弁護士コラム

2018.07.04

懲戒解雇の妥当性

【相談事例⑬】

従業員が無断欠勤を頻繁に繰り返している従業員がいます。その従業員のせいで他の従業員に迷惑がかかっており,会社全体の士気も下がってしまっている状況です,その従業員を懲戒解雇にしたいが,解雇できるのでしょうか?

 

【弁護士からの回答】

 今回は,従業員の無断欠勤と懲戒解雇についてのご相談です。無断欠勤は即解雇等としている会社もあると聞きますが,懲戒解雇についてのトラブルは,労働審判等会社にとって非常に不利益になる等のトラブルのもとになることが非常に多いので,注意が必要です。

 

1 懲戒解雇の要件について

 懲戒解雇とは,従業員が懲戒事由に該当する行為を行ったことを理由として,雇用契約を解消(解雇)することをいいます。懲戒解雇は,労働者に対する制裁的な処分であり,かつ,解雇という労働者の生活に大きな影響を与える処分であるため,懲戒解雇が認められるための要件は非常に厳格にさだめられています。

 まず,懲戒解雇は,労働者にペナルティを与える懲戒処分であるため,どのような行為を行ったら懲戒解雇処分を受けるということが就業規則に規定されている必要があります。従業員が10名以下の企業では,就業規則の作成義務がないため,就業規則自体を作成していない企業も少なからずいらっしゃいますが,就業規則を作成していない企業の場合には,従業員がどれだけ悪質な行為を行ったとしても,懲戒解雇にすることはできず,普通解雇により解雇を行うことになります。その場合には,解雇予告手当等を支払わなくてはならないため,どれだけ規模の小さい会社であったとしても就業規則は作成しておいた方がよいでしょう。

 次に,懲戒解雇が有効に認められるための要件としては。懲戒解雇に合理的理由及び社会的妥当性が認められることが必要になります(労働契約法16条)。具体的には,たとえ,就業規則に懲戒解雇事由が規定されていたとしても,その事由により解雇されることがあまりにも不当な場合には,解雇が認められないことになります。極端な例ですが,就業規則に「就業時間を1分でも遅刻した場合には懲戒解雇とする」と規定されおり,実際に1分遅刻した場合に解雇が認められるわけがないことは分かると思います。したがって,就業規則には,懲戒解雇処分を科しても不当ではないと認められるような事由を記載しておく必要があります。

 

2 無断欠勤について

 無断欠勤に関する懲戒解雇事由としては,「14日連続で正当な理由がなく無断欠勤をし,出勤の催促に応じない場合」に懲戒解雇とするという規定を就業規則においているのが一般的です。14日間連続とされている理由については,労働基準監督署の認定を受けて解雇予告手当を支払わなくてよい場合(労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合,労働基準法20条)として,2週間以上正当な理由なく無断欠勤していることが要件とされているため,一般的な就業規則では,14日間とされています。

 では,無断欠勤が14日間連続ではなく,10日間欠勤して,しばらく出勤してまた10日間欠勤しているような場合はどうでしょうか。

 この場合,14日間連続で無断欠勤していない以上,上記の規定に基づいて懲戒解雇をすることはできません。もっとも,通常の就業規則では,無断欠勤をしたときに,けん責処分(単に注意をするのみの処分です。)とし,けん責処分を複数回行ったとき,もしくは,無断欠勤が7日以上に及んだときは,減給,出勤停止若しくは降格処分とし,さらに,減給等の処分を受けたにもかかわらず,改悛(改善)の見込みがないときに懲戒解雇処分とする規定が存在します。したがって,14日連続で無断欠勤をしていない場合であっても無断欠勤をした都度,けん責処分や減給,降格処分などを科していくことで,懲戒解雇を行うことも可能になります。

 

3 最後に

 使用者である経営者の方においては,あまり意識をされていないことが多いと思いますが,懲戒解雇処分というものは,先ほども述べたとおり,非常に重い処分であるため,軽々と行ってしまうと,労働審判等の紛争に巻き込まれるなど,本来の経済活動に充てることができた時間を余計な手間にとられてしまうリスクもあるため,懲戒解雇をすると考えた際には非常に慎重になる必要があります。当オフィスも那珂川町だけでなく,春日市,大野城などの中小企業様の顧問弁護士として,従業員の解雇に関する問題も多く取り扱っておりますので,是非一度お問合せください。

 

2018.07.03

更新拒絶等の「正当な事由」とは

【相談事例⑫】

前回の続き※事案の内容は前回の記事をご覧ください。)

