」に分かれます。
たとえば、示談内容自体に納得できない理由がある場合には、錯誤や詐欺といった観点から示談の効力を争うことが問題となります。一方で、示談金が支払われないといった場合には、契約の履行の問題として対応を検討することになります。
まずは、問題がどちらにあるのかを整理することが大切です。

4-3 判断に迷う場合は早い段階で専門家に相談する

ここまで見てきたように、示談の撤回が可能かどうかは個別の事情によって判断が分かれます。示談の内容、成立に至る経緯、交渉時の状況、履行の有無など、複数の要素を踏まえて検討する必要があります。
特に、錯誤や詐欺といった主張を検討する場合では、法的な要件を踏まえた整理が不可欠です。ご自身の状況がどの類型に当たるのかを正確に把握し、適切な対応を検討するためには、早い段階で専門家に相談することが望ましいといえます。

第5章 【FAQ】示談の撤回を検討する場面でよくある疑問

Q1. 口頭での合意でも示談として法的効力が生じるのでしょうか?

A1. 口頭合意でも原則として成立します

示談は契約の一種であるため、必ずしも書面を作成しなくても、当事者間で合意が成立すれば法的効力が認められる可能性があります。ただし、口頭のみの場合には合意内容や成立時期について争いになりやすく、後から立証することが難しくなる点に注意が必要です。トラブルを防ぐためにも書面化しておくことが望ましいといえます。

Q2. 示談金を受け取った後でも、追加で請求することはできますか?

A2. 原則として追加請求は難しい場合が多いといえます

示談金の支払いによって当該事件について解決が図られたと評価される場合、後から追加の請求を行うことは制限されるのが通常です。特に示談書において、将来の請求を行わない旨の合意が含まれている場合には、その効力が問題となります。もっとも、当初の合意の前提となっていた事情に大きな変化がある場合などには、個別に検討が必要となることもあります。

Q3. 示談成立後に相手と連絡が取れなくなった場合、どう対応すればよいですか?

A3. 法的手続で対応を検討します

示談成立後に相手方と連絡が取れなくなった場合でも、示談自体の効力が直ちに失われるわけではありません。支払い義務が履行されていない場合には、内容証明郵便による催告や、支払督促・訴訟などの法的手続を通じて対応することが考えられます。相手の所在や資力の状況によって対応が変わるため、具体的な手段については個別に検討する必要があります。

Q4. 示談書に記載されていない事項については、別途請求できますか?

A4. 記載内容と合意範囲次第で変わります

示談書に記載されていない事項であっても、それが示談の対象に含まれていると解釈される場合には、追加の請求が制限される可能性があります。一方で、示談の対象範囲が限定されている場合や、当初想定されていなかった別個の損害であると評価できる場合には、別途請求が認められる余地もあります。最終的には、示談書の文言や合意の趣旨を踏まえて判断されます。

Q5. 示談書を自分で作成した場合でも有効になりますか?

A5. 形式が整っていれば有効となります

示談書は当事者間の合意内容を明確にするための書面であるため、必ずしも専門家が作成しなければ無効になるわけではありません。もっとも、条項の書き方や表現によっては、意図しない解釈がなされるおそれがあります。特に清算条項や支払条件など重要な部分については、内容を十分に確認したうえで作成することが重要です。

第6章 一度成立した示談の効力でお悩みの方へ

刑事事件における示談は、一度成立すると原則として、後から一方的に撤回することは容易ではありません。本記事で見てきたとおり、示談の効力を争うためには、単なる後悔や不満ではなく、錯誤や詐欺といった合意の前提に関わる問題や、債務不履行といった履行段階の問題など、法的に整理可能な事情があるかどうかを検討する必要があります。
また、示談の効力に関する問題は、個別の事情によって結論が大きく分かれる分野です。示談書の内容、合意に至る経緯、交渉時の状況、履行の有無などを踏まえたうえで、どのような対応が適切かを整理することが重要になります。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)那珂川オフィスでは、刑事事件における示談実務を含め、個別の事情に応じた対応を行っております。示談の効力や対応にお悩みの際は、お気軽にご相談ください。

 

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