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【不動産】マンション設備に関する売主の説明義務

「駐車場付きマンション」という広告・説明を受けてマンションを購入したのですが、実際には、マンションとは別に第三者である地主と駐車場の賃貸借契約を締結しなければなりませんでした。こんな時、分譲業者には責任を追及することは可能でしょうか?

1. 売主の説明義務に関する一般論

売買契約における売主の本来的な義務は、契約の目的物である財産権を買主に移転することです。しかしながら、マンション購入の意思決定に際し重要な意義を持つ事項に関しては、売主には、信義則上の付随義務として説明義務が認められます。

2. マンション設備に関する売主の説明義務

まずは、マンション販売に関する売主の説明義務が争点となった事例を、具体的な裁判例を通してみて見ましょう。

(1)駐車場の利用権(横浜地判平成9・4・23)

【事案】
Xらは、マンションの分譲業者であるY社が分譲したマンションを、駐車場付きの広告を見たり説明を受けたりして購入したが、実際には、Y社とは全く別の地主(第三者)と駐車場の賃貸借契約を締結する必要があった。
Xらは、Yに対し、債務不履行及び契約締結上の過失に基づき、駐車場利用権の相当額や慰謝料の損害賠償を請求した。

【判旨】
一般にマンション(集合住宅建物)の区分所有権の売買契約においては、買主に駐車場利用権を取得させる債務が契約の給付の内容に含まれない場合であったとしても、乗用車が日常生活における重要な生活手段となっていることに鑑みれば、売主には駐車場の存否とその利用契約締結の可否について買主に正確に説明すべき付随義務があると解するのが相当である。

したがって、特に買主から駐車場の有無が契約を締結するか否かの判断のために必要である旨が表示されている場合においては、付随義務とはいえ、信義則上、売主の説明義務違反を軽んじることはできない。

また、売買契約が締結される前の勧誘行為において、説明義務に違反する行為があった場合においても、いわゆる契約締結上の過失の問題として、売買契約の成否にかかわらず、売主に債務不履行責任が生じる余地があると解される。

これを本件についてみるに、Xらは、Yの販売担当者から本件マンションの販売勧誘を受けた際に駐車場の存否を尋ねているか、又は駐車場が確保されていることがマンション購入の必要条件となるという趣旨を告げていたため、本件各売買契約が締結される前の状態ではあったが、販売担当者には、本件駐車場の所有関係、利用契約の趣旨内容を、Xらに説明すべき信義則上の義務があったということができる。

この説明義務は、本件売買契約が成立した場合には、当然にこの契約の付随義務となるものと解されるが、契約締結前における説明義務違反は、契約の成否にかかわらず、いわゆる契約締結上の過失の一態様として、売主に債務不履行責任を発生させるものと解するのが相当であり、右の債務不履行責任は、実際に行われた説明を信じたことによる買主の損害の賠償を義務付けるものというべきである。

(2)マンション内の防火設備(最判平成17・9・16)

【事案】
宅地建物取引業者であるY2社は、Y1社(Y2はY1の100%子会社)から販売代理業務の委託を受け、Aに対してマンションの専有部分を売却する売買契約を締結した。本件専有部分には中央付近に防火扉が設置されていたが、その電源スイッチが一見してそれとはわかりにくい場所に設置され、電源が切られた状態で専有部分の引渡しがされた。Aは妻Xとともに居住していたが、専有部分内で発生した火災により死亡した。

Y2は、Aらの入居時までに、Aらに重要事項説明書や図面等を交付したが、本件防火扉の電源スイッチの位置や操作方法、火災発生時の作動の仕組み等を説明しなかった。
XはY1に対しては瑕疵担保責任に基づき、Y2に対しては説明義務違反があったとして不法行為に基づき、損害賠償を請求した。
裁判所は、Y1及びY2の説明義務違反を認め、不法行為に基づく損害賠償義務を負うものであると判示した。

【判旨】
本件防火扉は、火事が発生した際の防火設備の一つとして極めて重要な役割を果たし得るものであることが明らかであるところ、被上告人Y1から委託を受けて本件売買契約の終結手続きをした被上告人Y2は、本件防火扉の電源スイッチが、一見してそれとはわかりにくい場所に設置されていたにも関わらず、A又はXに対して何ら説明せず、Aは防火設備の電源スイッチが切られた状態で802号室の引渡しを受け、そのままの状態で居住を開始したため、本件防火扉は、本件火災時に作動しなかったというものである。

また、記録によれば、Y2はY1による各種不動産の販売等に関する代理業務等を行うために、Y1の全額出資の下に設立された会社であり、Y1から委託を受け、その販売する不動産について、宅地建物取引業者として取引仲介業務を行うだけでなく、Y1に代わり、またはY1と共に、購入希望者に対する勧誘、説明等から引渡しに至るまで販売に関する一切の事務を行っていること、Y2は、802号室についても、売主であるY1から委託を受け、本件売買契約の締結手続きをしたにとどまらず、Aに対する引渡しを含めた一切の販売に関する事務を行ったこと、Aは、このようなY2の実績や専門性を信頼し、Y2から説明等を受けた上で802号室を購入したことがうかがわれる。

上記の事実関係を考慮すると、Y1には、Aに対し、少なくとも、本件売買契約条の付随義務として、上記電源スイッチの位置、操作方法等について説明すべき義務があったと解されるところ、上記の事実関係が認められるものとすれば、宅地建物取引業者であるY2はその業務において密接な関係にあるY1から委託を受け、Y1と一体となって本件売買契約の締結手続きのほか、802号室の販売に関し、Aに対する引渡しを含めた一切の事務を行い、AにおいてもY2を上記販売にかかる事務を行うものとして信頼した上で、本件売買契約を締結して802号室の引渡しを受けたこととなるのであるから、このような事情のもとにおいては、Y2には信義則上、Y1の上記義務と同様の義務があったと解すべきでありその義務違反によりAが損害を被った場合には、Y2はAに対し、不法行為による損害賠償義務を負うものというべきである。

3. 結論

以上、マンションの設備の説明義務が問題になったケースとして、駐車場、及び防火設備にまつわる判例を見てきました。

まず、契約締結交渉の段階で、買主側が売主側(分譲業者)に対し、対象となる設備(駐車場など)の有無を尋ねていたなど、当該設備があるからこそマンションを購入したという趣旨が売主(分譲業者)側に伝えられていた場合には、買主は売主(分譲業者)に対して、説明義務違反として損害賠償請求をすることが出来ます。

また、防火設備のようにマンション設備として重要な役割を果たすべきものについては、その設備が売買契約書上に直接内容として記載されていない場合であっても、売主側には買主に対する説明義務が課されるものであり、売主側がその義務に違反した場合には、買主に対し損害賠償義務を負うことになるのです。