 賃貸人に出て行けと言われたとしても,それに必ずしも応じなければいけないわけではないのですね。ただ,賃貸人が立退料を支払えば出て行かなくてはならないと聞いたことがありますが本当でしょうか。

 

【弁護士からの回答】

 前回の記事で,建物賃貸借契約の更新拒絶や,解約の通知は,借地借家法28条に「正当な事由」が無い場合には認められないとご説明させていただきましたが,今回は正当な事由の有無の判断要素についてご説明させていただきます。

 

1 はじめに

  更新拒絶等の要件である「正当な事由」の考慮要素については,同じく借地借家法28条に規定されており,28条に規定されている要素を総合的に考慮して,「正当な事由」が認められるか否かを判断することになります。

 

2 建物の使用を必要とする事情

  賃貸人と賃借人のそれぞれにおいて,当該建物の使用を必要とする事情があるか否かを判断し,どちらの必要性が高いと言えるのかを判断することになります。「正当な事由」の判断要素の中において,この「必要性」という要件は最も重要な考慮要素となります。すなわち,賃貸人における建物使用の必要性が賃借人における建物使用の必要性よりも大きい場合には,「正当事由」が認められる方向に働きます,逆に,賃借人における建物使用の必要性の方が大きい場合には,「正当事由」が否定される方向に働きます。また,当事者双方の建物使用の必要性に差がない場合には,後述する他の要素を補充的に考慮して判断していくことになります。

 

3 建物の賃貸借に関する従前の経過

  契約期間,更新状況,前回の更新時に賃貸人と賃借人との間でどのような話し合いを行っていたか,敷金の支払いの有無,家賃滞納の有無等が考慮されることになります。具体的には,何度も更新を重ねており,前回の更新時には退去の話など一切なされていなかった場合には,正当事由が否定される方向に働きます。

 

4 建物の利用状況

建物が,賃貸借契約で定められた用法に従い使用されているかなどが考慮要素になると言われていますが,ほとんど考慮要素としての意味はないと言われています(用法違反の場合には,債務不履行により賃貸借契約が解除されてしまうため,更新拒絶等が問題になることがあまりありません。)

 

5 財産上の給付の申し出(立退料)

 賃貸人が賃借人に対し,金銭(立退料)や代替する賃貸物件を提供する等の財産上の給付を申し出た際には,その申出は正当事由の考慮要素となります。ここで注意が必要なのは,財産上の給付の申し出があれば必ず「正当な事由」に該当するというものではありません。すなわち,正当な事由に該当するか否かは上記のように,建物の使用を必要とする事情をメインに判断するため,賃貸人がいくら立退料を提供したとしても,賃借人が当該建物を使用する必要が非常に高い場合には,正当事由がないと認められる場合があるということです。逆に,賃貸人で建物を使用する必要性が非常に高い場合や,建物の老朽化により早急に取壊しが必要な場合等には,立退料を支払わないとしても,正当な事由が認められると判断されることもあります。

 

6 最後に

 このように,建物賃貸借契約における更新拒絶に関しては,賃貸人側であろうと賃借人側であろうと非常に複雑な問題があることから,賃借人の方賃貸人の方いずれであっても,契約の更新の際には是非一度弁護士にご相談ください。

 

2018.07.02

賃貸人に退去を求められたら

【相談事例⑪】

これまでテナントを借りて10年以上中華料理屋を行っておりました(賃貸借契約の更新を繰り返してきました。),先日オーナーより,建物取り壊しを理由に,7か月後に来る契約期間満了後は,契約の更新はしないので,店舗の移転を求められました。契約期間後には,出ていくしかないのでしょうか?

 

【弁護士からの回答】

 賃貸借に関する立退きの問題は,ご相談者様のように賃借人からのご相談のみならず,賃貸人の方からもご相談をいただくことがございます。通常,契約期間が満了した場合には,契約は終了するのが通常ですが,賃貸借契約の特性上,契約の終了に関しては,賃借人の保護が図られています。

 

1 借地借家法の適用

 賃貸借契約に関しては,民法に規定されており,存続期間に関しては,民法604条にて,上限を20年と設定しており,かつ更新をすることができるとだけ規定されております。この民法を前提とすると,合意により賃貸借の契約期間が満了した際には,当事者で更新に関する合意が整わなければ,契約は終了し,賃借人は建物を明け渡さなくてはいけなくなります。もっとも,賃貸借契約は,賃借人の住居として生活の本拠である場合や,ご相談者様のようにその場所で事業を営んでおり,生活をささえるための場所となっていることが多いため,賃借人を保護すべき契約であると考えられており,民法の特別法(民法の規定より優先して適用されます。)として借地借家法という法律があり,この借地借家法により,賃借人が保護されています。

