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賞与計算の流れ

前々回と前回の記事では、通常の給与計算業務の流れについてお話しました。「賞与を支給するときも、通常の給与計算業務と同じように処理する」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。たしかに、賞与計算の流れは給与計算の流れと似ていますが、控除する各種保険料・税の計算方法や必要な手続きが異なります。そこで、今回は、賞与計算の流れについてご説明します。

  1. 1.賞与とは

「賞与」とは、「定期または臨時に労働者の勤務成績、経営状態等に応じて支給され、その額があらかじめ確定されていないもの」で、いわゆるボーナスのことです。法律において、賞与を支給することは義務付けられていませんが、大抵の会社では賞与があるため、従業員の立場からするともらえて当たり前の感覚の方が強いかもしれませんね。賞与は、就業規則や給与規程・賞与規程、雇用契約書で定められている支給対象者、支給基準、支給時期、支払方法などに基づいて支給します。

そのため、賞与を計算する前に、必ず、就業規則や給与規程・賞与規程、雇用契約書等を準備しましょう。一般的に、賞与は、支給日または一定の基準日に在籍している従業員に対して支給しますが、会社によっては、「入社日から6か月以上経過した従業員に支給する」といった支給の条件を設定している場合もあります。法律で支給が義務付けられていない以上、支給するか否か、どのような要件で支給するか等、全て会社のルール次第になりますので、しっかりと定めを作りましょう。

 

  1. 2.賞与計算の流れ

    • (1)支給額の確認
    • まず初めに、各従業員に支給する賞与の額を確認しましょう。賞与の額は、会社の業績や従業員の勤務成績、態度などを考慮して決定されるのが一般的です。会社によっては、賞与は給与の1.5ヶ月分などと決まっていて、毎年決まった数字を支給している会社もあります。しかし、賞与はあくまで賞与ですので、やはり会社の業績を見ながら支給するかどうか経営判断をすべきでしょう。

 

(2)保険料・所得税の計算

次に、支給額から控除する各種保険料と所得税の額を計算します。

(a)社会保険料

社会保険料は、以下の式で算出します。毎月の標準報酬月額に基づいた社会保険料額とは異なりますので、注意してください。

健康保険料=1000円未満を切り捨てした賞与支給額)×健康保険料率÷2

厚生年金保険料=1000円未満を切り捨てした賞与支給額)×厚生年金保険料率÷2

※この時使用する健康保険料率・厚生年金保険料率は、通常の給与計算で使用する保険料額表と同じものを参照します。

(b)雇用保険料

 雇用保険料は、以下の式で算出します。

雇用保険料=賞与支給額×雇用保険料率

前回の記事を読んでくださった方はお気づきかもしれませんが、雇用保険料の求め方は、通常の給与計算と変わりません。

 (c)所得税

所得税は、以下の式で算出します。

所得税={賞与支給額-(社会保険料+雇用保険料)}×税率

※この時使用する税率は、通常の給与計算とは違い、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を参照します。

 表は、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している従業員については甲欄、その他の従業員については乙欄を使います。また、扶養控除等申告書を提出している場合は、扶養親族等の人数を確認します。

※税率は、前月の給与をもとに確認します。

※この表は例ですので、実際に計算する際は必ず国税庁のホームページを参照してください。

例えば、甲欄適用者で扶養親族が2人、前月の社会保険料等控除後の給与額が20万円の従業員の場合、使用する税率は2.042%です。 

(3)賞与支払届の作成

賞与を支給する場合、「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届」と「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届総括表」を作成する必要があります。賞与支払届の対象となるのは、社会保険の被保険者に年3回以下の回数で支払われる賞与です。 

(4)賞与明細の作成

(1)と(2)で計算した支給額・控除額をもとに、賞与明細を作成します。

(5)賞与支払届の提出

賞与支払日から5日以内に管轄の年金事務所に「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届」と「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届総括表」を提出します。これらを提出すると、納入告知書が郵送されてきます。 

  1. 3.まとめ

今回の記事では、賞与計算の流れについてご説明しました。給与計算と似たような流れですが、各種保険料・所得税の算出方法が違ったり、賞与支払届の提出が必要だったりと注意すべきことが多いことをお分かりいただけたかと思います。賞与計算は、通常の給与計算とは異なり、年に数回しか行わない業務です。慣れるまでは、毎回事前に一通りの流れを確認するようにして、焦らず進めていきましょう。