 

2 建物賃貸借契約の更新について

 まず,建物賃貸借契約の更新については,借地借家法で,契約期間の定めがある場合において,当事者が,期間満了の1年前から6か月前までに更新しないという通知をしなかった場合には,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされると規定しています(26条)。したがって,賃貸人が,契約満了の1年前から6か月前までに更新しないと通知した場合には,同一条件で更新したものとみなされることになります。もっとも,更新後の賃貸借契約は,期間の定めのない契約と扱われるため(26条),賃貸人は,解約の申し入れができるようになり,解約の申し入れが認められると,申し入れの日から6か月が経過することで,賃貸借契約が終了することになります(27条)。

 

3 更新拒絶,解約申し入れの要件

 では,ご相談者様の事例のように,適切な期間内に,賃貸人から更新拒絶の通知がなされた場合や,期間の定めのない契約になった後に,解約の申し入れをし,6か月が経過した場合には,自動的に,賃借人は退去しなくてはならないのでしょうか。

 この問題についても借地借家法に規定があり,更新拒絶や,解約の申し入れについては,「正当な事由」がある場合でなければ,認められないと規定されています(28条)。したがって,ご相談者様の事例でも,この正当な理由が認められない場合には,賃貸借契約の更新拒絶は認められる,契約は更新されることになります。

 では,借地借家法28条の「正当な事由」の有無についてはどのような事情が顧慮されるのかについてですが,今回は文量が多くなってしまったので,次回にご説明させていただきます。

2018.06.25

婚約破棄後の結納金の返還について

【相談事例⑩】

 息子のことで相談がありません。息子と付き合っていた女性との結婚が決まり,両家がそろって結納を行いました。その際,私たちより相手の家に対して,結納金として100万円お支払いしました。もっとも,結納が終わっても相手の家から,結納の半返しのお話しは一切ありませんでした。マナーがなっていないなと思っていたのですが,息子たちが幸せになればと思い我慢していましたが,先日,息子が,他の女性と関係を持っていたことが相手方にばれ,婚約が破談となりました。

 息子が原因で婚約破棄になるのはしょうがないのですが,結納金は,結婚が成立していない以上,返してもらうべきであると考えています。

 

【弁護士からの回答】

 前回にひきつづき,今回も婚約に関する問題です。婚約解消に関するご相談を受けるときに,よく問題になるのが,新郎側から新婦側に渡される結納金の問題があります。そこで,今回は結納金の法的性質などについてご説明させていただきます。

 

1 結納金とは

 結納金とは,日本の慣習に基づいて,婚約の成立の際に,男性側(新郎側)から女性側へ送られる金銭のことをいいます。また,結納の際には,結納金の他に,結納の品も女性側に贈られるのが一般的です。また,女性側からも,結納返しといって結納の品やお金について,1割に相当する品やお金を返したり(1割返し),半分に相当するものなどを返す(半返し)ことを行う慣習もあるそうです。結納金についてはそもそもいくらわたすのか,それに対して,いくら返すのかということが法律上決まっておらず,あくまでも慣習や両家での話し合いによって決まります。ご相談者様のように,結納を渡したのに相手方の家からお返しがないということをおっしゃられる方がいらっしゃいますが,法律上の問題ということではなく,マナーや考え方などの道義的な問題にすぎないため,半返しなどを強制することはできません。

 この,結納金については,民法などの法律に規定されているものではありませんが,その法的性質は,最高裁判所の判例において,婚姻が成立した場合に,当事者ないし当事者両家の間の情誼を厚くする目的で授受される一種の贈与であるとしており,簡単にいうと,婚姻が成立することを条件とした贈与契約であると考えられています。

 したがって,婚姻が成立しなかった場合には,条件を成就していないので,結納金を受け取った側は,その結納金を返還しなければならないのが原則です。

 もっとも,婚姻の不成立(婚約破棄)に至った原因が,結納を支払った側のみにあると認められる場合には,婚約破棄の原因を作っておきながら結納の返還を求めるのは信義則に反するとして,結納金の返還は認められません。

 他方,婚約破棄の原因が,女性の側にも一部認められる場合には,過去の裁判例では,結納を支払った者の帰責性が,受け取った者の帰責性よりも小さい場合には返還を認めるとしているものもありますが,いずれにも原因があると認められ,優劣がつかないといった場合には,結納金の返還については認められる(もしくは一部認められる)のではないかと考えています。

 なお,婚姻が成立した場合には,条件が成就しているため,その後,婚姻関係が解消(離婚)したとしても,原則として結納金の返還は認められませんが,結婚(内縁後)わずか2か月で関係を解消した事例では,結納金の返還を認めた判例もあります。

 いずれにせよ,本件については,ご相談者様の息子さんの帰責事由により婚約が破棄されていることは明らかであるため,結納金の返還は認められないでしょう。それだけでなく,不貞行為により,婚約を破棄しているため,相手方より慰謝料の請求がなされる可能性があります。

2018.06.24

婚約破棄後の慰謝料請求について

【相談事例⑨】

2年ほど付き合っていた彼女に昨年末プロポーズをしました。今年の2月に同棲を始め,お互いの両親へ挨拶も済ませました。両家の顔合わせはや結納はまだしていませんが,婚約指輪の購入はすでに購入し,来年に結婚式をするために式場に仮予約を行っていました。もっとも,同棲し活を始めてから価値観の違いや将来の子育ての考え方などが合わないと思い,結婚することはできないと感じました。そこで,私から別れようと伝えましたが,相手は納得してもらえず,相手から弁護士をつけると言われました。今後、慰謝料など請求される可能性はあるのでしょうか?

 

【弁護士からの回答】

 今回のご相談における争点は,「当事者間で婚約関係が成立していたか否か」です。すなわち,ご相談者様が別れを切り出した段階で,当事者間で婚約成立していると判断される場合には,婚約破棄に対する慰謝料等を支払う必要があると考えられます(婚約破棄の正当性の問題は残りますが,その点については,別の機会にご説明させていただきます。)。そこで,今回は婚約についてご説明させていただきます。

 

1 婚約とは

 婚約とは,辞書的な意味でいうと文字通り「結婚の約束をすること」をいい,例えば,当事者間で「結婚しよう」とプロポーズにより約束したことでも,辞書的な意味での婚約には該当します。

 もっとも,辞書的な意味の婚約と,法的な意味での婚約とは内容が異なります。すなわち,法律上(裁判上)問題となる婚約とは契約であるため,契約が成立していると認められることが必要になります。具体的には,男女相互が真剣に若しくは,誠心誠意をもって,将来婚姻(結婚)することを約束した場合に限り,婚約(婚姻予約)として法的に保護すべきであると考えらています。この「法的保護すべき」という意味は,相手方が正当な理由なく,契約上の義務を違反した場合には損害賠償を請求することができると意味です。男女間で「将来結婚しようね」と約束しあっていたとしても,若い男女であれば,そのような口約束を行うことは頻繁にあると考えられるため,そのようなカップルすべてに別れたときに損害賠償を支払うべきとするのは適切でないと考えられているため「真剣」さや,「誠心誠意」さが別途必要であると考えられています。

 

2 婚姻の成否における判断要素について

 では,法的な観点からどのような事情を考慮して,「真剣に若しくは誠心誠意をもって婚姻することを約束した」のか否かを判断するのでしょうか。

 古い裁判例ではありますが,過去の裁判例での判断要素をみると,当事者の合意があることに加え,その合意が親族,友人,職場等の第三者に対しても明らかされているか否か,同居の有無,婚姻指輪(単なる指輪よりもイニシャルなどが刻印されている指輪であるかということも重要になります。)の購入の有無,結納を行ったか否か,式場を予約しているか否か,継続的な性交渉の有無,合意時の当事者の年齢,これまでの交際期間及び内容などを総合的に考慮して判断をしています。よく,「結納を行っていないので婚約は成立しない」などと考えられている方もいらっしゃいますが,婚約の成立には必ずしも結納を行わなければいけないわけではありません(最近では結納ではなく,両家の顔合わせなどの方が多いと思われます。)あくまでも結納を行ったことは婚約が成立したことを基礎づける要素にしかすぎません(重要な要素であることは間違いありません)。

 

3 今回のケース

 ご相談者様のケースでは,結納はまだ行っていないもの,交際期間も2年以上であり,すでに両親への挨拶(おそらく,「結婚させてください」という挨拶なのでしょう。)や同居などを行っており,かつ,婚約指輪の購入,結婚式場の予約など結婚に向けた具体的な関係が形成されていると思われるので,難しいところではありますが,婚約が成立していると判断される可能性の方が高いのではないかと考えております。

 このような,婚約破棄のトラブルでは,当事者のみならず,両家の親族も巻き込んだトラブルに発展しかねないため,是非一度,弁護士にご相談ください。

2018.06.23

借用書がない場合の返済義務について

【相談事例⑧】

個人事業をしているのですが,8年前,事業がうまくいかなかくなったため,叔母から500万円借りていました。「母からは返せるときに返してくれればいいよ」と言われており,いつまでに返すというような取り決めもありませんでした。その後,叔母が亡くなり相続人から800万円を返すように言われています。亡くなった叔母との間には借用書も取り交わしていないので,法的には返さなくてはいけないのでしょうか?

 

【弁護士からの回答】

 借りているお金の返済等についてご相談に来られる方の多くが,「契約書が無いので払わなくていいのですか?」と質問されるのですが,結論からお伝えすると,契約書がなくても,法律上は借りたお金を返さなくてはいけません。したがって,今回のケースでは,ご相談者様は,ご相談者様の叔母の相続人に対し,叔母から借りていた800万円を支払う必要があります。今回は契約書の要否や,金銭消費貸借契約についてご説明させていただきます。

 

1 契約の成立について

 民法で規定されている契約は売買契約,賃貸借契約や今回問題となっている消費貸借契約等13種類あります(これを,「典型契約」といいます)。この典型契約のうち,契約書の作成が義務付けられている契約は1つも存在しません。これに対し,保証契約(保証人になるための契約)については,他人の債務を背負う契約になるので法律上,書面を作成しなければ,契約の成立は無効になります。

 また,典型契約のうち,契約成立するために,口頭の合意のみであれば足りる契約を諾成契約といい,契約の成立に,口頭の合意に加え,目的物の引渡し等の物の移動などが必要になる契約を要物契約といいます。今回問題となっている金銭消費貸借契約は,お金を返還する約束(口頭の合意)に加え,貸主から借主に対する金銭の移動(貸渡し)が必要になるため,要物契約に該当します。

 このように,契約の成立自体については,諾成契約と要物契約という違いはあるものの,契約書を作成しなくとも契約は成立し,契約内容にしたがって義務を負うことになります。

 したがって,ご相談者様の事例においてもご相談者様と叔母との間で,800万円を借り入れ(貸渡し)及び返還の約束も行っているので,金銭消費貸借が成立し,ご相談者様は,叔母の相続人に対し800万円を返済する義務があります。なお,ご相談者様の事例では,返済時期について「返せるとき」というあいまいな形で合意をされていますが,このように返済時期を明確に定めない消費貸借契約も有効であり,民法591条1項により相当の期間を定めて返還の催告をし,相当期間が経過した時点で返還義務が生ずることになります。

 

2 契約書作成の必要性

  今回のご相談者のように,契約書が無いので返さなくてよいというような間違った考えの方が少なからずいらっしゃることは事実です。真実はお金を貸したのに,借りた覚えはないと嘘をつかれてしまうと,裁判によってお金を返すよう求めなければなりません。その際,お金を返して欲しいと主張する側において,契約の存在を証明する必要があるのですが,契約書がないと,お金を貸したことに関する証拠が存在せず,最終的に,裁判で負けてしまう可能性が非常にあります。もっとも,契約書がなかったとしても,相手の口座に入金した記録や,借りるまでのメールのやり取り等,契約の存在を契約書以外の事実から証明すること自体は可能ですが,一番トラブルを防ぐためには,契約書を作成しておくのが一番でしょう。

 したがって,大きな金額などを取引する場合には,きちんとした契約書を作成する必要があるため,是非一度弁護士にご相談ください。

2018.06.22

離婚後の借金について

【相談事例⑦】

半年前に別れた夫が借金をしていたことが分かり,一緒に生活していたときの借金だから返済に協力するよう元夫の家族から連絡がありました。結婚していたときの給料や生活費の支払いについては全て夫が支払っていたのですが,どうやら夫の給料だけではやっていけなかったようで,私には内緒で借り入れを続けていたようです。当時は消費者金融からお金を借りていることを全く知らなかったし,このお金は返さなくてはいけないのでしょうか?

 

【弁護士からの回答】

 日本での契約に関する責任については,個人責任,すなわち,契約を締結した当事者のみがその契約に基づく責任を負うという原則を採用しているため,夫婦であるとしても他の配偶者の契約上の責任を負うことはありません。もっとも,夫婦については,例外的に一方の契約上の責任が,他の配偶者にも認められると場合があります。そこで,今回は,日常家事に関する連帯債務についてご説明させていただきます。

 

1 日常家事に関する連帯債務について

 連帯債務とは,債権者に対して複数の債権者が連帯して債務を負担することをいい,例えば,不動産を購入するときに,夫のみの収入では銀行などのローンが下りないときに,夫婦で銀行から借り入れを行うときには,2人で住宅ローンを借り入れているので,連帯債務になります。通常,連帯債務を負うためには,上記の個人責任の原則から,自ら契約の当事者になる必要があり,自らの知らないところで勝手に連帯債務者になることはありません。

 もっとも,民法761条では,「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは,他の一方はこれによって生じた債務について,連帯してその責任を負う。」と規定しており,他の配偶者が自らの知らないところで,日常家事に関する法律行為を行った場合であっても,その法律行為に関する債務については,連帯債務として責任を負うことになります。

 

2 日常家事とは

 では,民法761条の「日常の家事」とはどのようなものが含まれるのでしょうか。民法761条は日常家事に関する法律行為について連帯債務とすることで,取引の相手方を保護するための規定であることから,日常家事に該当するか否かは,客観的にみて日常家事,すなわち,夫婦の共同生活に必要な事項に該当するか否かを判断することになります。具体的には,子の養育,教育に関する費用,食料,衣類などの購入費用,光熱費などについては,日常家事に該当するとされています。

 

3 生活費のための借り入れについて

 では,ご相談者様の事例のように,元ご主人が結婚していたときに,生活費のために借り入れた債務については,日常家事に関する債務に該当するのでしょうか。たしかに,日常家事のために借りている以上,連帯債務となるとも思えます。

 しかし,先ほどもご説明したとおり,日常家事に該当するか否かは,客観的に,すなわち行為の外形から判断するため,「衣服や食料を買う」という行為とは異なり,「お金を借りる行為」が日常家事に該当するものではありません。生活費という日常生活に使う目的があるということは,あくまでも,借りる人の主観にすぎません。また,お金を貸す債権者としては,お金を借りる人が日常生活(生活費)に使うということを重視してお金を貸すわけではありません。その人の収入状況等をみて,返済することができるか否かを判断しており,現実的に,借りたお金を生活費に使おうが,他の借金の返済に使おうが,ギャンブルに使おうが,借りた人の自由であるため,日常家事として夫婦の連帯債務としてまで,債権者を保護すべき必要性はないといえます。

 したがって,日常家事のために借り入れた場合の借金ついては,日常家事に基づく債務には該当しないため,ご相談者様の事例においても,元ご主人の債務を返済する必要はありません。

2018.06.21

手抜き工事の際の損害賠償請求について

【相談事例⑥】

5年前の新築で家を購入しました(売主は,施工主とは別です。)。雨漏りや水道から水が漏れたりするのは欠陥ではないのでしょうか?他にも1年もせず壁にヒビが入っていたり,リビングの扉が閉まりにくくなったり,廊下も歩くとミシミシと音を立てるようになりました。

 建てた大手メーカー(施工主)の対応が悪く,何かと修理代を請求されます。明らかに手抜き工事をされているのではないかと思い,苦痛を感じています。

このようなケースは損害賠償を起こすことは難しいのでしょうか?

 

【弁護士からの回答】

 せっかく購入した新築で,こういったトラブルが生じてしまうと,生活していく上で,とても大変な思いをされるだけでなく,気持ちとしてもいい思いはしないでしょう。今回は,不動産の欠陥に関するトラブルについてご説明させていただきます。

 

1 請求できる法的根拠

  まず,不動産を購入(売買契約)した場合に,目的不動産に瑕疵(欠陥)が認められた場合には,売主に対し,瑕疵担保責任として損害賠償や,修繕費用の請求が認められます。また,欠陥について,施工主の過失が認められた場合には,不法行為に基づく損害賠償請求を行うことができます。

 

2 瑕疵担保責任について

売買契約における瑕疵担保責任については,瑕疵が「隠れた瑕疵」であることから必要になります(民法570条),隠れた瑕疵とは,買主が通常の注意力をもって発見することができない欠陥をいいます。具体的には,雨漏り,シロアリなどの虫食い,土壌汚染,基礎工事の傾き,土壌汚染などについては,隠れた瑕疵に該当することに争いはありません。この隠れた瑕疵が認められた場合には,買主は,瑕疵について,たとえ売主に全く過失がなかったとしても,損害賠償等を請求することができます(無過失責任)。もっとも,この瑕疵担保責任については,期間制限があり,引渡しの日から10年間(売主が宅建業者の場合には,引渡しの日から2年間)で時効になってしまいます。また,上記期間内にあっても,瑕疵を発見してから1年以内に行使をしなければ,損害賠償は認められません。

このように,宅建業者から購入する場合には,購入後,2年を経過した時点で発覚した瑕疵については,損害賠償等が認められないことになってしまいますが。新築の不動産の基礎構造の部分に関する瑕疵については,「住宅の寝室確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づき,宅建業者であっても,引渡し時より10年間は瑕疵担保責任を負うとされています。したがって,ご相談者様の場合でも,新築を購入している以上,売主は,10年間は瑕疵担保責任を負うため,修理費用については,本来であれば売主が負担すべき費用であると思われます。もっとも,瑕疵を発見してからすでに1年以上経過している部分については,請求することができないため,瑕疵を発見次第,早急に弁護士にご相談ください。

 

3 不法行為責任について

今回のご相談者様の事例では,施工業者である大手メーカーにおいて,手抜き講義がなされた可能性が否定できません。もっとも,売買契約自体は,メーカーとは別の売主との間で行っており,買主であるご相談者様とメーカーとの間には,直接の契約関係は存在しません。もっとも,平成19年7月16日最高裁判決では,建物の建築に携わる設計者,施工者及び工事管理者(「設計・施工者等」)は建物の建築にあたり,契約関係にない居住者等に対する関係でも,当該建物に建物としての安全性が欠けることがないように配慮すべき義務を負うとして,設計・施工者等がその義務に違反して建築された建物に,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」があり,それにより,居住者等の生命,身体,財産が侵害された場合には,不法行為責任を負うと判断しました。また,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」については,平成23年7月21日最高裁判例において,居住者等の生命,身体,又は財産を危険にさらすような瑕疵であるとし,かつ,現実的に危険をもたらしている場合に限らず,当該瑕疵を放置すればいずれは生命,身体,財産に対する危険が現実化することになる場合もこれに該当すると判断しました。

したがって,ご相談者の事例の場合にも,雨漏りや建物の歪み等について,その瑕疵の程度の問題はありますが,場合によっては,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」に該当すると認められる場合には,売り主だけでなく,施工主の大手メーカーに対しても不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。なお,不法行為に基づく損害賠償請求については,「損害及び加害者を知った時」から3年間若しくは,不法行為の時から20年経過したときには請求することができませんが,瑕疵担保責任よりも,請求できる期間が有利になります。

いずれにせよ,不動産の瑕疵の問題については非常に専門的な事項が多々損害するため,是非一度弁護士にご相談ください。

2018.06.20

未成年が偽ってお酒を勧めてしまった場合は逮捕?

【相談事例⑤】

 未成年が成人であると偽っているにもかかわらず、お酒を勧めてしまった場合、逮捕されたりするのでしょうか?

また、未成年と分かった上で、飲酒を勧めてなくても一緒に飲んでいるだけでいけないのでしょうか?

【弁護士からの回答】

最近,芸能人がお酒の席に同席した未成年者に飲酒を強要したとして活動休止処分になりました。「お酒は20歳になってから」というCMでも表記でもあるように未成年者の飲酒は禁止されていますが,その根拠や違反した場合に本人や周囲の人がどのような制裁を受けるのかについて理解されている方はすくないと思います。そこで,本日は未成年者の飲酒についてご説明させていただきます。

 

 まず,未成年者の飲酒を禁じている根拠については「未成年者飲酒禁酒法」という法律があり,この法律は大正時代に制定された古い法律なのですが,この法律は,未成年者(満20歳に至らない者)は酒類を飲用してはいけないと規定されているのですが(1条),未成年者がその規定に違反して飲酒をしてしまったことに対する罰則は何ら規定されていないのです。したがって,未成年者が飲酒をしたとしても何か刑罰に問われることはありません。もっとも,飲酒の事実が明らかになると,警察から補導されることにはなりますし,それにより高校や大学などで停学や退学等の処分をうけることになりかねませんので,くれぐれも未成年での飲酒はしないよう注意が必要です。

 次に,未成年者であることを知りながらお酒を提供した場合,提供した飲食店に対しては,未成年者飲酒禁止法により,50万円いかの罰金が科される可能性があります。したがって,飲食店においては,未成年者の飲酒を認めないというような張り紙を掲示したり,未成年者と疑わしい人に対しては身分確認などを行い,未成年者でないと認識して飲食を提供したという状況を確保する必要があります。したがって,ご質問にあるように,未成年者であると偽られ,飲食を提供したとしても未成年者と知りながら飲食を提供したことにはなりませんで,罰則が科されることはありません。

 では,未成年者と知りながら飲酒を進めた同席者(大学の先輩や,ご相談のケースのアイドルの場合等)については何か罰則等は科せられるのでしょうか。未成年者飲酒禁止法では,未成年者の保護者又は監督代行者が未成年者の飲酒を制止しなかった場合に,科料(1000円以上1万円未満の金銭的な制裁を科す処分です。)という処分がなされます。すなわち,親族もしくは親族と同視すべき立場にある人に該当しなければ,未成年者の飲酒を制止しなくとも,犯罪自体には問われることはありません。したがって,アイドルによる飲酒の強要についてもそれ自体で,何か犯罪に触れるというものではありませんが,飲酒を禁じられている未成年者へ強要したという点では道義的,倫理的に問題があるとして活動を自粛することになったのだと思います。

 このように,未成年者の飲酒それ自体に関しては犯罪に該当する場合は少なくありませんが,飲酒をきっかけにして別の犯罪に巻き込まれ,または,過度の飲酒により急性アルコール中毒など取り返しのつかない事態になってしまうことも少なくないため,未成年者の飲酒は絶対に控えるべきですし,同席している人が責任をもって飲酒させないように心がける必要があると考えます。

2018.06.06

有責配偶者について③~例外の要件について~

<ご相談者からのご質問>

 有責配偶者からの離婚請求が認められる要件についてはわかりましたが,どういった場合に,各要件を充たすことになるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

前回は,有責配偶者からの離婚請求が認められるための要件について,ご紹介させていただきましたが, 今回は,各要件の具体的内容や,どういった点が考慮されているのかについてご説明させていただきます。

 

1 はじめに(有責配偶者の認定)

 有責配偶者として,離婚の請求が原則として認められないことになるのは,ほとんどの場合が,不貞行為を行ったことを有責行為としてとらえられていますが,不貞行為を行った場合に限られるわけではありません。悪意の遺棄や,暴力,他のいやがらせ行為を行った場合等でも有責配偶者にはなりうる場合があります。

 

2 別居が長期間であること

 原則として,夫婦の同居期間と比較して別居期間が長期間であるか否かを判断することになります。また,夫婦双方の年齢も考慮要素となります。もっとも,これまでの裁判例をみてみると,別居期間が10年以上たっている場合等には,単純に同居期間と比較する余地もなく別居期間が長期にわたっていると判断される傾向にあるようです。したがって別居期間が10年未満という場合に,夫婦の年齢や同居期間等を総合的に考慮して,別居が長期間であるかを判断することになります。もっとも,有責性が認められない場合でも別居期間は2年~5年程度必要であると考えられているため,別居期間が5年以内の場合には,別居期間に関する要件が認められる可能性は少ないのではないかと考えています。有責配偶者となってしまった方が,ご相談に来られたときに「相手が離婚に応じないと主張してきた場合には,5年くらいの別居では離婚は認められないかもしれません。」とお伝えすると,非常に驚かれる方が多いです。

 

3 未成熟の子が存在しないこと

 未成熟の子(未成熟子)とは,一般的に経済的に独立(成熟)していない子のことをいい,未成年者と同視されるわけではありませんが,高校生の場合には,一般的に経済的に独立しているとは認められず,未成熟子と判断されることが多いと感じています。逆に,大学生については,働くことは潜在的に可能であるとして未成熟子にはあたらないと判断される場合もあります。また,大学を卒業した成人であったとしても,障害を抱え,監護が必要な子どもについては,未成熟子と同視することができるとして,離婚請求を認めなかった裁判例があります。

 

4 相手方配偶者,苛酷な状況に置かれないこと

 苛酷な状況の有無については,主として経時的な事情が考慮されることになります。具体的には,過去(判決に至るまでの間)の生活費の負担の有無・額,将来における経済的負担の有無,・内容(慰謝料,住居の確保などの離婚の際の給付の申し出),現在の相手方配偶者(離婚を拒否している配偶者)の生活や収入に関する状況等を考慮することになります。

 このように,有責配偶者からの離婚請求が認められるためには非常に困難な要件を充足させる必要があり,現実に弁護士の下に相談に来られる方で,上記要件を充足している方というのはそこまで多くはありません。そこで,次回は,有責配偶者とし離婚を実現するための方法についてご説明させていただきます。

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